【否定の否定】

【否定の否定】

国語辞書で「否定」の項目を引くと、おもしろいことがいっぱい書いてある。

【否定的】に続いて【否定的概念】【否定の否定】【否定判断】【否定論理積】【否定論理積回路】【否定論理和】【否定論理和回路】などの項目が並んでいて、どれを読んでもおもしろい。

こういう話になると、生まれて始めて階段のある家に住んで、最初に受けた感動のことを思い出す。

階段の上と下に、よくあるシーソー型のスイッチがあり、上でパチンと押すことで階段の照明をオンにして明かるくし、階段を下りきると、そこにある同じ形のスイッチは相対的にオフになる機能を持っているので、パチンと押して消灯する。上る時はその逆になる。

上下のスイッチは互いに否定し合う機能を持つように配線されていて、そのおかげで階段の照明を上でも下でも相対的にオン・オフできるのだ。どこにでもある原始的な配線だけれど子どもながらに「おもしろいなあ」と思い、やはり今でもおもしろいと思う。

 ここにひまわりの種がある。それを地面にまくと、芽が出てくる。やがて茎が伸び、茎は葉をつけ、夏になると大きな花が咲く。花びらが散ったあと、花の中央にたくさんの大きな種がみのり、年を越して春になると、この種がまた芽を出す。それがひまわりという有機体の生命過程である。 
 これを弁証法的に表現するとこうなる。種が否定されて芽となり、芽が否定されて茎や葉となり、茎や葉が否定されて花となり、花が否定されて種となり、こうして有機体はおのれにもどってきて生命としてのまとまりを得ることができるのだ、と。(長谷川宏『はじめてのヘーゲル』より)

上記引用は著者も言っているように、わかりやすさを優先して生命過程に当てはめているので持って回った言い回しになっているけれど、シーソー式スイッチと階段の思い出に妙に重なって思える。

否定の否定というスイッチをオン・オフしながら階段を上り下りして自分は大きくなった。その家の階段下にあったモルタルの塗り壁には、酒が飲める年齢になった僕が酔って足をすべらせて尻餅をつき、肘打ちで空けた記念の穴があいていた。辞書の【否定】の子項目に混じって【尾骶骨(びていこつ)】があるのが笑える。

2024年1月18日 千石図書館

否定の否定の弁証法により、通い慣れた千石図書館玄関脇で、昨年蒔かれた菜の花の種が芽吹いてもう花を咲かせている。

人もまた生と死という相対的なシーソー構造スイッチを持っている。「年々歳々花相似たり」と思うなら、歳々年々顔ぶれが入れ替わっていく人間もまた相似たりなのである。

冬のスイッチを否定して春のスイッチが入り、そうやって季節は永遠にめぐる。

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20 音オルガニートで

20 音オルガニートでセレナード「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」より 
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20 音オルガニートで菩提樹 Der Lindenbaum
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20 音オルガニートでロンドン橋 落ちた London Bridge Is Falling Down
イングランドの古いマザーグース・ナーサリーライム

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2023年11月号(通巻13号)まで公開中

 

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