電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
笑うな
2016年10月21日
僕の寄り道――笑うな
筒井康隆に「笑うな」という短編がある。タイムマシンをつくって過去へ遡り「直前の自分」をこっそり見に行き、見えない場所から眺めながら口を押さえて笑い転げる話なのだけれど、おかしくてたまらなくていまだに忘れられない。どうおかしいかは人それぞれ違うと思うのだけれど、自分はこうおかしい。
「直前の自分」は「未来の自分」からこっそり見られていることを知らない。自分に見られているとも知らない「直前の自分」は、「未来の自分」から見てひどく間が抜けているように見えるわけで想像しただけでおかしい。おかしいと思わない人にうまく説明できないのだけれど、おかしいだろうなと思っていたことが偶然現実に起こった。
外出しようと集合住宅の玄関に行ったら、配達に来た郵便局員がインターホンを操作して届け先の部屋を呼び出し、オートロックの自動ドアを開けてもらおうとしている。何号室だろうと思って表示を見たら自分の部屋の番号なので、ドアに近づいて解錠し
「ちょうど良かった、その荷物うちに届いたものです」
と言ったら、配達員がにっこり笑って入ってきた。
健康保険証を持っていたので本人だと証明して受け取り、部屋に帰ったらインターホンの着信履歴ランプが点滅している。このインターホンはどんな人が訪ねて来たかビデオ録画で残されるようになっており、不在時でも誰が来たかが分かる仕組みになっている。ということはさっきのやり取りが映っているはずなので再生してみた。
配達に来た郵便局員がインターホンを操作して届け先の部屋を呼び出し、オートロックの自動ドアを開けてもらおうとしていたら、突然ドアが解錠されて開き、中から大柄な男が近づいてきて
「ちょうど良かった、その荷物うちに届いたものです」
と言い、配達員がにっこり笑って入って行った。大柄の男は未来の自分に見られるなどと想像もしていないわけで、やはりひどく間抜けに見えた。
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イイね!
確か外部メモリに書き出せるはずなので、見ていただけるかもしれません。配達のお兄さんのアクションが素晴らしいです。