【母と歩けば犬に当たる……107】

東海道みとり旅の記録
【母と歩けば犬に当たる……107】
 

107|カスピ海ヨーグルト
 
 一昨年の秋、膵臓がんの告知を受け入院治療のために上京するまで、母は冷蔵庫でカスピ海ヨーグルト(★1)を培養していた。
 またカスピ海ヨーグルトをつくってみたいと言うので、かつて種菌をわけあっていた仲間に尋ねてみたら、みんな死滅させてしまったそうで持っている人がいない。
 肥料も水もやってないから今年はもう駄目かもしれないと母が言っていた玄関脇のウツギ(★2)が咲いていた。
 新聞にケフィア(★3)の広告が出ていたのでこれはどうかと母が言い、使い切りの種菌を小分けしたものを買い続けるらしいと言ったら、母はそれでは嫌だと言う。お金が惜しいのではなく、無償で分け合い増やし合うことが楽しい。だからカスピ海ヨーグルトには不思議なおいしさがあったのだそうだ。
 「わかった、誰か持っていないか探しておくから」
と安請け合いして帰京したことを思い出した。誰か持っていないかな。(★4)

(2005年5月16日の日記に加筆訂正)

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★1 カスピ海ヨーグルト
長寿地域コーカサス地方から持ち帰られ、特殊な器具を使わなくても牛乳から手軽に増やせることからブームになっていたヨーグルト。
★2 ウツギ
アジサイ科ウツギ属の落葉低木で春から初夏にかけて白い花を咲かせる。
★3 ケフィア
コーカサス地方の伝統的醗酵乳。
★4 誰か持っていないかな
ネット上に書いたこの日記を読んで、カスピ海ヨーグルトを届けてくださった人が二人いた。そのうちの一人は清水の庵原在住で、一歳年下、椎茸栽培農家の奥さんだった。実家まで届けてくれるというので久能街道に出て待っていたら、小さな軽トラックを運転してやってきた。それから家族ぐるみの付き合いをさせていただいたが、母が他界した翌年の夏、肺がんが見つかって入院され、その翌年、帰らぬ人になられた。

【写真】 玄関先で咲いたウツギ。

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