弁理士の日々

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英国郵便局での冤罪事件

2024-01-14 13:12:08 | 歴史・社会
わが家で購入している日経新聞と朝日新聞で、英国での富士通製システムの問題に基づく冤罪事件が相次いで記事になりました。
私はこの事件のことを今回の新聞記事で始めて知ったのですが、その経緯の不可解さに驚いています。

英郵便の冤罪、富士通批判再び 会計システム欠陥
ドラマ放映契機 被害700人、救済新法導入へ
2024年1月12日 日経新聞
『英国の郵便局で起きた大規模な冤罪事件が、テレビドラマの放映を機に再び関心を集めている。事件の引き金となった会計システムを納入した富士通への批判も高まり、英下院は同社幹部らに証言を求めた。
事件の発端は1999年だった。各地の郵便局に富士通の会計システム「ホライゾン」が導入された後、窓口の現金が会計システム上の残高よりも少なくなる問題が頻発するようになった。
郵便局を束ねる英ポストオフィスは、横領や不正経理をしたとみて、郵便局長らに補償を要求。局長らは借金などで差額を埋めることを余儀なくされた。この結果、破産や自殺に追い込まれるケースもあったという。2015年までに700人以上の局長らが罪に問われた。
その後、富士通の会計システムの欠陥が原因だと判明した。システムを納入した英国子会社の富士通サービシーズは、1990年に富士通が買収した英ICLを母体とする。』

「富士通も補償関与を」 有罪判決受けた女性 英郵便局冤罪事件
2024年1月14日 朝日新聞
『英国史上最大規模の冤罪といわれ、ドラマ化を機に再び注目を集めている「郵便局事件」で有罪判決を受けた女性が、オンライン取材に応じた。判決は後に覆されたが、「失われた時間は戻ってこない」と嘆く。
郵便当局によって訴追された700人以上のうちの1人、ポーリン・ストーンハウスさん(51)。2004年に小さな郵便局をオープンさせた。局内に導入されていた富士通の会計システム「ホライゾン」に度々問題が生じた。端末上に表示されている金額と手元の現金が合わない。1年近くが過ぎ、郵便当局の監査役から盗んだのではないかと嫌疑をかけられ、営業停止処分を受けた。破産宣告、自宅の差し押さえ。
08年に不正会計の罪で刑事訴追された。刑務所に入れられて家族すら奪われるかもしれない。それが怖くて罪を認めた。
その後、ホライゾンの欠陥の可能性が指摘され、21年にようやく、有罪判決が控訴審で破棄された。
富士通のシステムは1999年から導入され、いまも各地の郵便局で使われている。同社は現時点で補償に関与していない。』

英国の(おそらく)すべての郵便局にホライゾンシステムが導入されたのが1999年頃。そしてそのあとから、窓口の現金が会計システム上の残高よりも少なくなる問題が頻発するようになりました。各地の郵便局で同時にこのような問題が発生したら、普通はシステムの不具合を疑うものです。ところが英国の国営ポストオフィスは、システムの不具合を全く疑わず、英国の各地に独立に郵便局を経営する700人の郵便局長が、示し合わせたように同時期に故意に不正を働いた、と断じたわけです。このような意思決定は全く持って理解することができません。
1999年に導入したシステムで問題が発生し、2008年時点でもまだ郵便局長の不正であると断じられ、システムの不具合が原因であるとわかったのが2021年ですか。その間、システムの不具合を疑ってチェックした関係者が皆無だったというのは、どう考えてもあり得ないことです。

富士通の会計システムが引き起こした英郵便局スキャンダル
2022年3月7日 大井真理子、BBCニュース アジアビジネス担当編集委員
『また集団訴訟の結果、2019年12月に、郵政の窓口業務を担当する会社ポスト・オフィスが555人に対し、計5800万ポンド(約90億円)を支払うことで和解している。
長年、ポスト・オフィス側は「システムには問題がなかった」と主張したが、高等法院の判事は、システムのエラーや不良のため郵便局の支店口座で不一致が生じたと判断した。』

システムの問題が原因であると結論づけたのは、国営ポストオフィスでもなく、システムを作った英国富士通でもなく、高等法院の判事だったのですね。

英史上最大の冤罪と闘う郵便局長を描いたTVドラマが「ヴォルデモート」富士通を追い詰める
1/11(木) 木村正人在英国際ジャーナリスト
『すべてを失った元局長らが無実を証明するまでの約23年の闘いを描いた英民放ITVのドラマ「ミスター・ベイツ vsポストオフィス」が1月1日から4日連続で放映されたことが扉を押し開けた。
「信じられないような話ばかりだった。この物語には現実にあった信じられないようなことがたくさん出てくる。ただただ驚いた。ホライズンの端末で現金の不足表示が倍になるのを目の当たりにしたのに自分のせいだと言う人がいるなんて普通あり得ない。みんな現金不足が発生しているのはあなただけだとポストオフィスにウソをつかれていた。狂気の沙汰だ」』

ホライゾンというシステムを作った英国富士通、その実態は、日本富士通が買収したICLという会社だったようです。日本富士通と英国富士通との間の連絡は非常に悪かったようです。システムの不具合を長年にわたって見過ごし、無実の大勢の人々に苦しみを与えた責任はどこにあるのか。国営ポストオフィス、英国富士通、日本富士通、英国政府それぞれの責任がこれから問われていくのでしょうか。
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