shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Tripping The Live Fantastic / Paul McCartney

2009-09-13 | Paul McCartney
 ライブ感溢れる快作「フラワーズ・イン・ザ・ダート」でかつてのポップ感覚を取り戻し見事に復活したポールは、そのアルバムを引っさげ89~90年にかけて大規模なワールド・ツアーを行った。そのツアーのベスト・テイクをポールが選び出し、曲順に至るまでライブのセットリストを忠実に再現・収録したライブ・アルバムがこの「トリッピング・ザ・ライブ・ファンタスティック」である。
 それまでポールの公式ライブ盤といえば76年の「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」だけだったので14年ぶりのライブ盤ということになる。曲目を見てまず目を引くのはビートルズ・ナンバーの占める割合がダントツに大きいこと。約半分がビートルズ・ナンバーというのはそれまでのポールでは考えられないことで、ビートルズ解散から20年経ってようやく吹っ切れたということだろうか。ビートルズ曲以外では今回のツアーの主役である「フラワーズ・イン・ザ・ダート」から6曲演奏されており、逆にウイングス時代の曲は極端に少ない。 “ウイングスのライブは「オーヴァー・アメリカ」で聴いてちょ(^.^)” ということだろうか?まぁこれはヒット曲の多いポールならではの贅沢な悩みだろう。
 このアルバムは完全版がアナログLP3枚組、CD2枚組でリリースされる一方で、アップテンポな楽曲を中心にCD1枚にまとめたダイジェスト版も「トリッピング・ザ・ライブ・ファンタスティック---ハイライツ」というタイトルで出されており、サウンドチェック用のリハーサル・テイク etc を除く全30曲中17曲を収めたお徳用盤となっている。マニアックなファンはもちろん前者だが、てっとり早くポールの魅力に触れたい人には後者がオススメだ。ここでは一応後者をベースに話を進めていきたい。
 ①「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」はポールの喉の調子がイマイチで声もかすれているが、完璧を求めるならライブ盤ではなくスタジオ録音盤を聴けばいいだけの話で、私としてはポールが拘りを捨ててビートルズ・ナンバーをストレートに歌ってくれるだけで嬉しい。このアルバムからシングル・カットされた②「バースデー」は「ホワイト・アルバム」の中でも一ニを争う私の愛聴曲で、ここでも疾走感溢れる歌と演奏が楽しめる。ポールも絶好調で、たたみかけるようなノリが圧巻だ。③「ウィー・ゴット・マリード」はスパニッシュな前半からハード・ドライヴィングな後半への盛り上がりが忠実に再現されているのがいい。 “60年代に帰ろう” というポールの言葉に続いて始まる④「ロング・アンド・ワインディング・ロード」は何故かあれほど毛嫌いしていたスペクター・アレンジ。何で???
 響き渡る⑤「サージェント・ペパーズ」のイントロにブッ飛ぶ私。⑰のアビー・ロード後半メドレーもそうだが、ライブでの再現を前提としていなかったこれらの曲が聴けるなんて夢の夢にも思っていなかったので、もう嬉しくてたまらない。後半はテンポを上げて “リプリーズ” へと突入。もう鳥肌モノの素晴らしさだ。間奏のギター・ソロが長すぎるのが唯一の難点か。理屈を超越した衝動が全身を襲う⑥「キャント・バイ・ミー・ラヴ」、他のバンドが逆立ちしても出せないこのグルーヴこそがビートルズをビートルズたらしめていたのだ。
 ⑦「オール・マイ・トライアルズ」と⑧「シングス・ウィー・セッド・トゥディ」を続けて聴くと、改めてビートルズの凄さが浮き彫りになる。4分56秒丸ごと1曲メロディーの塊で、一ヒネリしたアレンジがこれまた絶品だ。エンディングのギター・ソロからそのまま⑨「エリナー・リグビー」のストリングスのイントロへと繋がり、オリジナルよりもテンポを少し下げて歌うポールの歌声を聴いているだけでもう感無量だ。ビートルズの魔法は時の試練を軽く跳ね返し、駄曲凡曲だらけの21世紀音楽界において更にその輝きを増していく。
 珠玉のビートルズ・ナンバーに挟まれても見劣りしない80's ポールのビートリィな傑作⑩「マイ・ブレイヴ・フェイス」、ジェット音で始まるイントロを聴いただけで熱いモノが込み上げ、伝説のモスクワ公演の興奮が蘇る⑪「バック・イン・ザ・USSR」、歴史はここから始まった!と言いたくなるビートルズ・ロックンロール・クラシックス⑫「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」と、まさに名曲名演のアメアラレ攻撃だ(^o^)丿 ⑪⑯と共に東京公演の音源を収録した⑬「カミング・アップ」はウイングス時代の有名なグラスゴー・ライヴをも上回るようなグルーヴ感が素晴らしい。
 何百回何千回と聴いてきて耳タコのはずなのに聴くたびに感動が襲ってくる⑭「レット・イット・ビー」と⑮「ヘイ・ジュード」というポピュラー音楽史上最強のバラッド2連発の前にはただ平伏すのみ。特に⑮の後半部では、 “こっち側の席の人!” “今度は反対側の人!” “はい、次は真ん中の席の人!” と、わき起こる大合唱を指揮(?)するポールに大盛り上がりの会場の興奮が手に取るように伝わってくる。 “ウォウ~ イェ~”というオーディエンスとの掛け合いから一気になだれ込む⑯「ゲット・バック」のカッコ良さ(≧▽≦) この曲も含め、今回のツアーではポールの絶頂期といわれる “リヴォルヴァー以降” の楽曲を中心にセレクトされているのも面白い。続いて様々な言語でリンダを紹介するMCが入るが、これが中々微笑ましい雰囲気で大好きだ(^.^) 当然日本語もあって “ウチノ カミサン” “リンダデス!” というポールの日本語も楽しめる。ラストはビートルズ・ファンなら涙なしには聞けない⑰「ゴールデン・スランバーズ~キャリー・ザット・ウエイト~ジ・エンド」、この圧倒的な音楽の奔流に身を任せる快感は何物にも代えがたい。至福の6分27秒だ。
 このツアーを大成功させ、ライブ・パフォーマーとしての自信を取り戻したポールは、80年代のようにヘタに時流を意識するのをやめ、グランジ/オルタナ系ロックで自滅への道を突き進む90年代音楽界を尻目に、我が道を行くアルバムをマイペースで作っていくようになる。

Paul McCartney - Live In Japan 1990 10/13