酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「新版パレスチナ」を読む

2006-07-19 01:10:11 | 読書
 小泉首相はサミットに向かう前、イラエルに立ち寄った。「共存共栄」を強調したが、イスラエルのレバノン空爆で色褪せてしまった。

 激化する中東情勢について、メディアは客観報道に徹している。果たして信じていいのだろうか? 紀伊國屋で恰好の入門書を見つけた。広河隆一著「新版パレスチナ」(岩波新書)である。広河氏といえばチェルノブイリやパレスチナを切り口に、世界の本質に迫る反骨のフォトジャーナリストだ。「デイズ・ジャパン」発行人でもある。

 広河氏は67年、イスラエルのキブツ(コミューン)に入った。世界から集った若者と果樹園で働き、ヘブライ語を学んだが、第3次中東戦争が始まるや、氏の中で<正義の天秤>が傾き始める。イスラエルは瞬く間に、<邪>に転落していったのだ。

 ユダヤ人の悲劇については、今さら説明するまでもない。だが、イスラエル政府は民族のトラウマや被害者意識を反転させ、鋭い刃をパレスチナ人に突きつけている。本書を読む限り、イスラエルのパレスチナ人に対する行いは、ジェノサイド、アパルトヘイトと変わらない。最新のニュースによると、イスラエルは9000人以上のパレスチナ人を拘束しているが、その手法は忌むべきゲシュタボを想起させる。

 本書で最もショックを受けたのは、イスラエルの子供たちが、パレスチナ人を虫けらのように感じていることだ。ヒトラーユーゲントの少年が、ユダヤ人抹殺に疑問を抱かなかったのと同じ構図である。<母親がユダヤ人で、自らがユダヤ教徒であること>……。このアイデンティティーに立脚した<ユダヤ原理主義>が、イスラエルを突き動かしている。

 かつて多数のパレスチナ人と少数のユダヤ人が共存していたが、イギリスの二枚舌外交で軋轢が生じる。イスラエルは建国後、パレスチナ人の土地や財産を収奪していった。自爆テロは憎しみの昇華だが、テロリストと書き立てられるハマスは、互助組織として民衆に根付いている。PLOの対抗組織としてハマスを育成したのは、他ならぬイスラエル政府だと、広河氏は指摘している。

 先日、スカパーで「キロメートル・ゼロ」(05年)を見た。イラン―イラク戦争、フセインによるクルド人虐殺を背景に、苦難の道を歩む家族の姿か描かれている。亡命先でバグダッド陥落のニュースを知り、主人公(アコ)が妻とともに歓喜する場面がラストシーンだ。

 アコの義父の言葉――「われら(クルド人)の過去は哀しく、現在は悲惨そのもの。幸いにも未来はない」――も印象的だった。ブッシュ大統領は「戦争屋」だが、イラク国内のクルド人にとって「解放者」だったことは紛れもない事実だ。

 パレスチナ、クルド、そして石油利権……。底知れぬ憎しみとエゴが渦巻く中東こそ、世界を回転させる基軸になっている。ファジーや玉虫色を好む俺だが、客観報道のまやかしに騙されぬ明確な視点を持ちたい。



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