酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「パルプ・フィクション」~映画で遊ぶタランティーノ

2023-08-15 22:38:27 | 映画、ドラマ
 藤井聡太竜王への挑戦者が同じ年生まれの伊藤匠七段に決まった。合わせて41歳のタイトル戦で、棋界は世代交代が進みそうだ。伊藤は小学生の頃、藤井を負かしたことがあり、その時に藤井が号泣したのは有名なエピソードだ。20歳前後の有望棋士も多く、棋界は上げ潮に乗っている。朝日杯では三井住友トラストグループが特別協賛に名乗りを上げた。

 世間だけでなく、俺の中でも戦争は風化している。俺が生まれた1956年の「経済白書」は<もはや戦後ではない>で結ばれた。経済復興をもたらしたのは朝鮮戦争勃発による<朝鮮特需>と、産業構造の変化による<神武景気>である。隣国での戦争に加え、1960年代の<ベトナム戦争特需>も高度成長に寄与した。きょうは79回目の敗戦の日だが、岸田政権は殺傷兵器の輸出解禁に向けた議論を加速させている。日本は戦争と縁が深い国のようだ。

 リバイバル上映された「パルプ・フィクション」(1994年、クエンティン・タランティーノ監督)を新宿ピカデリーで見た。約30年ぶりの再会である。上映初日でもあり、フルハウスの盛況だった。「CSI:科学捜査班シーズン5」24&25話、脚本を担当した「トゥルー・ロマンス」を含め10作近く見ているが、最も印象に残るのが「パルプ・フィクション」だ。

 公開当時、暴力シーン満載、時系列をシャッフルした作りが斬新と騒がれたが、現在は自然に入り込める。W主演はヴィンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)の殺し屋コンビだ。2人のボスで、LAの闇社会を取り仕切るマーセルズ(ヴィング・レイムス)は愛妻ミア(ユマ・サーマン)の接待をヴィンセントに依頼する。

 タランティーノの作品の魅力のひとつは台詞だ。ユーモアと品のなさが特徴で、本作ではヴィンセントとジュールスの会話が回転軸になっている。ギャングたちを色めき立たせる事件が起きた。落ち目のボクサーのブッチ(ブルース・ウィルス)がマーセルズの八百長の指示を拒み、相手を殺して賭け金を奪ってしまう。ブッチを逃がす女性タクシー運転手(アンジェラ・ジョーンズ)の個性が際立っていた。

 ご覧になった方はおわかりだと思うが、真面目に批評するのは相応しくない。タランティーノは映画で遊ぶインディーズの初心を忘れず、カンヌとハリウッドを席巻した。冒頭とラストに登場する不良カップルの青年パンプキンを演じたティム・ロスはタランティーノの盟友だし、サミュエル・L・ジャクソンは次作「ジャッキー・ブラウン」の助演男優だ。ユマ・サーマンは「キル・ビル」2作の主演女優である。〝身内で楽しもう〟が基本精神で、その辺りは公開中のドキュメンタリー「クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男」に描かれているかもしれない。

 タランティーノはクイズを出すような気分で映画を撮っているのだろう。本作に限らず、作品はLA観光案内の趣がある。それぞれのシークエンスにもタランティーノのサービス精神がちりばめられており、ヴィンセントとミアが踊るシーンには誰しもトラボルタが一世を風靡した「サタデー・ナイト・フィーバー」を重ねてしまう。ブッチの回想シーンに登場するクーンツ大尉はハノイで抑留されていたという設定だが、演じたのがクリストファー・ウォーケンとくれば「ディア・ハンター」を思い浮かべるのは当然だ。

 ヴィンセントが手にしている大衆向けの犯罪小説(パルプ・フィクション)だ。一方でジュールスは殺人前に旧約聖書エゼキエル書25章17節と引用元を明かした上で、正しき者、悪しき者、迷える子羊うんぬんと警句を発する。ジュールスは奇跡的に相手の弾を食らわなかったことで悟りを開いたかと思ったが、実は千葉真一主演作のアメリカ版冒頭からパクったというのが真相らしい。

 タランティーノは日本映画オタクとして知られるが、「パルプ・フィクション」でもブッチが日本刀を振り回すシーンに嗜好が現れている。俺が気付かない伏線やトリックもたくさんあるはずで、音楽の使い方など映画の楽しみ方を教えてくれる作品だった。
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