殺し屋


Z9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

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NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を毎週楽しみにしている。
さすが三谷幸喜氏脚本だけあり、面白くて見応えがある。
氏の作品は独特の軽妙な語り口が特徴であるが、今回の物語は権力の座を巡る殺し合いという重いテーマを扱っている。
随所に散りばめられたユーモアと、血生臭い殺し合いが絶妙にブレンドされており、今までに無いブラックな面白さを味わうことができる。

野心を持たず平和な暮らしを望む若者であった主人公の北条義時(小栗旬氏)が、否応無く巻き込まれた権力闘争を勝ち抜き、武家の頂点にまで上りつめていく姿が描かれる。
必要ならば、たとえ相手が子供でも容赦なく殺してしまう・・という時代で、穏やかな性格であった主人公も、その渦に飲み込まれていく。
親しい間柄でも、将来自分の敵になり得るとなれば、先に裏をかいて消してしまわないと、逆にいつか自分がやられてしまう。
ネット上の感想でも、だんだんと表情の変わっていく主人公に対し、ダークサイドに堕ちた・・などと言う人もいる。

物語の中に、梶原善氏の演じる善児という架空のキャラクターが出てくる。
いかにもその辺にいそうな、表情に乏しい無口なおじさんなのだが、主から命じられたままに相手を殺していく殺し屋である。
その腕は確かで、後ろからそっと近付き、刃物で首を切って殺害するのが得意技である。

この人物が出る回では、誰か主要な人物が死ぬことになるので、クレジットに善児の名前が出るたびに背筋が凍る・・という人も多い。
殺しが天職のような男で、特にこの時代では重宝する存在なので、たとえ自分の雇い主が失脚して殺されても、次の権力者によって雇われる。
雇い主に命じられれば、殺す対象が自分の前の主でも、躊躇せずに首を掻き切る。
精神面でどこかが欠落しているとしか思えない男だが、こういう時代だからこそ、実際に手を下す汚い仕事をする人物が必要とされたのだ。

最初にこの人物が出てきた時、どこにでもいそうな地味で寡黙なおじさんなので、早々に殺されて消えると思われた。
しかもいきなり年端のいかない子供を川遊びに連れて行き殺害する・・という役であった。
明らかに「悪」の存在なので、往々にして正義が描かれるドラマでは、成敗されて然るべきキャラクターなのだ。
ところがこの厄介な男が、重要な登場人物を次々に殺す役を担い、しかも当人は毎回生き延びて次の主人に仕えていく。

視聴者も、愛着のあるキャラクターを簡単に殺されてしまい、次第にこの男に対する憎悪が増していく。
そして、いつこいつが殺されるのだろう・・という期待(?)が高まっていく。
そういう不穏な感情を視聴者に持たせること自体が、一種のブラックユーモアになっているところが上手い。
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