大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2011年10月30日 | 写詩・写歌・写俳

<58> 雨の日の水面
             さびしさが 岸辺より見ゆ 晩秋の 雨が水面に降り 止まずあり
 我が家の近くに溜池がある。管理がいき届き、結構綺麗な池で、毎年初夏のころになると養殖のために金魚が放たれる。で、出荷する盛夏のころまでは、よく塊まりになって泳ぐ赤い群れを見る。このためか、カワウやシラサギがときおりやって来て姿を見せる。常住しているのはカイツブリで、今日も雨の降る水面で浮き沈みしながら泳いでいる。
 不思議なことにあの貪欲なカラスはいつも頭上でかあかあ鳴いているが、金魚には全く興味を示さず、手出しをしない。業者はときおり金魚に餌を運んで来て与えている。このため水に栄養分が増えるからだろうか、アオコの発生が見られる。稲刈りも終わって、田に水の必要でない時期に来たが、今年は池にまだ十分水が残っている。毎年冬になると池は水を落としてしまうので、底まで干上がる。そして、また、春になると池に水を張り、田植えの時期に備える。
 大和は北部と南部で気候に違いがあるが、殊に雨量に著しい違いがある。紀伊半島に属する南部は日本有数の多雨地帯であるのに対し、盆地と高原に当たる北部は瀬戸内と同様、雨量の少ないことで知られ、その差は南部の年間四五〇〇ミリを越える雨量に対し、三分の一以下という次第である。盆地の地形とこの雨量の少ないことによって溜池が極めて多い土地柄にあり、その数は一万を超すと言われるほどである。我が家に近いこの溜池も同じく、潅漑に活用されている。
 池にはそのうち冬の渡りのカモの類がやって来る。で、池は冬のたたずまいを見せるようになるが、まだ、冬鳥たちの姿はない。池は冬場にときおり干されることがあるので養殖金魚のほか自然の魚の類はほとんど見られず、よって、この池で釣りをする人は見かけない。十年ほど前まで池の下の溝にホタルが見られたが、コンクリートで被われてしまった今日ではホタルのホの字も感じられない。

              
 池は今、一段落しているところであるが、勢いよく田に水を送り出していた時期を思うと、何か一抹の寂しさが感じられる。で、冒頭の歌になった。写真は水面に降る雨と二羽で泳ぐカイツブリ。