<1880> 大和の花 (148) ハコベ (繁縷)、コハコベ (小繁縷)、ウシハコベ (牛繁縷) ナデシコ科 ハコベ属
この頁ではハコベ属の仲間たちを紹介したいと思う。まずはハコベ(繁縷)について。ハコベは春の七草のハコベラでお馴染みの1年草乃至は2年草で、古くから知られ、日本初の本草書である平安時代に出された『本草和名』(深江輔仁著・918年)に見える波久倍良(はくべら)が、ハコベラ、ハコベと転訛して来たものと考えられている。
世界各地に分布し、日本でも全土で見られ、道端や田の畦などそこいら中に生えている雑草で、高さが10センチから30センチほどになる。葉は1、2センチの卵形で、対生し、茎はよく分枝して繁茂する。全体に軟らかく、昔から食用にされ、春の七草にも加えられ、七草粥にされた。
また、ヒヨコや小鳥の餌に利用されたことから、英名はChickweed(ヒヨコの雑草)で、日本でもヒヨコグサの俗称で呼ばれ、ハコベの認識が洋の東西で変わらずあることがわかる。正岡子規の句には「カナリヤの餌(ゑ)に束(つか)ねたるはこべ哉」と見え、小鳥の餌にしたことも、その昔にはあったことがうかがえる。
ほかにも、ハコベはハコベ塩にし、齒磨きに用いたと言われる。これは江戸時代のことで、『倭漢三才図会』(寺島良安編纂・1715年)によれば、ハコベの青汁を塩とともに炒ったものを指先につけて齒を磨いたとされる。歯ぐきの出血や歯槽膿漏の予防によいとされ、庶民の間で用いられた。今は厄介な雑草扱いであるが、昔は暮らしの中で大いに利用されていた植物の一つだったということが出来る
ハコベは本来、茎が緑色のアオハコベ(青繁縷)をいうようであるが、ほかに、全体が小形で、茎が暗紫色を帯びるコハコベ(小繁縷)があり、これも含めてハコベと認識されているとも言われる、また、花柱が3個のハコベやコハコベに対し、花柱が5個のウシハコベ(牛繁縷)が見られる。
写真は左からハコベ、コハコベ、ウシハコベの花。花期はみな春から秋で、5弁の白い花を上向きに咲かせるが、花弁が基部まで裂けるので10弁に見える。3者の花はよく似るが、ハコベは萼片が花弁よりもかなり大きく、コハコベも少し大きい。ウシハコベは花の中央に位置する白い花柱が5個の違いがある。 繁縷咲く 母子が外の面の 陽気かな
<1881> 大和の花 (149) ノミノフスマ (蚤の衾) ナデシコ科 ハコベ属
日本の全土に分布し、アジアの一帯に見られ、田畑の畦や荒れた草地などでよく見られる1年草乃至は2年草で、高さは大きいもので30センチほど。全体に無毛で、よく繁茂して群落をつくる。葉は1、2センチの長楕円形で、ノミノフスマ(蚤の衾)の名はこの小さな葉にノミの寝床を連想したことによると言われる。
花期は4月から10月と長く、花は白い5弁花で、花弁が深列して10弁に見えるところはハコベ属の仲間の特徴で、一見したところ、ハコベ等と見間違うこともあるが、花の中心の花柱が5個に及ばず、花弁が萼片よりも大きく、ときには萼片が花弁に隠れて見えないこともある点によってノミノフスマと同定出来る。なお、夏の花は花弁の見えないものもある。とにかく、ハコベ属の仲間たちの白い小さな5弁花が咲き始めると、春も本番入りで、ほかにも春の花が咲き始めにぎやかになる。 写真はノミノフスマの花。 雪を見し岡の衾も芽ぶき初む
<1882> 大和の花 (150) サワハコベ (沢繁縷) ナデシコ科 ハコベ属
山地の谷沿いの湿地に生える多年草で、茎は地を這い、上部は斜上して、草丈は10センチから20センチになる。葉は対生し、三角状卵形で短い毛があり、縁に鋸歯はない。花期は5月から7月ごろで、上部の葉腋に細い花柄を出し、その先に直径が1センチから1.5センチほどの白い5弁の花を開く。花弁は中裂する特徴が見られる。
本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では山中の谷沿いの湿ったところで見かける。春日山で見かけたときにはアブラナ科のマルバコンロンソウ(丸葉崑崙草)と同時に花を咲かせていた。 写真はマルバコンロンソウに紛れて花弁が中裂する白い5弁花を咲かせるサワハコベ(左)、花柄を直立させて咲くサワハコベ(中)、大きさが4センチほどの三角状卵形の茎葉と花(右)。 芽ぶくもの競ふでもなく競ひゐる
<1883> 大和の花 (151) ミヤマハコベ (深山繁縷) ナデシコ科 ハコベ属
サワハコベと同じく山地の谷沿いの湿り気のあるところに生える多年草で、サワハコベに比べ、本種は日当たりのよい明るいところを好み、群生することが多く、花どきにはよく目に出来る。北海道の西南部から本州、四国、九州に分布し、国外では済州島に見られるという。名にミヤマ(深山)とあるが、大和(奈良県)では標高1300メートル以下の低山帯でよく見かける。
茎は地を這い、上部で斜上し、高さは大きいもので40センチほどになる。葉は広卵形で対生し、鋸歯はなく、表面は無毛、大きさは長さが3センチほどになる。花期は5月から7月ごろで、上部葉腋から毛のある花柄を立て、直径が1.5センチ前後の白い五弁花を上向きに開く。花弁はハコベ属の特徴で、深裂するため、10弁に見える。ほかのハコベ属の花に比べ、大きいので立派に見える。 写真は左から群落をつくって花を咲かせるミヤマハコベ、萼片が花弁とほぼ同長の花、萼片が花弁よりも短い花(御杖村山中と金剛山)。 どんな花咲かすか芽ぶくチューリップ
<1884> 大和の花 (152) オオヤマハコベ (大山繁縷) ナデシコ科 ハコベ属
山地の湿った林内の半日陰に生えるハコベの仲間の多年草で、茎は上部でよく分枝し、高さは40センチから80センチほどになり、短い柄のある長さが10センチほどの長楕円形で先が尖る葉を対生する。花期は8月から10月ごろで、上部の葉腋に花柄を出し、白い小さなミリ単位の5弁花を集散状につける。よく見ると、花弁の基部が極端に細く、先が裂けてカニの爪のような形に見える。萼片はその花弁より長く、花糸も長い特徴がある。萼片や花柄には腺毛が目立つ。
本州の岩手県以南、四国、九州に分布し、国外では中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では吉野川より南の紀伊山地で見受けるが、シカの食害が心配され、奈良県のレッドデータブックは希少種にリストアップしている。私が出会った天川村の山中では、ミカン科のマツカゼソウと混生するように生え、小さい白い花の雰囲気が似ていることから見間違ったことがある。また、薄暗いところに生えるので、微風にも花が揺れて写真に撮りづらい花の印象がある。 写真は群生して白い小さな花を咲かせるオオヤマハコベ(左)と花のアップ。 花の数 数ある命と思ふべし
<1885> 大和の花 (153) ミミナグサ (耳菜草) ナデシコ科 ミミナグサ属
道端や田畑の畦など日当たりのよい草地に生える多年草で、日本全土に分布し、朝鮮半島、中国からインドにかけて見られ、大和(奈良県)では平野部から標高1500メートルの山岳まで高低差にかかわらず見受けられる。東吉野村の標高約1300メートルの明神平の草地にツメクサ(爪草)やニョイスミレ(如意菫)とともに見られるのは種子が登山者によって運ばれた可能性が強い。山上ヶ岳の大峯奥駈道の分岐付近でも見かけたが、これも同じことが言えようか。平野部では帰化したヨーロッパ原産のオランダミミナグサ(和蘭耳菜草)の進出にともない少なくなっていると言われる。
茎は暗紫色のものが多く、草丈は大きいもので30センチほどになり、全体に短毛がある。葉は3センチ前後の卵形から長楕円形で、対生し、この葉をネズミの耳と見たことによりこの名があるという。花期は4月から6月ごろで、茎頂の葉腋からまばらに花柄を出し、先端がわずかに2裂する白い5弁の花を開く。萼片は花弁とほぼ同長で、暗紫色を帯び、軟毛や腺毛が生えている。実は円柱形の蒴果で、先端が10裂して種子をばらまく仕組みになっている。 写真はミミナグサ。全体に毛の多いのがわかる。 真鴨二羽泳ぎにも見ゆ仲のよさ
<1886> 大和の花 (154) オランダミミナグサ (和蘭耳菜草) ナデシコ科 ミミナグサ属
ヨーロッパ原産の越年草で、温帯に広く分布し、明治時代の末に植物学者の牧野富太郎によって見つけられた帰化植物である。日当たりのよいところに生え、今では北海道を除く各地に広まり、大和(奈良県)でも道端や田畑の畦などで普通に見られる。高さは30センチほどになり、葉はミミナグサに等しく対生する。全体に軟毛と腺毛が多いので触れるとべたつく特徴がある。
花期は4月から5月ごろで、茎頂の集散花序に花弁の先端が2裂する白い5弁花を咲かせ、葉も花もミミナグサによく似るが、ミミナグサに較べ花柄が短く、ほとんどないように見える点と花弁の裂け方がミミナグサより深く、花数が多い傾向にある。
なお、オランダミミナグサの進出によって在来のミミナグサが追いやられ、平地部では少なくなって来たと言われる。これは外来と在来の関係性によるものであろう。グローバル化する現代の植生の一つの傾向と見ることが出来る。 写真はオランダミミナグサの花。ミミナグサよりも花数が多く、にぎやかに見える。 鴨の群 旅立ち近し 元気なり
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