電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
【カレーうどんを食べるまで】
【カレーうどんを食べるまで】
(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2001 年 5 月 12 日の日記再掲)
何年か前、郷里の母親が上京した際、近所に旨い「カレーうどん」を食べさせる店を見つけたと大喜びで帰ってきた。おいしいから行ってみろとしきりに勧めるのだけれど、もたもたしているうちに有名店になってしまい、マスコミの宣伝もあって毎日行列ができているという。そうなると、行列してまで「カレーうどん」を食べる気もしないのでうっちゃっておいた。
妻とふたり近所まで出かける用事があり偶然思いだしたので、意を決して入ってみることにした。正午まで三十分もあるというのに長蛇の列。二十名も入れない小さな店なのでなかなか順番が回ってこない。
ガラス越しに背中が見える店内手前のカウンターに座っている常連風の若いデブが、カレーうどんをすすりながら隣りの女性に頻りに話しかけているのを見ていたら腹が立ってきた。
大体、麺類というのは急いで食べないとのびて味が損なわれるので、黙々と手際よくドンブリ → 口 → 胃袋、ドンブリ → 口 → 胃袋と送り込んでやるべきものなのに、そのデブは女にちょっかい出すのに夢中でうどんが延びているのか、いくらすすり込んでもドンブリからうどんが出てくる。もしかするとドンブリ → 口 → ドンブリ、ドンブリ → 口 → ドンブリと外の順番待ちの人々を焦らせるために、うどんのピストン運動をしているだけじゃないかとも思えてきた。
順番待ちの人々が苛ついているのを見て、隣りの中華料理店のおばちゃんが出てきて
「そっちより、こっちのほうが栄養があって旨いよ!」
と盛んに客の引き抜きを仕掛けてくるのがせめてもの退屈しのぎ。
四十分ほど待ってようやくカウンターに座らされ「カレーうどん」を注文。カレーうどん一杯 1200 円也。エビ天入りのやつは 1800 円。これだから商売というのは面白い。もし、順番待ちしなくて済む席数と、一般的な蕎麦屋の「カレー南蛮」の価格と、不快なピストン・デブが常連に居なかったら、この店はもっと繁盛するかというとそうでもない。疲労と散財と不快が豪華三点セットになっているからこそこの店の特異性は高まり、こうして毎日「上客」が行列するのだ。
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