電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
【月曜日の時計】
【月曜日の時計】
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(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2004 年 10 月 5 日の日記再掲)
月曜日午前 9 時ちょっと前、実家に電話して母の生存を確かめ、午前9時半過ぎ、郷里にある看護・介護ステーションに電話してケアマネージャに緊急の訪問看護・介護をお願いする。
午前 10 時過ぎ、部屋の中で寝ていた母をかかりつけの医院に運んで点滴中だとの電話がケアマネージャから入ってひと安心。母に確認したら本人の意志は入院せずにあくまで在宅なので、これから毎日医師と看護師が訪問して看護する手はずを整え、できる限りの手段を講じて手助けをするけれど、これからは寝ている時間の重要性が増すので手始めに介護用の電動ベッドを入れたらどうかという話になり、是非お願いしたいと答える。
今週は仕事を休んで郷里清水に長期滞在で介護をすると宣言したので、得意先や友人にメールを書き、納品すべきものの手配を済ませ、大学病院までタクシーを走らせ、午後一番で難病の検査入院のため上京する郷里の従妹に付き添い、入院即始まった検査に立ち会う。
一刻も早く家族と話したいという医師の話を廊下で聞き、叔母が気を失うように倒れ、ナースステーション脇で看護師の応急処置を受ける。「老いたりとはいえ叔母さんはまだ一家の太陽なのだから、家族の真ん中で一番希望を持って生きる人じゃなきゃだめだ」と体をさすりながら話しかけていたら泣きたくなった。両親の不仲、両親の勤め先の倒産、貧しい暮らしの中、小学校入学間際になっても学用品もそろわなかった僕に、希望を持って生きろと励ましてくれた叔母なのだ。
午後4時、郷里にとんぼ返りする従弟と叔父夫妻の車に同乗して東名高速を清水に向かう。湾岸方面の首都高から東名に入るのは初めてであり激動の一日の閉幕に見る美しい夕景が胸にしみる。激しい雨の中、実家に帰り着いたら午後 7 時ちょうどになっていた。
部屋の明かりもつけずに寝ていた母だが、明かりをつけてみると真新しい立派な介護用ベッドに寝ていて驚く。食卓には見事な介護食も用意され、ヘルパーさんたちがやってきてあり合わせの材料も使ってあっという間に用意してくれたのだという。食器も料理道具もどうして在処がわかるのだろうと感心したという。
それでも食事に手をつけておらず、「食べよう、少しでも食べないと体力がもたないよ」と声をかけると「食べられないだよ…」と泣かれて逆効果なので、ベッド脇に座り一人缶ビールを 3 本取り出し、叔母がサービスエリアで買ってくれた甘くて大きなメロンパン 2 個を食べながら平らげ、自分の健康さに感謝しつつ、飲食の喜びをデモンストレーションする。秋葉原駅前の実演販売みたいだ。
豪放な健康さのオーラが達したのか、「お母さんもご飯を食べて薬を飲むよ」と電動ベッドの背もたれを器用に操作して起き出す母は、介護ベッドのコマーシャルで「パラマうんと元気」になっている老人タレントのようであり、これはまだまだ生きられるな、と確信する。
激動の一日が終わり、夜が更けるにつれ雨脚も強まり、それぞれの人間が目を閉じる深夜となる。そこにあるのは安堵であったり、絶望であったり、虚無感であったり、徒労感であったりし、生きられる残された時間を計るために時計があるなら、きっとそれぞれに回転する速さが違っている。
夜が明け、母はしっかり食事を取り、ケアマネージャの訪問を受け、叔父の見舞いを受け、医師と看護師の訪問看護を受け、大分調子が出て来た。清水は終日雨であり、革靴では外出もままならない。母の友人の久保山さんは頻繁に母を見舞ってくれるが、親戚でもないのに同じ苗字なので靴は入江商店会の「クボヤマ靴店」と決めているという。よい話に感動したので「しみずフードセンター」に買い物に出たついでにスニーカーを一足買ってみた。「すぐに履くですか」と聞くので「はい」と答えたら箱を捨ててくれた。清水のゴミ事情に通じたサービスが暖かい。
「クボヤマ靴店」向かいの「いちろんさんのでっころぼう」さん店頭にはいかにも地元農家が栽培したらしい鄙びていて滋味のありそうな野菜や果実が並んでいて楽しい。手前は「極早生」奥は「ぬき柿」。
[Data:MINOLTA DiMAGE X20]
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