蛇行


FUJIFILM X100V

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高速道路から下りて、T字路に差し掛かった時、前の車の動きがおかしいのに気付いた。
一時停止して左折した後、ふらふらと蛇行しはじめたのだ。
対向車線に飛び出したかと思うと、また自分の車線に勢いよく戻る。
僕もそこで左折したので、否応なくその後ろについて行くことになった。

黒い軽自動車だ。
最初は室内に虫か何かが入り込んで、外に出そうとしているのかと思った。
或いはドライバーの体調不良だろうか・・・

しかしかなり激しい勢いで、ガッガッと右へ左へと蛇行する。
あの強い動きは、体調不良でふらついているわけではないだろう。
精神的におかしい人のものだ。
気持ちが昂るのにリンクさせて、車を左右に振っているのだ。

その先にある交差点を右折しようとしている。
僕もそこで曲がるので、どうしようかと思った。
しかし曲がらずにまっすぐ行くと、かなりの遠回りになってしまう。
やむなく僕も右折して、なるべく距離を置いて後についていった。

そこから先は、さらに蛇行が激しくなった。
突然我慢できなくなったように乱れた走り方をする。
不安定な精神状態が、そのまま運転に表れている。

運転席の窓を開けており、そこから片腕を出している。
そのうちその腕を、空中に向けて何かを殴りつけるように、激しく突き出しはじめた。
これは完全にいかれている。
狂人というより、何か薬のようなものをやっているのではないか・・・
片腕を何度も空に突き上げながら、車を左右に蛇行させて走っていくのだ。

その先の交差点を僕は右折する予定であった。
しかし交差点の信号は赤で、このまま行くと、タイミングからいって停車せざるを得ない。
あのドライバーが降りてきて何かやらかす可能性は高い。
後ろを走っている僕を意識しているような気もする。

このままでは危険だと思い、僕は右側にあった細い道にサッと曲がった。
そのまましばらく進んで、突き当りを左折して、先ほど右に曲がろうと思っていた道に戻ろうと思ったのだ。
とにかくあの車から離れなければならない。
いきなり僕が曲がっていなくなったので、あのドライバーも攻撃目標を失って戸惑っただろう。

なるべくゆっくり走って、もとの道と合流するところまで来た。
一時停止して様子を見ていたら、よりによって先ほどの黒い軽自動車が目の前を通過した。
あの車も同じ方向に曲がったのだ。

通過する際にドライバーがジロッとこちらを見た。
薬中のヤンキーみたいな男かと想像していたら、意外にもメガネをかけた普通そうに見える男であった。
秋葉原の殺傷事件の犯人を思い出した。

完全に目が合った。
あっ、ここにいたか、という顔になった。
しまった。
かえって刺激してしまったか。

だからと言ってそのまま反対方向に曲がると、意識して避けているのが相手に分かってしまい、逆に怒らせる可能性もある。
やむなく僕も右折してその道に合流した。
なるべくゆっくり走り距離を開けた。
黒い軽自動車は、相変わらず蛇行しながら前を走っていく。

突然男の車が脇にそれる細い道に入った。
かと思ったら、何を思ったか、曲がってすぐに停止してしまった。
頭だけ突っ込んで停まっている状態だ。

後ろを走っている僕の車は、その横を避けながら通過していくしかない。
追い抜かせておいて、後ろから攻撃を仕掛ける気だろうか。
あるいはいきなり後退して、ボディをぶつけてくる可能性もある。
一瞬そう思ったが、そのチャンスを与えまいと、逆にアクセルを踏み込んで、一気に加速して横を通り過ぎた。

追ってくるかと思いミラーを確かめたが、男の車は停止した状態のままだ。
頭の機能が停止してしまったのか、あるいはふと我に返ったのか・・・
しかし僕は一刻も早くその場から離れたくて、そのまま加速を緩めずに走った。
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