<54> リ ン ド ウ
晩秋の 棚田の畦の 草むらに 誰知るとなく 龍胆の花
リンドウは本州、四国、九州に分布するリンドウ科の多年草で、大和では山野に自生する。花期は晩秋のころで、草花の中では遅く、清少納言が『枕草子』に「枝ざしなどもむつかしけれど、こと花どものみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色あひにて、さし出でたる、いとをかし」とその印象を述べているように、花は一年のしんがりを担って咲く。
根茎が苦く、 これを龍の肝に見立ててリンドウ(龍胆)の名が生まれたといわれ、 苦味健胃薬の薬用植物として昔から名高く、エヤミグサ(疫病草)などの地方名でも知られる。この薬効顕著なことは世界的にも認められているようで、 古代エジプトではすでにリンドウを薬として用いていたことが墳墓から発見された処方箋に記されているといわれる。
山国の大和では山野に見られ、殊に山間や高原の一帯に多く、山岳の高所にも岩場などでよく見かける。リンドウのほかに、春に咲くフデリンドウ、紀伊半島の南部に限定分布するアサマリンドウ、ツル性のツルリンドウ、それに葉が細い変種のホソバリンドウ、 花を完全に開かない特徴をもつオヤマリンドウに近いものなどが自生している。
上段の写真は左からリンドウ(草丈が低いのは草刈りされるためである。平群町白石畑)、オヤマリンドウに近いタイプ( これ以上花は開かない。大台ヶ原山)、アサマリンドウ(大和では最南部に分布。 十津川村の果無峠)、ツルリンドウ(赤い果実も印象的。大和郡山市の矢田山系)、フデリンドウ( 春咲きの二年草。大和では絶滅危惧種。 若草山)。ホソバリンドウはまだ撮影に至っていないので撮ることが出来ればつけ加えたいと思う。下段の写真は棚田の畦の花(宇陀市)。
ゆく秋を惜しむがごとく咲き出でし棚田の畦の龍胆の花
高畑(たかはた)の野焼きの煙棚引ける山里静か龍胆の花