廃棄


Z9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

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ある大手得意先から電話が来た。
いつもの担当の人だが、声が上ずっている。
緊急でお願いしたい事があるという。

今から製品を発注して、来週の頭に北海道に到着させられないかという。
しかし特注サイズで当然在庫は無く、一から作らなければならないので、それは無理だと答えた。
通常は製造に2週間以上かかる製品である。
増してや北海道に届けるとなると、輸送に2、3日かかるので、明日か明後日にはこちらを出荷しなければ間に合わない。
到底無理な話である。

引っかかったのは、このような事態に陥った原因である。
中国に発注した荷物が、急遽入らなくなったのだという。
来週早々に検査があるため、代わりになるものがどうしても必要になったらしい。
恐らく検査の時点で現物がなければ、大口の受注がダメになるか、ペナルティを科せられるのだろう。

御社には失礼ではありますが・・と前置きした上で、担当者はこう続けた。
その日の検査さえクリアできればいいんです。
とりあえず形だけでもあればいいので、中身は手を抜いて、がらんどうでも構わないんです。
その検査が終わったら、もう不要になり「廃棄」するものなので・・・

廃棄する商品を作れ・・と言われて、喜んで作るメーカーなどない。
その時点で協力する気は完全に失った。
まあそれ以前に、そんな無理なスケジュールに対応すること自体が土台無理な話である。
しかも中国製の商品の代用なんて・・・

相手の言い方が悪くて、ちょっとむっとなったが、その担当者は知り合いで、むしろ正直に事実を伝えてくれたのだろう。
廃棄する事は内緒にして、メーカーを上手く利用する方が得策である。
担当者は、中国に大量に発注したものが遅れて入ってくるので、協力してくれても、その見返りに貴社から買うことにはならない・・と知らせようとしたのだ。

もう少し早く動けば何とかなったかもしれないが、こう日にちが無くてはどうしようもない。
恐らく中国の会社からは、納期に間に合うと言われていたのだろう。
それがギリギリになって「やっぱり無理でした」という事になった。
いい加減な対応はいつもの事だが、コロナの影響で世界的に生産も輸送も滞っており、海外からの荷物の到着が何ヶ月も遅れるのは日常茶飯事になっている。

ウチに頼めば何とかしてくれるかも・・と思ったのだろうが、物理的に無理なものは無理である。
対応できないことを伝えると、そうですか・・・とガッカリして担当者は電話を切った。
恐らくこれから他のメーカーにも問い合わせてみるのだろう。

電話の向こうがパニックに陥っているのが分かった。
えらいことになった、どうしたらいいんだ・・という空気が伝わってきた。

彼らは自分たちの手でものを作るわけではなく、手配して人にやらせることが仕事の人たちだ。
かつてはメーカーとして製品を製造していたのだが、それを止めてから時間が経っており、今の社員のほとんどは物を作る能力がなく、単なる企画屋や調整屋になっている。
基本的にものを右から左に移すだけなので、納期に間に合うかどうかが仕事のすべてで、それに失敗すると自分の首が危うくなる。
自分たちで作れば、こんなに慌てなくても済むのに・・と思うが、一度製造から離れてしまうと、そう簡単には戻ることは出来ないのだろう。
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