shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

With The Beatles

2009-09-19 | The Beatles
 この「ウィズ・ザ・ビートルズ」はビートルズの全アルバム中最もロックンロール色の濃いアルバムである。私は「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」、「レット・イット・ビー」といった有名曲からではなく、躍動感に溢れる初期の楽曲群から彼らに入門していったので、ビートルズ愛の原点はあくまでもアップテンポでノリノリのロックンロール・サウンドにあり、そういう意味でもこのアルバムへの愛着はハンパではない。当時中学生だった私はお金がないこともあって「ツイスト・アンド・シャウト / ロール・オーヴァー・ベートーベン」や「プリーズ・ミスター・ポストマン / マネー」といったシングル盤をパラパラと買っていたのだが、どの曲もあまりにもカッコ良かったので、 “これはやっぱりLP買わなアカン!” と思い、数少ない小遣いをせっせと貯めて買ったのが収録曲が同じで曲順が違う「ステレオ!これがビートルズ Vol.2」という日本盤LPだった。その後は昨日の「プリーズ・プリーズ・ミー」と同様にUKジャケ仕様の日本盤LP、87年旧規格CDへと進化(?)していき、2004年に私が “UKオリジナル盤の世界” という名の魔界に落ちたことは昨日書いたが、そのきっかけとなったアルバムが実はこの「ウィズ・ザ・ビートルズ」だったのだ。
 我が家で毎月開催している音聴き会G3の話はこれまで何度か書いてきたが、その年の2月定例会の場で、それまでジャズの話しかしていなかった901師匠が唐突に “今 eBayでビートルズの黄パロをウォッチしてんねん(^.^)” と仰ったのだ。この方は過去にもフランス・ギャルやスプートニクスを聴かせて下さって “イエイエ・パラダイス” や “テケテケ・ワールド” といった小魔界へと私を誘って下さった大恩人なのだが、今回はパーロフォンという大魔界(笑)。私も私でそれを聞いて “ビートルズのオリジナル盤かぁ... どんな音するんか興味あるなぁ(^.^)” と思い、会が終わって早速 eBayでチェック、盤質の良さそうな「ウィズ・ザ・ビートルズ」に試しにビッドしてみると偶然落札できてしまったのだ。しかも額は22ポンド... めちゃくちゃ安いっ!!! 送料込みでも約4000円である。10日ほど経って届いたアルバムは奇跡的なくらいにピッカピカで、ほとんどノイズレス!何よりも冒頭の①「イット・ウォント・ビー・ロング」のジョンの第1声 “イウォンビロン イェ~♪” のあまりの凄まじさにブッ飛んでしまった。巨大な音の塊りが押し寄せてくるその様はまるでラオウの天将奔烈、北斗剛掌波の直撃を食らったようなモンで、私のそれまでのリスニング人生において経験したことのない衝撃だった。とにかく音が “強い” のだ。 “良い音” という表現はよく聞くが、こんなに芯の強い音はちょっと記憶にない。目を閉じると眼前でビートルズが歌っているような錯覚に陥るほどの生々しさだ。 “いくらオトが良くなっても音楽自体が変わるワケじゃなし...” と言う人もいるが、ビートルズであれ何であれ、良い音で聴けば良い音楽がますます素晴しく聞こえると私は思う。
 イントロのジョージのギターがまるで鋭利な刃物のように耳に突き刺さる⑧「ロール・オーヴァー・ベートーベン」も強烈だ。お約束のハンド・クラッピングもパワーアップしたかのようで音楽のドライヴ感が増しているし、それまでCDや日本盤LPで聴いてちょっとぎこちないなぁと思っていたジョージのヴォーカルもまるでユンケルでも飲んできたかのように力が漲っている。
 ⑦「プリーズ・ミスター・ポストマン」は音が中域にダンゴ状に固まってスピーカーから飛び出してくるという、いかにもモノラルらしいサウンドがコーフンを呼ぶ。このマーヴェレッツのヒット曲はカーペンターズとビートルズのカヴァー・ヴァージョンが双璧だと思うが、洗練された聴き易いポップスの極みといえるカーペンターズに対し、粗削りだが理屈抜きにビンビン心に訴えかけてくるビートルズと言ったところか。何にせよ彼らがカヴァーしたおかげで、この曲は単なるモータウンの古いヒット・ソングから、誰もが知ってるポップス・スタンダードへと昇格したのだ。
 ⑭「マネー」はジョージ・マーティンの弾くピアノの低音の押し出し感がたまらない野性味溢れるロックンロールで、私は何よりもロック・ヴォーカリストとしてのジョン・レノンの凄さをこの曲で実感させられた。バレット・ストロングが歌った原曲と聴き比べれば一聴瞭然、ジョンのあの翳りのある太いシャウト・ヴォイスが曲に新たな生命を吹き込み、強烈にグルーヴさせている。そしてトドメとばかりに放った一撃 “オーイェー アイ・ワナ・ビー・フリー!!!” (←ジョンの即興らしい...)でこの曲は完全にジョン・レノンのものになったのだ。メル・テイラーみたいなグルーヴを生み出すリンゴのドラムスにも注目だ。
 アルバムはAB面共にトップとラストに火の出るような激しいロックンロールを配し、その合い間にミディアムやスロー・テンポのヴァラエティー豊かな曲を巧く並べてあるので、一気通聴してみて非常に快適だ。中でも印象的なのが②「オール・アイヴ・ゴット・トゥ・ドゥ」や⑬「ノット・ア・セカンド・タイム」といったジョンが歌うミディアム・スローのナンバーで、初期ビートルズの裏ベスト盤を作るなら真っ先に候補に挙げたい名曲名唱だ。ノリノリの⑤「リトル・チャイルド」におけるハーモニカやピアノの使い方は彼らの音楽性の高さを示しているし、⑫「デヴィル・イン・ハー・ハート」におけるジョージのヴォーカルとジョンとポールのバック・コーラスが織りなす絶妙なハーモニーも言葉では言い表せない素晴らしさ。「蜜の味」に続くポールのスタンダード・ナンバー・シリーズ⑥「ティル・ゼア・ワズ・ユー」はポールの歌い手としての実力を知らしめる名唱で、いかにもペギー・リー好きのポールらしい選曲だと思う。③「オール・マイ・ラヴィング」は私が初めてビートルズを赤盤で聴いた時に最もインパクトがあった曲で、ジョンのリズムギター三連符とポールなメロディーは正直言ってカルチャー・ショックに近いモノがあり、私が彼らに生涯の音楽を感じるきっかけとなった運命的なナンバーだ。
 とまぁこのように、このアルバムはビートルズ入門当初からの溺愛盤であり、21世紀に入ってからは魔界入り第1号(笑)として私のリスニング人生を大きく変えた1枚なのだ。これに味をしめた私はそれ以降ビートルズ・UKオリジ盤の深遠なる世界にハマッていった。

The Beatles It Won't Be Long (Promo HQ)
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