【病院からの眺め】

【病院からの眺め】

 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2006 年 7 月 31 日の日記再掲

 

静岡県清水庵原町。
静岡県厚生農業協同組合連合会 JA 静岡厚生連清水厚生病院を、清水で暮らす人びとは短く「厚生病院」と呼ぶ。

郷里の厚生病院となぜか縁がなくて、母が
「ほら、厚生病院のとこだよ」
と言うと
「ああ、厚生病院のとこね」
といい加減な相づちを打って暮らしてきたけれど、実は厚生病院のある場所も建物も皆目思い浮かべることすらできなかったのである。

現在の厚生病院はもちろんのこと、1981(昭和 56 )年に現在地へ移転する以前、清水市田町にあった頃の厚生病院も知らないのだ。

伯母が脊椎の圧迫骨折で緊急入院したので、片付け帰省した 7 月 29 日、生まれて初めて清水厚生病院に足を踏み入れてみた。

■静岡県清水庵原町。清水厚生病院5階から眺める伊佐布方面(北西)。
RICOH Caplio GX 
 
母が他界してわが家の真新しい墓にはじめて納骨する際、叔父や従兄が「カロート」という言葉を盛んに口にし、「カロート」とは墓石の下にある納骨スペースを指すらしいことがわかり、それはどういう文字を当てるのかと聞いたが叔父や従兄はそれを知らなかった。ただ耳から聞いて「カロート」と覚えているのだという。

「カロート」で辞書を引くとフランス語の「calotte」をわが国では外来語「カロート」として用いることがあり、それはヨーロッパの聖職者がかぶっているお椀型の帽子を指す。そして形が似ているので納骨用容器も「カロート」と呼ぶのだという。だが仏教徒の叔父や従兄はその納骨用容器を入れる場所を「カロート」と呼んでいるので変だなぁと思っていた。

■清水厚生病院5階から眺める横砂方面(南東)。
RICOH Caplio GX 

民俗学の本を読んでいたら「唐人(かろうと)」という言葉が出てきて石室の意味なので「(そうか叔父や従兄が「カロート」と言っていたのはこの文字か)」と思い辞書を引いてみたら『新辞林』と『大辞林』は「かろうと」の読みで「屍櫃」が、『広辞苑』には「かろうど」の読みで「唐櫃」が採られていた。意味はどちらも「墓石の下に設けた石室」とある。

■清水厚生病院5階から眺める日本平方面(南西)。
RICOH Caplio GX 
 
病院は限りある人の宿命を収納する巨大な「カロート」もしくは「かろうと(ど)」と言えるかもしれない。病院に足を踏み入れるということは「カロート」もしくは「かろうと(ど)」に片足を突っ込むことである。

 ■静岡県清水西久保。清水厚生病院前から庵原通りを歩き静清バイパス東名清水インター近くの歩道橋にて。
NIKON COOLPIX S4

■静岡県清水西久保。静清バイパス東名清水インター近くの歩道橋から振り返って見た清水厚生病院。
NIKON COOLPIX S4

病院に病人を見舞って巨大な「カロート」もしくは「かろうと(ど)」に片足を突っ込み、その片足を抜いて再び生きる世界に戻りながらそんなことを考えた。

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