俺のような外れ者は、クリスマスだからといって浮かれもせず、集いもせず、気に留められることもない。渇いた小石のように道の端、喧騒が去るのを待ちながら、来し方を振り返っている。
JR西日本の事故、耐震データ偽装、アスベスト禍の表面化、アジアとの関係悪化、米国産牛肉輸入再開……。悪魔たちが目覚めた気配がする。悪魔といっても特定の個人や思想ではない。排除と差別に繋がる<壁と境界の思考>なのだ。「ご臨終メディア」で森達也氏が論じていたが、日本は無数の<世間>に分裂したようだ。<世間>の「壁」の内側で奨励される自己肯定ともたれ合いが、理念と節度に基づく<社会>を崩壊させる。耐震データ偽装の関係者が責め立てられているが、献金疑惑の森派、与党道路族、国交省、自治体、大手ゼネコンも悪魔の仲間と知れば、<メディア村>という<世間>は、ツルんで口をつぐむに違いない。
アスベスト禍の放置は、<業界=学界=行政>が形成する<世間>のもたれ合いの結果だし、<世間のルール=効率至上主義>を<社会的役割=公共性>より上位に据えたことが、JR西日本の事故の遠因になった。<食物メジャー=ブッシュ=小泉>の利害が「壁」の外の安全性より優先され、米国産牛肉の輸入再開が決断された。
深刻なのはアジア諸国との「壁」だ。<小泉=安倍>路線で外交の主導権を中国に奪われ、前原民主党代表まで「中国脅威論」を主張している。「壁」の内側で変化が起きつつある。日本人の中韓への親近感が急降下したという調査結果が、本日付朝日新聞1面に掲載されていた。排外主義という悪魔が闊歩しているが、米次期大統領に親中派ヒラリー・クリントンが就任すれば、状況は一変する。日本は自ら築いた「壁」に閉じ込められ、アジアの孤児になるからだ。
偉そうなことをあれこれ書いたが、俺の中にも悪魔がトグロを巻いている。自分の資質に合わぬことに手を染めず、辛うじて飼い慣らしてきただけだ。裃(かみしも)を羽織って教員や公務員になっていたら、「壁」の向こうの住人になっていたと思う。プレッシャーやフラストレーションに追い詰められ、数百万程度の収賄、電車内の痴漢行為などで社会面を賑わせたことだろう。
クリスマスに悪魔を論じるなんて、ひねくれ者にピッタリだが、俺だって悪魔より天使について語りたい。残念ながら天使の姿が見つからないだけである。