星座はめぐる

2017年9月23日
僕の寄り道――星座はめぐる

文部省唱歌『冬の星座』の歌詞はこんなふうになっている。

木枯らしとだえて
さゆる空より
地上に降りしく
奇しき光よ
ものみないこえる
しじまの中に
きらめき揺れつつ
星座はめぐる

幼い子どもには難しい歌詞で、「奇しき」が「くすしき」と読んで、神秘的であることを言い表していると理解したのは、歌を覚えてからかなりの年月が経ってからだった。同じように「しじま」が「静寂」であることを理解したのも、歌をよほど歌ったのちのことだ。

子どもにとって散文よりリズムで覚える韻文は覚えやすい。脳に損傷を受けたり、歳をとったりしても、韻文は散文より忘れにくい。高次脳機能に障害を負って言葉をうまく話せなくなった人が、突然すらすらと歌をうたって家族を驚かせたりするのもそういう理由による。

「ものみないこえる」が「もの / みな / いこえる」で「人が / 皆 / 休息している」という意味であるとわかったのちも、どうしても「もの / みない / こえる」という区切りで聴こえてしまうのがとめられない。おそらく幼い頃にそう聴いてしまったのだろう。

「ものみないこえる」は「人が 皆 休息している」という意味ですと説明できても、歌うときは「もの / みない / こえる」と歌っている。そう話すと笑われるのだけれど、バカだからではない。子どもっぽいのも、韻文的記憶が消せないのも、バカだからではないんだよ、ということを言いたくて仕方ない。

満天の星を見上げ、その中から選んだ星をつないで具象的な形を見つけ、それを忘れずに記憶し、子から孫へと語り伝え、他地域の人とも共有できてしまう、人間の不思議な能力の秘密を示しながら、いまもきらめき揺れつつ星座はめぐる。


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