酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

極私的ミューズ論~エキゾチズムの現在

2006-07-01 01:06:14 | 音楽
 昨年7月、当ブログでトニー・ガトリフ監督の「ベンゴ」を取り上げ、次のように記した。<酒場でグラマーな熟女が「ラブユー・東京」を日本語で歌う場面も印象的だった。小節の利かせ方など、演歌とロマの歌に共通する部分がある。演歌の発祥は朝鮮半島といわれているし、源流を遡ればロマに行き着くかもしれない>……。

 俺がミューズに魅かれたのは、上記の一文と繋がりがある。1st“Showbiz”(99年)に対する世間の反応は<レディオヘッドのフォロワー>だったが、俺の聴き方は違っていた。マシューは10代半ば、スペインでマヌーシュギター(ロマの伝統的奏法)を教わっている。その影響なのか、1stはエキゾチズムの色が濃い。“Muscle Museum”など、編曲して日本語を乗せたらそのまま演歌になる。俺はミューズに、忘れていた情感を呼び覚まされたのだ。

 スケールアップした2nd“Origin Of Symmetry”の発表直後(01年11月)、ゼップ東京でミューズを見た。蒼くて荒々しいパフォーマンスに、<世界一のライブバンド>と勝手に認定した。ミューズがその定冠詞を普遍的に勝ち得たのは、3年後のグラストンベリー04だ。大トリとしての歴史的名演はDVD化されている(2月23日の稿参照)。

 3rd“Absolution”(03年)では<生命線>と決め付けていたエキゾチズムとリリシズムが後退していた。失望の余り、「ミューズは終わった」とまで広言したが、翌年の日本公演で前言撤回とあいなった。奥行き感と柔らかな鋭さに圧倒され、ミューズの楽曲はライブによって完成することを思い知らされた。

 先日(6月28日)4th“Black Hole And Revelations”が先行発売された。マシューは若い(28歳)とはいえ、全速力で駆け抜けてきた<フルコンタクト・ロッカー>ゆえ、金属疲労と才能の枯渇を心配していたが、杞憂に終わった。しっとりとした♯2と♯4、チープさがたまらない♯3、3thの延長線上にある♯7、エキゾチズムへの回帰が窺える♯9と♯10、イタリアンプログレ風の♯11と、コンパクトでカラフルな曲が並び、聴くほど味が出てくる<するめアルバム>だと思う。

 クオリティーの高さの割に売れなかったミューズだが、今回ついにメジャー(ワーナー)と契約し、200億円使って300億円回収するシステムに組み込まれた。コールドプレイやU2に通じるまろやかなメジャー風味のサウンドに多少の違和感は覚えるが、歌詞は妙に尖がっていた。テロリストを肯定するかのような♯7など、ラディカルなメッセージが全編に込められている。ミューズを<抵抗者>に仕立てるのがワーナーのイメージ戦略かと、深読みしているのだが……。

 繰り返しになるが、ミューズの楽曲はライブによって完成する。新作を聴き、早速サマソニのチケットを買った。8月13日の千葉マリンが待ち遠しい。

コメント
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