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東京大アタカマ天文台

2024-06-17 10:52:54 | サイエンス・パソコン
6月14日の朝日新聞記事に、大型赤外線望遠鏡「東京大アタカマ天文台」(TAO)についての記事が掲載されていました。

標高世界一の天文台、宇宙に迫る 日本、「すばる」に加え地球の裏からも観測
2024年6月14日 朝日
『口径6.5mの大型赤外線望遠鏡
南米チリの5千メートルを超える高地に大型赤外線望遠鏡「東京大アタカマ天文台」(TAO)が完成した。計画のスタートから四半世紀、「標高世界一の天文台」の建設は苦難の道のりだった。いよいよ始まる観測で、どんな宇宙の謎が解き明かされるのか――。
アタカマ砂漠の乾燥した大地にそびえるチャナントール山。TAOの観測施設が完成したのは、その山頂(標高5640メートル)だ。
TAO計画が始まったのは1998年。・・まずは仮設道路づくりから始めた。
酸素は平地の半分ほどしかない。「高山病を防ぐため、全員が酸素ボンベを背負って工事を進めた。」
日本の赤外線観測施設としては、北半球に国立天文台のすばる望遠鏡(米ハワイ)がある。南半球にも望遠鏡を置けば、北半球からは見えない天体を観測することができる。
アタカマ砂漠にあるチャナントール山・・山頂は空気が薄いのに加え、世界で最も空気が乾いている砂漠地帯にある
宇宙から地球に届く赤外線は、大気中の水蒸気に吸収されて弱まっていく。・・波長31.5μmの中間赤外線は、すばる望遠鏡(標高4200m)には5%しか届かず、欧州南天文台のVLT(標高2600m)にはほとんどと届かない。それがTAOには40%も届くという。
プロジェクトの開始から26年にわたって代表として主導してきた東京大の吉井譲名誉教授(銀河物理学)は・・・』

一方で、5月27日から31日までの日経新聞に、その吉井譲さんを紹介する連載記事が載りました。
世界一高い天文台を造る(1)
東京大学名誉教授 吉井譲さん
人間発見
2024年5月27日 日経
『南米チリに建設されていた東京大学アタカマ天文台(TAO)の望遠鏡施設が4月に完成した。標高5640メートルの山頂に位置し「世界一高い天文台」とギネスブックから認定され、宇宙の研究に新時代を開くと期待される。東大名誉教授の吉井譲さん(72)はプロジェクト代表として計画の立案から完成までけん引した。
TAOは日本の大学が単独で海外に天文台を建設する前例のないプロジェクトです。自分でなければ最後まで実行することができなかった、と自負する一方で、大勢の人たちに支えられてここまで来ることができた、と感謝しています。』

世界一高い天文台を造る(2)
2024年5月28日 日経
『病弱だったことなどから、あまり家の外に出ることがなかった。
母は体が弱く、私は子守がそばについている環境で育ちました。私自身も子供の頃は貧血で倒れることが多く、小学校で倒れて迎えに来てもらうことがよくありました。家で姉と2人で遊んだり、一人で好きなことをしたりしていることがほとんどでした。
まず興味を持ったのが昆虫採集でした。チョウの種類の多さと色の豊かさに関心を持ったのです。』
新潟高校-京都大学と進学しました。
卒業研究は、天体核物理を希望しましたが、申し込み直前にドライブで事故に遭い、九死に一生を得たものの、卒業研究の申し込みは締め切りを過ぎていました。希望する研究室は埋まっており、宇宙物理学教室で恒星系力学の研究に取り組みました。

世界一高い天文台を造る(3)
2024年5月29日 日経
『東北大学大学院に進学したが、期待した専門分野の研究はできなかった。
指導教官の高窪啓弥先生に転学を相談すると、京都大学の林忠四郎先生と同様に「やりたいことは独力でもできる。新たな分野にチャレンジをする機会だと思えばいい」と言われました。』
そこで始めたのが京大時代から気になっていたELS論文という銀河系の進化に関する有名な論文の読破です。筆者のひとりで銀河力学の権威だったリンデンベルに興味を持ち片っ端から論文を読んでいたのですが、この論文だけ異質だったのです
(ELS)論文では銀河系をとりまく古い星や球状星団でできたハローという部分が形成されるのに2億年かかると結論づけていましたが、吉野さんと2年先輩の斎尾秀幸さんが調べ直し、ハローの形成には30億年かかるという論文をまとめました。
銀河天文学の権威だったフリーマンがELS論文を批判する(吉井さんの)論文に興味を持ってくれました。日本学術振興会の海外派遣事業に応募するため、フリーマンに受け入れを打診すると「もちろん」との返事。オーストラリア国立大学ストロムロ山天文台に行くことになり、2年滞在しました。
(吉井さんは)それまでの常識を覆し、(宇宙項で)宇宙が加速膨張しているという論文を1990年に発表しました。
吉井さんは、クエーサーと呼ばれる銀河を使って距離を測定する新手法を考案し、その手法で宇宙モデルを決定したいと考え始めました。そのためには少なくとも口径2mクラスの専用望遠鏡が必要です。

世界一高い天文台を造る(4)
2024年5月30日 日経
『望遠鏡のハワイ設置が問題になった。
専用望遠鏡を作りたいと考えていた矢先の1994年、文部省(当時)が先端的な研究拠点整備のために新設するCOE(中核的拠点)形成科学研究費に、佐藤勝彦先生を代表とする東大グループも応募することになりました。「初期宇宙の探求」がテーマで、国立天文台から東大教授に転任したばかりの私にも声がかかり、喜んで参加しました。
「マグナム」と名付けられた望遠鏡はクエーサーと呼ばれる特殊な銀河を観測し、極めて遠い銀河までの距離を測定する新手法を確立することが目的でした。』
1998年前後、超新星爆発の観測を基に、宇宙の膨張が加速しているという論文が発表され、ノーベル賞を受賞しました。1990年に吉井さんが論文発表した予想(仮説)が実証されました。
マグナム望遠鏡ではクエーサーを使っても超新星と同じ100億光年くらいの距離までしか観測できません。(吉井さんは)どうしてもより遠いクエーサーまで観測したいという思いが募り、マグナム稼働前の98年にTAOのプロジェクトをスタートさせました。
最終的にチャナントール山に決めたのが2003年ころ。

世界一高い天文台を造る(5)
2024年5月31日 日経
『加速膨張する宇宙モデルが誕生直後の宇宙でも正しいか検証する観測に挑む。
東京大学アタカマ天文台(TAO)は宇宙が生まれた頃に近い極めて遠い銀河などの天体を観測することが、目的のひとつです。私自身はクエーサーと呼ばれる活発に活動する銀河を継続して観測し、銀河までの距離と銀河が地球から遠ざかる速度を正確に調べることに最も興味があります。それにより宇宙の加速膨張モデルが、誕生して間もない宇宙から現在まで本当に成り立っているかを検証できる。そもそもこれが私にとってのTAOの原点です。』
クエーサーは、ブラックホールがある中心核領域の明るさが時間的に変化します。中心核をとりまくガスなどの物質が出す光の明るさも変化し、中心核の変化とは時間のずれが生じます。ずれを調べると、クエーサーまでの正確な距離が計算できます。
宇宙が誕生してから138億年とされています。超新星爆発を利用した観測で、約100億年前の宇宙から現在まずの加速膨張が確認されましたが、誕生から間もない時期の宇宙でも加速膨張モデルが正しいかはまだわかっていません。TAOで100億光年よりも遠いクエーサーまでの距離を測れば、それが分かるはずです。
『今年4月の完成記念式典に参加した海外の友人からは「計画を聞いた当初は信じられなかったが、本当にやったんだな」と祝福されました。今後、望遠鏡の調整や観測装置の取付などを進め、本格観測を開始するファーストライトは25年の予定です。』

南米チリの、標高5640mの高地に口径6.5mの大型赤外線望遠鏡「東京大アタカマ天文台」(TAO)が完成しました。東大単独の事業であり、天体からの赤外線観測に最適であることなど、新しいことずくめです。このような事業が計画され完成した裏で、東大名誉教授の吉井譲さんの尽力があったことがわかりました。
また、吉井さん自身の研究テーマである、宇宙誕生から100億年前までの宇宙膨張の実態を明らかにすること、そしてそれによって吉井さんが提唱した宇宙膨張の加速を明らかにすることも実現できるでしょう。ノーベル賞の対象にもなりそうです。
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