◉ガス抜きと気力

2018年5月29日
僕の寄り道――◉ガス抜きと気力

ちょっと面白い本を何年か前に読んだ。中年のポッコリお腹を凹ませるための本で、ダイエットや運動なしでお腹を凹ませる方法が書かれている。買って、読んで、書いてあることを試してみたら本当にお腹が凹んだ。

その本が言うには、人は筋肉の力でお腹がポッコリ出ないように凹ませているだけで、その筋力が衰えるからお腹が出る。だから筋肉に力を込めてお腹を凹ませる運動を繰り返していると筋力が復活強化され、意識せずとも自然にお腹が凹んでいるようになるという。

ちょっと続ければベルトの穴の一つや二つ分くらいすぐに凹むというので試してみたら本当に凹んだ。なるほどと思ったらなんだか飽きてしまい、またポッコリお腹に戻っていたら、たいへんな風邪を引いた。長いこと熱が下がらず、食欲不振が2週間も続いたらげっそり痩せ、げっそり痩せたらお腹が自然に凹んだ。

痩せたこともあるけれど飛び出そうとするお腹の重みがある閾値(しきいち)以内に収まっていると、凹ませようとする筋力の方が優勢になって自然に凹んでいるものらしい。その証拠に意図的にお腹の筋肉を緩めてやると、ポッコリお腹を出すことができる。

ようは筋肉がお腹の飛び出しを抑えられる限界点である閾値を超えなければ、お腹はポッコリ飛び出さないのだと思う。ということを学んだので、そういう状態が保てる範囲内に収まるよう暴飲暴食を抑えている。

人の気力にも似たところがある。心のガス抜きなどというけれど、たまった思いを言葉にして放出してみると心が軽くなった気がする。

昔の人はガス抜き話を聞いてくれる人を探すのに苦労したけれど、インターネットの時代になって、不特定多数の他人を相手にそれが手軽にできるようになった。

インターネットを相手にした心のガス抜きには、匿名でやるか実名でやるかのふた通りがある。匿名なら愚痴から、文句から、差別発言やヘイトスピーチまで、なんでも手軽にできてしまう。匿名でなら容易にできるガス抜きだが実名では難しい。実名を名乗ると抜けるガスの質に制限がある。

他人に手厳しい批判を加えたり、誹謗中傷するのに都合の良いのが匿名であると同時に、絵に描いたような語る資格のない「正義」を振りかざすこともまた匿名者にはたやすい。自問する必要がないからだ。不正義は当然として、自問しないクソ正義もまた恐ろしい。

実名で語ることには、他人の不正義を糾弾するにも、理想的な正義を主張するにも、「自分の手もまた汚れていることを隠しての嘘」がつきにくいという閾値が存在し、心のガスが過剰に抜けないためのつっかえ棒になっている。(2018/05/29)


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