酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「最後の一滴まで ヨーロッパの隠された水戦争」~怒りは日本に伝播するか

2019-04-03 21:53:31 | 社会、政治
 平成の30年は<日本が壊れた時間>だが、俺の内側で和が浸潤し、皮膚を食い破らんばかりだ。かつて荒畑寒村が自任した土着的左翼の心情に、俺は近づきつつある。ありふれた〝先祖返り〟で、東日本大震災と福島原発事故、妹の死が流れを加速させた。

 無常観、恥の意識、和の精神といった美徳が剥ぎ取られてしまったことに痛みを覚えつつ、桜、紫陽花、花火、紅葉に親しんでいるが、感興を抱くのが難しくなってきた。自撮り→SNSのアリバイ文化に違和感を覚えながら、中野通りで桜を鑑賞した。還暦を過ぎると死の影が重なる桜の刹那の儚さは権力に利用され、多くの若者が散華に導かれた。

 安倍首相は第2次政権下の6年で、日本をアメリカ51番目の州にした。貧困は拡大し、<板子一枚下は地獄>を実感している方も多いだろう。「美しい国」どころか、環境破壊を確実にもたらす水道法改正について考える映画上映&トークイベント(3月30日、ソシアルシネマクラブ主催)に足を運んだ。

 「最後の一滴まで ヨーロッパの隠された水戦争」(17年、ヨルゴス・アヴゲロブロス監督/ギリシャ)上映後、<誰のための水道民営化>と題されたトークセッションに移る。日本版製作に携わった内田聖子氏(PARC共同代表)、辻谷貴文氏(全水労書記次長)、三雲祟正氏(新宿区議、弁護士)、奈須りえ氏(大田区議)がパネリストを務めた。

 日本の水道は漏水率が極めて低く、品質は高い。民営化の必要は皆無だが、麻生財務相は2013年、ワシントンでジャパンハンドラー(CSIS=国際問題研究所)の集まりで「日本の水道は全て民営化する」(外資に売り渡す)と発言した。「ウォーターゲーム」(18年、吉田修一著)を併せて読めば、水道法改正法の先にあるものが浮かんでくる。

 「最後の一滴まで」では、①パリとベルリンが水道事業を公営に戻した経緯、②民営化失敗のツケを住民が負担させられるポルトガルの自治体、③債務危機を理由に水道民営化を迫られるギリシャ、④国民投票で水道民営化を否決したイタリア、⑤健全に運営されている水道事業の一括民営化をEUに求められたアイルランドの状況が、順次リポートされる。

 キーワードは<トロイカ>で、アイルランドの民営化反対大集会でも「打倒トロイカ」のプラカードが林立していた。ちなみに、活動家が纏っていたのは黄色のベストで、反マクロン大統領を掲げるパリのデモ隊と同じ装いである。トロイカとは欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)で構成され、3者の意を受け各国に伝えるのがのが、グローバル企業と癒着する欧州委員会だ。

 EU内におけるヒエラルヒーが本作に窺える。トロイカ代理人と思しきマクロンはギリシャに圧力をかけ、同国民の怒りを買っていたが、前任者オランドを継承しただけだ。武器商人という点で何ら変わらないオバマ→トランプと構図は同じである。ドイツの閣僚も国内での柔らかい仮面とは別の黒い素顔を、ポルトガルやギリシャで見せていた。大国指導者を操る司祭が背後で蠢いている。

 辻谷氏は「最後の一滴まで」に描かれている通り、民営化によってサービスか低下し、水道代が高騰すると予測していた。利潤追求が最優先されるからである。<民営化により非効率な役所仕事が改善される>がまやかしであることは先進国の常識になってきたが、日本国民は洗脳から解けない。だから、麻生財務相の〝売国発言〟が看過されているのだ。

 三雲、奈須両氏はPFIに言及していた。PFIとは<民間資金を利用し、公共サービスの提供を施設整備に委ねる手法>で、水道民営化ともリンクしている。1992年に先立って導入された英国では失敗と評価されているが、日本で活用されたのは1999年以降だ。20年も前から民営化に向けた道筋が用意されていたことに今更ながら驚いた。

 令和発表当日、「白鳥・三三 両極端の会」(紀伊國屋ホール)を堪能した。オープニングトークの出囃子が「君が代」というのも毒を吐く二人らしい。「令和はまだピンとこないが、三遊亭とか柳家の次にくると妙に据わりがいい」と話していた。大騒ぎしたメディアと比べ、冷ややかな二人の方が遥かにマトモに思えた。
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