【母と歩けば犬に当たる……133】

東海道みとり旅の記録
【母と歩けば犬に当たる……133】
 

133|終わりのない夏の手帳 18 ― 一時的入院

 母が入院してしまって所在ない夜に、父が遺したアルバムをなんとなくめくっていたら、昭和29年清水みなと祭りの写真があるのに気づいた。
 そのページにあまり良い写真はないので見過ごしていたのだけれど、黒地の台紙に白いインクで「清水みなと祭りにて」と小さく書き込まれていた。
 昭和30年代あたりの清水は、市街地とはいえ夜は深く、濃い闇に覆われた町のあちこちに踊りの櫓(やぐら)が組まれ、地区それぞれに踊りの輪ができ、夏の夜の誘蛾灯のように人が群がっていた。
 父古澤信、昭和29年清水にて撮影。
 仙台生まれの父は清水に住んでいた母と文通で知り合い、結婚してから子どもが生まれてしばらくのあいだ清水で暮らし、清水の夏にみなと祭りを体験したのだった。
 「栄町」とか「不二見園芸」とか「木本(?)商店」とかの文字が見えるけれど、父が清水のどこにできた踊りの輪を撮影したのかはわからない。ここに写っている若い女性は70歳を過ぎに、少女たちももう60歳になるのだろう。
 昭和29年の8月1日は日曜日である。
これらの写真が撮影された1ヶ月後には息子が生まれるのに、父は大きなお腹をした母を家に残してみなと祭りの見物にでかけたのかしらと思ったら、母が写っている写真が1枚だけあった。
 8月4日、母の入院二日目。夕食を食べ終え、薬を飲んだ母を見届けて帰宅。午後6時半を過ぎると町は薄暗いので前照灯をともし、発電用ダイナモを回すため重くなった自転車のペダルを踏んで帰宅する。

(2005年8月5日の日記に加筆訂正)

【写真】 母と昭和二十九年のみなと祭り。

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