弁理士の日々

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羽田航空機事故経緯

2024-01-07 16:06:30 | 歴史・社会
1月2日、羽田空港でのJAL機と海保機の衝突事故発生時、わが家ではテレビを観ていたので、JAL機の様子については事故直後からリアルタイムで見ていました。
事故発生(17時47分頃)から30分後あたりから、JAL機がテレビで放映されていました。JAL機の左側です。その当初は、火が出ているものの左エンジン付近でちょろちょろ、右側については良く分かりませんが右翼付近に火が出て切るようでした。いずれにしろ、胴体からは火が出ていません。そのうち、後部付近の窓二つが赤く染まり、人力の放水がその窓めがけてなされるようになりました。
リアルタイムの映像は流れるものの、乗員の脱出状況については何ら説明がありません。報道には何の情報も流れていないのでしょう。ただし、乗員救出に従事する人の姿は全く見られないので、すでに機内には乗員がいないのであろう、という想像はできました。

その後、乗員乗客の全員が脱出済みであることが報道されました。

管制と飛行機との交信記録が公表されたのは3日の遅くでした。実際の交信は英語ベースのATC(Air Traffic Controll)語であるのに、公表文は日本語翻訳でした。元のATCは以下の通りです。
17:45:11 Tokyo Tower(管制) JA722A Tokyo tower good morning. No.1. taxi to holding point C5.
JA722A(海保機) Taxi to holding point C5 JA722A No.1. Thank you.

ネット検索すると、羽田C滑走路には、STBL(Stop bar light)が設置されているとの記述が見つかりました。ただし、昨年12月27日以降は使用停止されていると・・・。しかし、新聞やテレビではこの設備の存在には全く触れていません。何日かしてやっと報道に登場しましたが・・・。

1月6日、突然各報道に以下の情報が流れました。
『羽田空港の滑走路で日航と海上保安庁の航空機が衝突した事故で新事実が判明した。着陸機が接近する滑走路に別の機体が進入した場合、管制官に画面で注意喚起する「滑走路占有監視支援機能」が、事故当時、正常に作動していたことが分かった。国交省が5日、明らかにした。
・・
事故当時、この機能が作動し、海保機の進入を検知していれば、管制官が使う装置の画面上では、滑走路全体が黄色に点滅し、航空機が赤色に変わっていた可能性がある。
・・
交信記録によると、2日午後5時45分に、管制官が「1番目。C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」と海保機に指示した。機長は8秒後に「向かいます」と復唱したが、そのまま滑走路に進入し、約40秒間停止した。直後の5時47分、着陸してきた日航機と衝突した。

通常、管制の指示は機長と副機長が仰ぐ。機長はこれまでの聞き取りに「許可を得て進入した」と説明し、その後の聞き取りで「他のクルーにも(管制指示を)確認した」と話したという。海保機側が「1番目(の離陸予定だ)」と伝えた管制指示を優先離陸と誤認した可能性もある。』

それまで、私が検索した範囲で、「滑走路占有監視支援機能」に言及した記事は皆無でした。それが、国交省からの情報が5日に出た途端、各報道が一斉にニュースにしました。
事故発生から1月5日までの間に、この「滑走路占有監視支援機能」についての発言がなかったか検索しましたが、非専門家のブログで1件見つかったのみで、専門家の発言は皆無でした。
こちらの情報によると、MLAT(マルチラテレーション)とも呼ばれ、航空機のトランスポンダから送信される信号(スキッタ)を3カ所以上の受信局で受信して、受信時刻の差から航空機等の位置を測定する監視システムだそうです。着陸機が接近中に出発機または横断機が滑走路に入った場合、管制官のディスプレイ上で飛行機が赤色に変わり、滑走路が黄色に変わるようです。

ところが、一般の報道では公表されていませんが、一部で以下の発言があったようです。ミヤネ屋元日本航空機長(杉江弘さん)の発言として、『海保機はトランスポンダーが古いタイプのため、管制官のレーダーには映らず、海保機が何処にいるか分からない状態だった』が紹介されていました。「滑走路占有監視支援機能」で使用可能なトランスポンダーではなかった、という意味のようです。
ということは、羽田の「滑走路占有監視支援機能」システムが事故の当日に正常に動作していたとしても、海保機がこのシステムに対応しない機体であったため、このシステムからは何ら警報は出されていなかったことになります。
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1月2日に発生した今回の航空機事故、本日7日時点で、関係機関からの公表、報道機関の報道には違和感が多くあります。

事故当日2日の21時に国交省と海保の合同記者会見がありました。記者からの質問に対する回答は、私がその時点までにテレビ画面で認識できていた内容から一つも追加されませんでした。隠しているのか、それとも本当にそれ以上の知識が得られていないのか、いずれにしても情けない限りでした。

翌3日に管制と航空機の交信記録が公表されましたが、日本語翻訳であって原文ではありませんでした。
"Holding point C5"を「C5上の滑走路停止位置」と訳していますが、これでは「滑走路上の停止位置」のようにも受け取れてしまいます。
そもそも、ATCで使われる英文は厳密に規定され、それぞれ意味が定まっています。
"Holding point C5"は、滑走路内に誤進入しないようにとの意味が込められて定められたようです(こちら)。
離陸するときに滑走路に進入して待機する場合は"Line up and wait"が使われます。以前は"Taxi into position and hold."と言われていたらしく、海保機のクルーは昔の規定が頭の中にあり、"Taxi to Holding point C5"を「C5の滑走路に進入して待機せよ」と誤解したかも知れません。

STBL(Stop bar light)についての報道が事故から数日後まで登場しなかったことも不可解です。羽田のC滑走路にはこのシステムが設置されていたものの、事故当日は作動していなかった、というのは重要な事実です。
このシステム、天候不良時にしか使われないのだそうです。天候良好であれば夜間でも使用しない、ということで、たとえ事故当日に正常であっても、使われていなかったことになります。一方では今回の事故で「夜間だからJAL機から滑走路内の海保機を発見できなかった」と言い訳しているわけで、それならば夜間にはSTBLが有効な事故防止手段になっていたことになります。この矛盾点を報道は指摘しなければなりません。
東芝の資料を見ると、管制官の操作盤においてSTBLの運用卓は独立しているらしく、ということは管制官にとって使いづらいシステムであった可能性が高いです。そのような使いづらいシステムは管制官から敬遠され、必須設備への格上げがなされなかった可能性があります。
報道機関は、STBLの位置づけその他について、厳しく当局を追求する必要があります。

「滑走路占有監視支援機能」(MLAT)についてはわからないことが多すぎます。現時点ではこれ以上追求せず、今後の報道を見守ることとします。
少なくとも、このような機能が現実に実現しているのですから、必須で活用すべきです。着陸滑走路に別の機体が誤進入したら、ディスプレイの色が変わるだけではなく、音でも警告すべきです。「誤警報が多すぎて却って混乱する」が現状であるなら、誤警報を減らす努力をなすべきです。今回の海保機がMLATに対応するトランスポンダーを搭載していなかったのであれば、対応トランスポンダーの設置を義務化すべきです。

p.s. 1/8 滑走路占有監視支援機能と海保機との関係
調べて見ると、今回の海保機は、トランスポンダーは搭載していたがADS-B非対応であった、ということのようです。そして、滑走路占有監視支援機能は、飛行機の位置特定のための三角測量にトランスポンダー信号を用い、航空機便名などの情報取得のためにADS-B信号を用いているようです。そうとすると、羽田の管制ディスプレイにおいて、海保機の位置は特定でき、滑走路への進入を検知して滑走路と飛行機のマークの色を変更し得たものの、航空機便名は非表示であった、ということになりそうです。
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