ジェシー・ジェームズの暗殺


昨晩見た映画。素晴らしい作品で今も余韻が残っている。
今日は他の映画を見に行く予定であったが、余韻を消してしまうのが惜しくて中止した。

ジェシー・ジェームズはオールド・ウエストを代表する無法者である。
北部に対し深い憎悪を持つ民衆が、その象徴ともいえる列車に対し強盗を仕掛けるジェームズ兄弟一派の行動に共感を抱き、義賊として祭り上げられ英雄となった。

彼が部屋の壁の絵を直そうと後ろを向いた時、裏切った部下に背後から撃たれて死んだことは、西部劇を知る者なら常識であるし、この映画でもその瞬間へと続く緊張感が大きなポイントとなる。
それはOKコラルの決闘や、ナンバー10酒場でヒコックが撃たれた日のように、極めて重要な歴史的瞬間なのだ。
その知識がないと、この映画が与えてくれるため息が出るような高揚感は、多少薄れるかもしれない。
しかし現代のハリウッドを代表する役者や作家たちの多くが、恐らく西部劇で育ちそこに回帰する志向を持つとことを考えると、西部劇を知らずして彼らの心理を理解することは難しいのではないかと思える。

ジェシー・ジェームズを扱った映画の代表格というと、僕の世代にはウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」だろう。
これは今でも時折見たくなる異色作である。
しかし過去のすべての作品は、いわゆる「西部劇」の枠から出ることの出来なかった作品だ。

そういう作り方が、今や通用しなくなってしまったことが西部劇の悲劇であり、作られる本数が激減した理由である。
しかし、この映画「ジェシー・ジェームズの暗殺」は、見事に「現代の西部劇」のあり方を表している。
徹底した歴史的な検証に基づくリアリズム、そこに映画としての微妙な心理描写や高度な映像美が加わることで、素晴らしい作品に仕上がっているのだ。

ジェシーに銃弾が放たれた時の、あの歴史的瞬間に立ち会ったような衝撃・・・
それが完全に真実の通りとは言えないとしても、まるで真実を目の当たりにし、長年の疑問が解けたような興奮・・・
単に役者の演技の素晴らしさだけではなく、その瞬間を再現しようとした熱い心に、ベネチア映画祭をはじめとする幾多の賞がもたらされたのだろう。
つまり世界の映画人は西部劇を知っているということだ。

ブラッド・ピットは長年にわたり、この原作の映画化を望んでいたという。
実際彼の演じるジェシー・ジェームズはなかなか見事だ。
この演技は、それだけ長い時間をかけて頭の中で熟成されたからこそ出来るものだろう。
長い間、有名なジェシー・ジェームズの写真から我々が勝手に作り上げたジェシーに対するイメージ・・・それを、実際にはこういう人間だったんだよ・・と明かされるようなショックを受けた。

そしてブラッド・ピッドと同等に素晴らしいのは、事実上主演と呼べるロバート・フォードを演じたケイシー・アフレックだろう。
その素晴らしさは見ればわかる。

映画は暗殺者ロバートのその後の人生をも追う。
この場面は非常に重要だ。
西部のヒーローと呼ばれるた人物のうち、殺されて命を落としたもの以外の多くは、この映画で描かれるように、劇場で自らを演じるといった哀れな後半生を送る事になった。
時代はもう彼らの様な殺人者を必要としていなかった。
彼らは金儲けしか考えなかったダイム・ノベルの作家たちがでっち上げた英雄であり、大衆にとっての見世物に過ぎず、そして名を売ろうという暗殺者から逃げて回る生活を余儀なくされた。
現代の西部劇はその点の描写を避けて通れない。
何となれば勧善懲悪の能天気な西部劇は、ダイムノベルの延長に過ぎないのだ。

「ジェシー・ジェームズの暗殺」は、何といってもカメラが素晴らしい。
あの真っ暗闇から汽車が近付いてくるシーン。
ガラス越しにジェシーを見つめるロバートの、ガラスの表面のしわに映りこむ美しい外光。
思わず見入ってしまう。
フォーカスを外した部分のレンズの色収差が気になって仕方が無かったのは、D3を買ったが故か(笑)

銃の指導はかの天才早撃ちガンマンのセル・リード。
彼は最近ハリウッド映画の殺陣師として復活している。

僕の専門とするガンベルトにも触れておこう。
映画の中で登場するガンベルトの多くは、カリフォルニア・タイプとカートリッジ・ベルトの組み合わせでクロスドロースタイルでの使用が多い。

ジェシーのガンベルトはレザー・アーチストのウィル・ゴームリー氏が作ったもので、実物は黒かったそうだが、恐らくブラッド・ピットの服装と同化して目立たなくなるのをふせぐために茶褐色に作られた。
ベルトのカートリッジ・ループは通常より幅が広いのが特徴で、銃弾をすっぽりカバーするようになっている。
実物の写真を手本にしているから当たり前だが、ホルスターのカービングは当時のカリフォルニア・タイプに施された典型的なスタイルをよく再現しており、特に映画の中では薄暗い場面でひいての映像が多いので、なかなか品質が高そうに見える。

だが氏の腕はガンベルト製作者としては中堅といったところだ(笑)
実は十数年前に彼にガンベルトを作ってもらったことがある。
日本人からの依頼は初めてだったようで、彼から日本で売り込んでくれないかと頼まれた。
仕方なく御徒町でショップを運営していたT氏に見せたが、この品質では無理と断られた。
こんなに出世するとはね(笑)
今T氏がいたら、ジェシー・ジェームズ・ガンベルトとして高く売り出すところだろう(笑)

ところで一番重要な場面で、ジェシーはこのガンベルトを外して椅子の上に置き、賞金のかかった自分の首を狙っているとわかっている手下たちの前で無防備に背中を見せる。
なぜそんな自殺ともとれる行動に出たのか。
これは歴史家の間で、今でも議論を巻き起こす場面だ。
映画の中でも、ジェシーが撃たれるとわかっていながら、そういう行動をとったように描かれている。

真実は常に論理的に進むとは限らない。
後からは理由の付かない行動を、人間は往々にしてとる・・ということだろう。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )

不作の日


カメラを持って家を出たが、Zoffでメガネを作って床屋に行ったら、それで一日が終わってしまった。
レンズはツァイスのディスタゴン25mmF2を持って出かけたが、ほんの数枚しか撮影できなかった。
途中から、もう今日はいいや、という気分になって、撮る気を失ってしまったのでした(笑)

D3 + ZEISS DISTAGON 25mm F2.8 ZF
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

RRS



Really Right Stuff社のD3用L型プレートが数日前に届いている。
発注してからけっこう時間がかかった。
注文が殺到したのだろう。

まだ使用していないが、いつものカッチリとした作りだ。
重量は軽いが、大きいので少々邪魔になりそうな感じ。
普段は装着しないで、三脚や一脚を使用する撮影の時だけ取り付ける予定。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )