酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「人質の朗読会」&「埋もれる」~WOWOWドラマの底力

2014-03-30 21:26:04 | 映画、ドラマ
 母は先日、「ボケ防止のため、今年はプロ野球を見る」と電話で話していた。巨人、DeNA、西武を応援する予定という。殆ど興味のない俺だが、楽天の松井裕樹には注目している。仕事先の夕刊紙によると、松井は体育会的なスポーツ界では異質の、自立したタイプらしい。

 スポーツに高揚することはあるが、政治に目を向けると暗澹たる気分になる。公明党も自民党に倣い、「武器輸出禁止三原則」解禁を決めた。<平和を守る創価学会>というメッキは、とっくの昔に剥げ落ちている。民主党は自公に歩調を合わせ、「トルコとの原子力協定批准」に賛成する方向だ。都知事選で舛添候補を推すはずだった民主党は、一夜にして<脱原発>の仮面を被り、細川支持に回る。今では再稼働賛成の連合に引き回されているようだ。

 「笑っていいとも!」があす最終回を迎える。番組開始の1982年秋、俺は仕事の少ないフリーターで、「笑って――」は貧しい昼飯の貴重な供だった。初めてタモリを見たのは、川崎敬三が司会を担当していた「アフタヌーンショー」である。タモリは「4カ国麻雀」を披露したが、「故郷に帰った方がいい」と川崎に諭されていた。川崎は今、自身の不明を恥じているに違いない。歴史に「もしも」は禁物だが、「笑って――」に出合えなかったら、タモリは毒々しい華を咲かせるアングラの帝王になっていたかもしれない。

 さて、本題。WOWOWで放映されたドラマ「人質の朗読会」と「埋もれる」を録画で見た。「人質の朗読会」の原作について別稿(11年5月)で紹介しているので、簡単に記したい。小川洋子は欠落の哀しみと喪失の痛みを描き、ささやかな人生に温かい視線を注ぐ。カットとアレンジは致し方ないが、映像化で小川ワールドが浮き彫りになっていた。

 南米で日本人旅行者がゲリラの人質になる。緊張と恐怖を和らげるため、人質が朗読の形で来し方を語るというストーリーである。盗聴によって状況を探る政府軍兵士は、祖母の影響で日本語に親しみを覚えているという設定だったが、その部分は省略されていた。

 記憶に残る場面を選ぶという点で、「ワンダフルライフ」(99年、是枝裕和監督)と重なるが、切迫した状況ゆえ、カラフルではなくささやかな思い出が選ばれる。川面に落ちた雨滴のような距離感で、幾つもの水彩画が提示される。「B談話室」と時空を超えて広がっていく「コンソメスープ名人」のエピソードが印象的だった。

 辛いことであっても、自身の思いを率直に語ることは癒やしに繋がる。東日本大震災の被災者たちも避難所で、本作の登場人物のように、悼みと願いを込めた思いを共有したに違いない。

 「人質の朗読会」のまろやかさとは対照的に、ラストでグサッと抉られたのが「埋もれる」だった。WOWOWシナリオ大賞受賞作の映像化で、告発と沈黙、組織と個人、家族の絆、DVといったテーマが循環しながら進行するミステリーだ。

 主人公の北見(桐谷健太)は大手食品会社のエリート社員だったが、正義感に駆られ、食品偽装を告発する。結果として下請け企業が解散し、自身と仲間は失職する。会社の隠蔽体質は何も変わらず、北見は妻から三行半を突き付けられる。娘が幼稚園で「おまえの父親はちくり魔」といじめられたのも、妻が離婚を決意した理由だった。<長いものに巻かれる>に価値を置く親の影響は、幼児にまで及んでいた。

 北見が再就職した郷里の市役所にも、腐敗臭が漂っていた。市長(大友康平)が汚職の元締で、中学の同級生である加藤(水橋研二)も片棒を担いでいる。北見が取り組んだのがゴミ屋敷の処置で、市長が進める強制撤去とは別の手立てを講じ始める。

 本作で異彩を放っていたのがゴミ屋敷の主、熊沢役の緑魔子だ。熊沢を気遣う隣人の葉子(国仲涼子)は北見の同級生で、初恋の相手でもある。バツ1の北見、夫が失踪して数年経つ葉子が接近するのは当然の成り行きで、長男とも親しくなる。勉強を教えたり、釣りに連れていったりと、家族になる準備をする。

 熊沢家はなぜゴミ屋敷になったのか? ゴミ屋敷の処分ともリンクする市役所の不正は浄化に向かうのか? 告発者は現れるのか? 北見と葉子の関係は進展するのか? もうひとつの「?」ともまりながら、衝撃のラストに導かれる。

 WOWOWは映画、スポーツ、音楽と優れたコンテンツを揃えているが、ドラマの充実にも目を瞠る。今回の2本も上映作品に匹敵するほどの質を誇っていた。
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