弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

古賀茂明「日本中枢の崩壊」3

2011-07-19 23:25:24 | 歴史・社会
第2回に引き続き、古賀茂明著「日本中枢の崩壊」の3回目です。

産業組織政策室で古賀氏は、規制改革にも取り組みました。
『私が最初に試みたのは、国民に規制について意見を求め、意見があれば、担当課に答えを書かせ、それをまとめて公表するというやり方だ。私がいつもやっている、表での議論だ。返ってきた答えはほとんど「できません」だったが、国民の指摘はもっともなことばかりだったので、「できない」と書くだけでも恥ずかしい。私はこの問答集を分厚い本にまとめて国民に公表したので、世の中で無駄な規制が浮き彫りになった。
実は、これは経団連の安倍氏と話していて思いついたことだ。宮内小委員会が実施を検討したが、各省庁が許すはずがなかった。では通産省でやればいいと思って実施した。それにしても官房総務課が、やることをよく許してくれたものだ。恐らく、理屈では私のほうが正しいので、「やるな」とはいえなかったのだろう。
私が問答集を宮内小委員会に持っていったので、宮内さんが「通産ができるのだから、やれないことはない」と強行突破し、以後、年に一度、国民にパブリックコメントを求め、答えを公表することになった。理詰めと気合い--霞が関と闘うときの二つの必須条件だ。』

古賀氏の次の仕事は、パリにあるOECD事務局の職員でした。
当時1997年頃ですか、OECDのプロジェクトの中で、電力の規制改革の議論が行われていました。発電部門と送電部門の分離が焦点となっていました。
『通産省と電力会社の癒着ぶりは目に余るものがあり、特に東京電力に睨まれたら出世はできない、などという話を聞いたことがある。「東電は腐っている」と思っていた私は、発送電分離の話を聞いたとき、これは電力改革の切り札になるのではないか、と感じた。』
古賀氏は、OECDが発送電分離を日本に勧告するという作戦で、そうなるように動きました。そして、日本の新聞で大きく取り上げられるように策を練りました。検討段階での予想記事なら扱いも大きくなるし、国内の準備も整っていないから、ショック療法としては効果的です。
古賀氏は旧知の読売新聞の記者に連絡を取って、記事にしてもらいました。正月はニュースがないので、1月4日の朝刊に「OECDが規制改革指針 電力の発電と送電は分離」と大きく載りました。年頭の記者会見で佐藤信二通産大臣が前向きなニュアンスで答えたので大騒ぎになりました。
通産省で犯人探しが始まり、全員が思い当たるのはただ一人「古賀しかいない」となり、資源エネルギー庁では古賀さんを帰国させて即クビにする、と言っている人もいたようですが、それでも古賀氏はしばらくパリに留まることになりました。

この事件以後、本格的に電力の規制改革の議論が動き出したそうです。しかし古賀氏はその後、一度も資源エネルギー庁や原子力安全・保安院に勤務することはありませんでした。

『通産省に入省してから、いつの間にか31年の歳月が過ぎていた。同期の大半はすでに退官しているのに、われながらよくこれまで追放されなかったなあ、と不思議に思う。
しかし考えてみると、上とぶつかったときも、必ず省内に良識のある人たちの勢力があり、私をかばってくれていたように思う。そうでなければ、とっくに私は経産省からいなくなっていただろう。
ただ、寂しいのは、現在は、幹部に良識派といえる人がほとんどいなくなってしまったことだ。ちなみに私は、官僚の良識派を「絶滅危惧種」と呼んでいる。』

《第8章 官僚の政策が壊す日本》
《終章 起死回生の策》
上記の部分についても、なかなか要約は困難です。実際に本を読んで戴くことにしましょう。

《補論--投稿を止められた「東京電力の処理策」》
古賀氏はこの4月上旬、東京電力の処理策として私案をまとめ、経済産業省幹部はじめ関係者に送付しました。この試案を起訴にブラッシュアップした論文を『エコノミスト』誌に投稿する予定でした。しかし直前に官房に止められたとのことです。

私が4月19日に東電の再生計画の記事で紹介した、経産省幹部が公表をストップさせた「東京電力解体」案において、長谷川幸洋氏が「経産省のベテラン官僚が作成した東京電力の処理策」を紹介しています。これが古賀さんの試案でした。

今回の震災・原発事故以降、私が「発送電分離」についてはじめて知ったのは上記長谷川氏の記事であり、その記事は古賀氏の試論をベースにしたものでした。その古賀氏の「発送電分離」論は、突然の思いつきではなく、OECD事務局勤務時代に取り上げていた問題だったのだ、ということを今回知りました。

古賀さんは、この7月15日を期限として、経産省を退職するように次官から勧奨されたようです。その期限を過ぎましたが、まだ古賀さんの処遇はニュースで聞きません。海江田経産相には決済案は上がったのでしょうか。今後が注目されます。
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