大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2011年10月12日 | 写詩・写歌・写俳

<42>  スス キ
           千万の 夕陽に炎立つ すすき
  大和は海に接しない内陸の山国で、ススキの名所が多い。都市近郊で言えば、奈良市の若草山があり、大阪、奈良府県境の葛城山がある。最も規模が大きいのは三重県境の曽爾高原で、みなよく知られる。また、南部の山岳には上北山村の和佐又山や天川村の観音峰などに見られる。
  ススキはイネ科の多年草で、日当たりのよいところを好み、群落をつくって生えるので、広い範囲にススキの草原を形成する。ためにその群落が一斉に花穂を靡かせる風景は圧巻で見応えがある。
  一昔前までススキはよく茅葺き屋根などに利用され、各地にススキを刈り取る茅場が見られた。 しかし、最近は純和風の家が少なくなるにつれて利用することが少なくなり、 茅場も放棄され、 だんだん雑木などに被われ消えて行った。
  言わば、ススキには雑木などが生え出さないように管理することが必要で、曽爾高原や若草山では冬から春先にかけて山焼きが行われ、 芽吹きの活性化を促すなど毎年人手をかけて管理に当たっている。ところが、最近、野生のシカが繁殖し、若草山が典型的な例であるが、 シカに接触する区域ではススキの生育が悪く、柵を設けてシカの食害からススキを守っているほどで、曽爾高原や観音峰のススキの名所にもシカの出没が見られ、以前に比べススキの群落に衰えが見えるようになって来た。これは人の踏みつけが主たる原因ではなく、若芽を食べるシカの食害が影響していると私には思える。
  もちろん、シカはほかの植生にも影響を及ぼし、問題化されており、若草山のシカは天然記念物で特別扱いになっているが、他の地域では駆除が必要であるということも言われるようになった。とにかく、ススキの草原の保持には人による管理が欠かせない。 これから十一月にかけてススキの名所はどこも見ごろを迎え、人の足が向く。では、最後に、ススキの句を五句ほど。

        

    重たげに 露を置きたる 薄かな
    日の光 みな平等に すすきの穂
    声々が すすきの道を 行きにけり
    夕焼けに 薄も人も 染められぬ
    月光に 静まり返る すすきかな

 ススキは風媒花で、虫などを誘う必要がないので色彩に乏しく、蜜も出さないが、日の光にも風にも露にも和して見られ、昔から秋の七草に選ばれているほど風情のある実力派の植物である。 写真は左から曽爾高原(曽爾村)、観音峰(天川村)、和佐又山(上北山村)のススキ原。
    


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2011年10月12日 | 写詩・写歌・写俳

<41> 夕暮の川面
          夕焼けが 川面を染める うろくづも 染まるか 時の旅のひととき
  昨秋はコウノトリを見に豊岡へ一泊二日のスケジュールで出かけた。今年も一泊二日の予定で茅葺き屋根の集落で知られる京都の美山へ出かける計画を立て、 友人からパンフレットなども送ってもらった。 だが、妻が足を怪我して計画を中止せざるを得なくなった。計画は春に延ばしてもよいかと思っているが、 美山の辺りはやはり紅 葉の時期だろうと思う気持ちが強い。
  それならばもっと近場でもよいという思いもするが、これは本人の気持ち次第である。 十一月の末にはおそらく怪我は完治するだろうから近場の紅葉は二人で出かけることが出来る。思いはいろいろと巡り、フィルムライブラリーのファイルを検証していたら、吉野川の川面のフィルムに目がとまった。 取り出して見ていると、 気分は旅になった。 所謂、 幻想の旅で、 旅は懐かしさを加え、冒頭の歌にも及ぶことになった。

                         
  旅とは単なる旅行に止まらず、 時の旅、人生そのものを意味するものでもある。 冒頭の歌にもその意味が思われるところ。 染まるも染まらないも旅するものには切ないものが纏う。 自然派の歌人若山牧水に「白鳥はかなしからずや空の青海の青にも染まずただよふ」という名高い歌があるが、うろくづ( 魚 )にも時の旅には「 かなしからずや 」と言えるところがあるのではなかろうか。 写真は五條市内の吉野川。