酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「猫はこうして地球を征服した」~第三の本能を身につけた悪魔

2019-02-22 11:51:46 | 読書
 イスラエルによるジェノサイドで深刻な人道危機に陥っているガザ地区から3人の画家が来日し、講演を行った。NHKは「ガザは世界最大の監獄」と報じている。世界標準と真逆なのは、国連でイスラエル制裁案をことごとく潰してきたアメリカだ。

 前々稿で記したが、米共和党幹部がイスラエルを批判したイスラム系女性下院議員2人を脅した。公民権運動のシンボル、アンジェラ・デイビスにも火の粉が降りかかる。BDS(イスラエルボイコット)を支持していることにユダヤ系団体が抗議し、人権賞授賞を取り消されたが、国際的な批判を浴びて旧に復した。

 全てを<敵・味方>の二元論で片付ける方は、俺を<反米・反ユダヤ主義者>に分類するだろう。だが、それは全くの見当違いだ。デイビスに連帯の意思を表明したのも、反トランプを明確にするリベラル・左派を支えているのもユダヤ系市民だ。イスラエルが国連決議に則り、パレスチナとの共存に舵を切ることが、欧州で浸透しつつある反ユダヤ主義を沈静化する端緒になるのではないか。

 多様性、共生に価値を見いだす俺は、〝反○○〟〝××派〟の枠組みに囚われることを忌避する。〝反イヌ、ネコ派〟に縛られているのは、犬に吠えられ、猫に甘えられてきた半世紀の体験が蓄積されているからだ。

 猫の日(2月22日)に寄せて、「猫はこうして地球を征服した~人の脳からインターネット、生態系まで」(アビゲイル・タッカー著、インターシフト刊)を読んだ。データ満載の研究書だが、自身と猫との来し方を交え、ファジーに感想を綴りたい。

 猫ブームはヒートアップする一方だ。「盗まれた顔~ミアタリ捜査班」(WOWOW)、「モンローが死んだ日」(NHKプレミアム)で猫は名脇役だったし、前稿で紹介した「眠れる村」でも奥西元死刑囚の妹さんが猫と交遊していた。想田和弘も観察映画「牡蠣工場」と「港町」で猫を語り部的に用いている。

 俺は長年、猫と親しんできた。小学生の頃から、実家で猫を駆ってきたし、大卒後の引きこもり時代、部屋に住み着いたシャムと三毛のハーフのために、自身の食費を削っていた。40代になってウオーキングを始めたが、折り返し地点の哲学堂公園では、ホームレスのおじさんたちに交じって野良猫に餌をやっていた。現在の仲良しは帰省時に交流する従兄宅のミーコである。

 本書は猫愛度を測るリトマス紙でもあった。「あなたの愛する女は恐ろしい罪人。見限った方がいい」と言われたら、俺はどうする? 本作を読む限り、罪人≒猫だ。大型ネコ(ライオンやトラ)の威厳と獰猛さは語り尽くされているが、ソファに丸まっているイエネコが、大きい親類以上に凶暴な肉食獣であることに〝猫愛者〟は気付かぬふりをする。

 猫の悪行で甚大な被害を受けているのはオセアニアだ。オーストラリアでは哺乳類の天然記念物や絶滅危惧種を食い尽くされ、生態系はガタガタになっている。〝犯人〟はイエネコ(飼い猫と野良猫)軍団……、といっても猫は集団行動を嫌うから、個々の狩猟が積み重なった結果だ。

 猫の〝美徳〟何やら怪しい。鼠を捕ることで船乗りに重宝されたが、行き着いた先で定着し、侵略者として環境破壊を導く。大都市では膨大な廃棄食料を漁るドブネズミと共存している。好意的に報じられている猫セラピーだが、犬の方が効果的というデータが紹介されていた。

 トキソプラズマ症についての論考に、妄想が爆発した。世界の人口の3分の1が感染しているが、大半の人は徴候が出ない。猫も感染源のひとつである。トキソプラズマは猫から人間の脳に感染し、愛をプログラミングされているのでは……。ライオンに食べられそうになったエピソードで、著書はその可能性を仄めかしていた。そして今、インターネットが感染拡大のツールになり、猫愛が猛スピードで蔓延している。

 野生を維持した猫が、去勢と不妊手術、ふんだんな餌付けで特技を封じられ、リビングの主人になっている。交尾と狩猟という本来の得意技を発揮出来ない猫だが、第三の本能、即ち人間馴致を身につけた。「ニャー」という鳴き声は人間の赤ん坊を真似たのとの仮説も示されていた。

 神話や小説の基本テーマといえる神と悪魔の混在を体現しているのが猫だ。騙すより騙されることに癒やしを覚えているのは俺だけではない。猫が人間界にテリトリーを確保したのはここ30年ほど。今世紀末、両者の関係はどうなっているのだろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「眠る村」~現在日本を穿つ... | トップ | 香港の現在を写す「誰がため... »

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事