shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Let It Be / The Beatles

2009-09-30 | The Beatles
 日本における「レット・イット・ビー」の人気は絶大なものがある。アナログLP時代はビートルズのラスト・アルバムということもあってかオリジナル・アルバムの中で最高の売り上げを誇っていたというし、今回のリマスターでも「アビー・ロード」に次ぐ売り上げ(それにしても3万円を超えるボックス・セットが1週間で56,000セットも売れるとは... これに輸入盤も入れたら凄い数字になりそうやな...)だったし、発売後40年近く経っても “レット・イット・ビー神話” は健在といったところだろう。
 しかしこのアルバムはその制作過程のゴタゴタを反映してか、すべてのビートルズ・ファンから諸手を上げて歓迎されているわけではない。そういう意味では非常に因果な宿命を背負った鬼っ子アルバムとも言える。その辺の複雑怪奇なストーリーは書いているとキリがないので省略するが、要するに何度も “一応完成→あっさり却下→ミックスし直し” を繰り返した結果、ジョージ・マーティンやグリン・ジョンズ、そして問題の男フィル・スペクターといった様々な人間がプロデュースしたヴァージョンが生まれ、そこにメンバー間の対立という要素が絡んで、ファンは “グリン・ジョンズ版ゲットバック派” と “フィル・スペクター版レット・イット・ビー派” とに分かれ、 “一体どっちが本物やねん?” と喧々諤々の議論を展開してきた。しかも困ったことに(←ファンとしては嬉しいのだが...)そこに「アンソロジー3」での発掘ヴァージョンや「レット・イット・ビー・ネイキッド」の修正強化ヴァージョン(テイク○とテイク△を繋いだとか、どの音を消したとか、もうワケがわからん!)までもが加わり、しっちゃかめっちゃかのバトルロイヤル状態で、頭の悪い私にはとてもついていけない泥沼と化していた。
 この問題については、これまで本やらネットやらで色んな人の意見を目にしてきたが、私に言わせれば、これはもう真贋の問題ではなく単純に聴く人の好みの問題だ。例えるなら、(1)薄化粧のグリン・ジョンズ版、(2)厚化粧のフィル・スペクター版(リマスターは化粧直し?)、(3)ほぼスッピンのアンソロジー版、(4)最新テクノロジーで整形したネイキッド版(日本盤CCCDはゴミ以下やけど...)、のどれが好きか、といったところだろう。因みに私の好みの音は基本的には(1)なのだが、曲によっては(2)(3)(4)にもエエのがあるなぁ、という感じで、それぞれ違ったものとして楽しんでいる。何と言っても素材はビートルズなのだ。化粧していようがしていようまいが美しいことに変わりはない。最高の素材を色々なミックスで楽しめることをむしろ喜ぶべきだろう。
 ビートルズのアルバムはA面1曲目に強力なナンバーを持って来るのがお約束なのだが、それを知ってか知らずかスペクターが選んだのが①「トゥ・オブ・アス」だ。ハッキリ言ってこれは弱い。曲の良し悪しではなく、インパクトが弱いのだ。それともスペクターは最初からこのアルバムをビートルズのスワン・ソングとして上品に仕上げるつもりだったのだろうか?冒頭にジョンのジョーク“I dig the pygmy...” を配したのは大正解で、私なんかコレがないと「トゥ・オブ・アス」を聴いた気がしない。曲そのものは上品なアコースティック・ナンバーで、エンディングの口笛なんかほのぼのしていてコレはコレでエエのだが、私としては映画の前半(「マックスウェル」の次やったと思う...)でジョンとポールがおどけながら歌っていたノリノリのロックンロール・アレンジ(←1本のマイクを挟んで二人が向かい合って歌うシーンが最高!)の方により魅かれる。②「ディグ・ア・ポニー」はルーフ・トップ・ヴァージョンで、曲としては何かダル~い感じでイマイチ華が無いのだが、ライヴの勢いで何とか押し切っている。
 ③「アクロス・ザ・ユニヴァース」は歌詞といい、旋律といい、後期ビートルズのジョン曲では屈指の名バラッド。元々は「アンソロジー2」で聴けるシンプルなヴァージョン、ジョージ・マーティンがチャリティー・レコード用にテープ・スピードをやや上げて鳥の羽音やコーラスを大きくフィーチャーした通称バード・ヴァージョン、スペクターが逆にテープ・スピードをやや落として荘厳なコーラスとストリングスを被せた正規ヴァージョン、そして途中まではめっちゃエエ感じやのにエンディングで気持ち悪いぐらいのリヴァーヴをかけて全てが台無しのネイキッド・ヴァージョン、の4種類が存在し(もう一つ、グリン・ジョンズ・ヴァージョンが存在するが未聴)、どれがベストかファンの間で意見が分かれるところだが、私はこのスペクター・ヴァージョンの幻想的な雰囲気が一番好きだ。皆さんはどうですか?④「アイ・ミー・マイン」はジョージのロック・ワルツで、これを聴くとどうしてもスタジオでダンスに興じるジョンとヨーコのシーンが目に浮かんでしまう。あぁ嫌だ(>_<) せっかくのビートルズ映画でヨーコは見たくない。
 ⑤「ディグ・イット」は単調なメロディーの繰り返しで延々と続きそうなジャム・セッションの一部を抽出したわずか50秒と言う短いトラックで、最初のうちは “何じゃコレは?” と思っていたが、後になってブートレッグで聴いたグリン・ジョンズ・ヴァージョンでは4分26秒に亘ってうねるようなグルーヴを生み出しており(←ビリー・プレストンの貢献が大!)、すっかりこの曲を見直してしまった(^.^) ⑥「レット・イット・ビー」は美しい旋律の奥底に潜むゴスペルとしての本質を鋭く見抜いたジョージ・マーティン・プロデュースのシングル・ヴァージョンの方が断然良い。興味のある方はぜひ聴き比べてみて下さい。⑦「マギー・メイ」はイギリスのトラディショナル・フォーク・ソングで、ミックス違いもクソもないわずか40秒の演奏というのが返す返すも残念だ。それにしても荘厳な⑥の直後にコレというのは、ちょうど「アビー・ロード」のB面大メドレーが終わった後に「ハー・マジェスティー」が置かれてたのと共通するモノを感じるのだが、どうなんだろう?
 ⑧「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」はジョンとポールがそれぞれ未完成の2曲を持ち寄って完成したという、二人がまだ仲が良かった頃を想わせるような合作で、2分44秒で炸裂するリンゴのドラムから二人のヴォーカルが折り重なるようにして対位法で進行していく所なんかもう涙ちょちょぎれまくる。映画ではポールとジョージの口論の場面がショックだったが、その直後に演奏されたこの曲の中で欝憤を晴らすかのように “Good morning!” と叫ぶポールが印象的だった。⑨「ワン・アフター・909」はデビュー前にジョンが書いたロックンロールで、ルーフ・トップ・コンサートでもノリノリのプレイが印象的だった。「アンソロジー1」でこの曲の初期ヴァージョンが聴けるが、どちらも甲乙付け難い名演だと思う。
 ⑩「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」を巡る論争はもう語り尽くされた感があるが、私見としてはスペクターもポールもどちらも正しいと思う。つまり、あくまでも “ロック・バンドのシンプルなバラッド” として処理することを望んだポールと、より一般ウケするようにオーケストラを加えた(←老若男女すべてにアピールするよう割り切って考えればこのアレンジは見事やと思う...)スペクターの視点の違いなのだ。私的にはムード・ミュージックみたいなお涙頂戴ソングに堕したスペクター・ヴァージョンはあまり好みではない。
 ジョージの⑪「フォー・ユー・ブルー」は一見地味なのだが、私はこの曲の軽妙なブルース・フィーリングが結構気に入っている。映画では各メンバーがアップル・オフィスに入っていく場面で流れたこの曲、特にジョンのスライド・ギターが抜群の効果を上げている。そういえば高校の音楽の時間に、アコギの弦に万年筆をスライドさせて “フォー・ユー・ブルーごっこ” をやって遊んだのを思い出す(笑)。 ⑫「ゲット・バック」はこのアルバムの中で最も好きな曲で、(アルバム発売順で言えば)ビートルズの最後をビシッとキメた、胸のすくようなロックンロール・ナンバーだ。リンゴのドラミングが演奏をグイグイと引っ張り、ジョージがめちゃくちゃ巧いリズム・カッティングで絶妙なグルーヴを生み出し、ジョンのリード・ギターはバンド全体をドライヴさせ、ポールのベースがブンブン唸り、ビリー・プレストンのファンキーなキーボードが熱気に拍車をかけるという、まさに全員が一丸となった入魂のプレイが楽しめるのだ。どちらかというとシングル・ヴァージョンの方が好みだが、大差はない。これだけの名曲名演になると、スペクターもあれこれこねくり回すことが出来なかったのだろう。
 まぁこのアルバムに関してはヴァージョン違いの話題は避けて通れないので何やかんやと好き放題書き散らしてしまったが、正直に言うと一番愛聴してるのはUKオリジナル盤(ブックレットなしの初版で16ポンドでした...)ではなく、アナログのブートレッグ「スウィート・アップル・トラックス」と「モア・ゲット・バック・セッション」の2枚ですねん(^o^)丿 はよ映画版のDVD出ぇへんかなぁ... (≧▽≦)

The Beatles, Get Back

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