【旅の人】

2020年6月15日

【旅の人】

富山では県外から富山県に移り住んで間もない人を「旅の人」と言い、発音は標準イントネーションでいう「足袋の人」に近い。あの人は旅の人だから、という言い方の意味することが、富山で初めて聞いてもすんなり理解できたのは、土地に未だ根づかない人を旅人ととらえる感性が日本人に普遍的だからだろう。

徳冨蘆花は現在の熊本県水俣市出身の明治人だが、いまは蘆花恒春園となっている世田谷の家に暮らす自分が、村を愛しながらも村人の役割を担えないわがままさを、
「儂は村の人にはなり切れぬ。此は儂の性分である。東京に居ても、田舎に居ても、何処までも旅の人、宿れる人、見物人なのである。」(『みみずのたはこと』)
と書いている。

人は自分を根無草にたとえるけれど、蘆花は「人間にとって根とは何か」を強く意識できる人だったのだろう。「あの人は旅の人だから」と言う富山の人たちもまた「根」を強く意識する県民性であるような気はする。持ち家率日本一の基盤となる家族意識の傾向も、たぶんそれに裏打ちされている。

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