shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Off The Ground / Paul McCartney

2009-09-15 | Paul McCartney
 1990年代に入って音楽シーンは大きく歪もうとしていた。それまで全盛を誇っていた明るく楽しいポップスが衰退し、代わりにワケのわからんラップやどれを聴いてもみな同じに聞こえる黒人コーラス、そしてただウルサイだけのグランジ・オルタナ系ロックが台頭してきて、更に追い打ちをかけるようにビルボード・ホット100 の集計方法がコロコロ変わって迷走しまくった結果、ヒットチャート自体が急速にその魅力を失っていった。このように音楽シーンが歪んでくると、一番ワリを食うのがマトモな音楽をやっているアーティスト達で、いくつかの例外を除き、80年代に活躍した連中をも含めたベテラン勢は苦戦を強いられた。当然ポールも例外ではなく、アルバムもかつてのようなミリオンセラー連発とはいかなかったが、90年の “ゲット・バック・ツアー” や 91年の MTV アンプラグドですっかり自信を取り戻し、信頼できるバンド・メンバー達との結束を固めたポールは迷うことなく自らの信じる道を進み始めた。そして出来上がったのが93年リリースの「オフ・ザ・グラウンド」である。
 アルバムの第一印象は “アンプラグド的な要素の強いシンプルなバンド・サウンド” というべきもので、MTV アンプラグドの成果を活かしながら「フラワーズ・イン・ザ・ダート」の路線を更に推し進めたような感じがする。だからビートルズやウイングスのようなスリリングな展開は希薄だが、さりげなく良い曲が一杯詰まったフレンドリーなアルバムになっていると思う。
 私がダントツに好きなのは 1st シングルになった③「ホープ・オブ・デリヴァランス」で、MTV アンプラグドで味をしめたアコギ中心の軽快なポップ・ナンバーになっており、ポールなメロディーが次から次へと出るわ出るわのワンコソバ状態だ(^o^)丿 更にダメ押しとばかりに繰り出されるノリノリのハンドクラッピングにポールの一人追っかけ二重唱と、サウンド・プロダクションの面でも徹底的に作り込まれている。これはもう90年代ポール屈指の大名曲だろう。因みに私はポールの好不調をこのようなキャッチーでノリの良い曲がササッと書けるかどうかで判断している。
 ライブ感溢れる⑥「バイカー・ライク・アン・アイコン」も素晴らしい。バイク野郎を追っかける少女を歌った歌詞を、僕とフリオと校庭にいるような(笑)イントロからタイトなバンド・サウンドに乗せて一気呵成に歌うストーリーテラー、ポールがカッコイイ!この手の疾走系ロックンロールが好きな私には堪えられない1曲だ。今にして思えば 80年代の不調時には③や⑥のような曲が皆無だった。素晴らしいバンド仲間を得てポールはすっかり好調の波に乗ったと言えよう。
 アルバム冒頭を飾るタイトル曲①「オフ・ザ・グラウンド」も非常に良く出来たナンバーで、爽やかなバック・コーラス、これがあるとないとでは大違いのハンド・クラッピング、縦横無尽に暴れまくるスライド・ギターと、オーヴァーダビングを重ねて非常に重厚なサウンドに仕上げている。イントロからラウドなギターとヘヴィーなリズムが炸裂する②「ルッキング・フォー・チェンジズ」は①をハードにしたようなナンバーで、キャッチーなサビのメロディーもインパクト大だし、演奏自体もノリノリだ。ただ、動物実験による虐待を痛烈に皮肉った陳腐な歌詞はちょっと...(>_<) この頃からポールの歌詞には環境保護や動物愛護といったメッセージ・ソングが増えてきて、ちょうど70年代前半のジョージの宗教モノと同じで、時々その押しつけがましさが鬱陶しく感じられるのが玉にキズだ。
 ⑦「ピース・イン・ザ・ネイバーフッド」はミディアム・テンポでグイグイ突き進むグルーヴィーなナンバーで、ポールらしいメロディーが楽しめる。もう少しアレンジを工夫して短くまとめれば傑作になったかもしれない。⑩「ゲット・アウト・オブ・マイ・ウェイ」はチャック・ベリーの「ジョニー・ビー・グッド」を裏返しにしたような軽快なロックンロールで、単品としてはエエねんけど、アルバムの流れの中ではちょっと浮いてるような感じがする。⑫「カモン・ピープル」は何となくアルバム「レッド・ローズ・スピードウェイ」を想わせる曲想を持った佳曲で、後半部のビートリィな盛り上がりは圧巻だ。あと、シークレット・トラックとしてラストに「コズミカリー・コンシャス」という曲が入っており、これが何とビートルズ時代にインドで書かれたという。何とも不思議なグルーヴを持った曲で、いかにも “あの時代” を彷彿とさせる雰囲気を醸し出している。まぁポールのことだから、これからも“デビュー前に作った曲” や “ビートルズ時代に書いた未発表曲” がいくらでも出てきそうでファンとしてはめっちゃ楽しみだ。

Paul McCartney - Hope Of Deliverance

Unplugged / Paul McCartney

2009-09-14 | Paul McCartney
 89年の「フラワーズ・イン・ザ・ダート」で80年代のスランプから抜け出し、90年の大作ライブ「トリッピング・ザ・ライブ・ファンタスティック」でビートルズをも含めたそれまでの自分史を総括したポールは91年1月に MTV アンプラグド(アンプからプラグを抜く、つまりアコースティック楽器のみで演奏を行う MTV の人気番組)に出演した。その時の模様を収めたライブ盤がこの「アンプラグド」(公式海賊盤)である。
 このアルバムは構図といい、色使いといい、3年前にソ連だけで発売されたオールド・ロックンロール・カヴァー集「CHOBA B CCCP」(バック・イン・ザ・USSR)の姉妹編のようなジャケットだが内容は圧倒的にこちらの方が上だろう。パーソネルはワールド・ツアーでパーマネントなバンドとして固まりつつあったポール&リンダ、ヘイミッシュ・スチュワート(ギター)、ロビー・マッキントッシュ(ギター)、ポール・ウィックス・ウィケンズ(キーボード)という5人にドラマーのブレア・カニンガムが新加入し、カッチリとまとまったタイトな演奏を聴かせてくれる。全17曲中、ビートルズ・ナンバー6曲(⑤⑨⑪はソロになって初出)、1st ソロ「マッカートニー」から⑧⑫⑰の3曲、ポールがデビュー前に書いたという未発表曲②、そして残る7曲がロックンロール・クラシックスといえるスタンダード・ナンバーで、非常にバランスの取れた構成になっている。
 ジーン・ヴィンセントのカヴァー①「ビー・バップ・ア・ルーラ」を1曲目に持って来たのはジョン・レノンの名盤「ロックンロール」を意識してのことだろうか?どちらのヴァージョンもそれぞれの個性がよく出ていてファンとしては甲乙付け難い名唱だ。②「アイ・ロスト・マイ・リトル・ガール」はポールが14歳の時に書いたというカントリー調のナンバーで、何の違和感もなくセット・リストの中にピッタリと収まっているところがある意味凄いと思うのだが、ポールは尊敬するバディ・ホリーの “しゃっくり唱法” を取り入れて軽快に歌っている。③「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」は「ヤァ!ブロードストリート」以来の再演で、ウィックスのアコーディオンが良い味を出している。それにしてもホンマにエエ曲やなぁ... (≧▽≦) ビル・モンローの④「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」は初期ウイングスでも取り上げていたカントリー・ナンバーで、私はすぐにエルヴィスのカヴァーが思い浮かぶのだが、2分2秒から一気にテンポを上げて疾走する展開はまさにエルヴィス・ライク。この怒涛の展開がたまらんなぁ...(^o^)丿
 ⑤「ウィー・キャン・ワーク・イット・アウト」は出だしでポールが歌詞を間違えてやり直すところがご愛嬌(^.^) ポールのMCも和気あいあいとした雰囲気で微笑ましい。ミドル・エイトの部分でジョンの代わりを務めるヘイミッシュのコーラスもピッタリと息のあったところを聴かせてくれる。⑥「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」ではロビーのスライド・ギターとウィックスのホンキー・トンク・ピアノが八面六臂の大活躍、楽しさ溢れる陽気な演奏だ。ポールのアコースティック・セットに外せない屈指の大名曲⑦「アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス」は何度聴いても素晴らしい!!!!! ここではウイングス時代とは違って、オリジナルのビートルズ・ヴァージョンに忠実なアレンジが採用されており、目も眩むようなハイスピード・ギター・カッティングが圧巻だ。
 1st アルバム「マッカートニー」で愛妻リンダに捧げた⑧「エヴリナイト」は1979年のウイングス・ラスト・ツアーや2002年のバック・イン・ザ・USツアーでも取り上げられていたポールお気に入りのナンバーで、20年の月日を経て熟成された味わいが心に染みる隠れ名曲だ。⑨「シーズ・ア・ウーマン」はオリジナルのビートルズ・ヴァージョンとは全く違う大胆なアレンジながら、これがまためちゃくちゃ素晴しくって、演奏にグイグイ引き込まれてしまう。この吸引力はハンパではない。この1曲のためにこのアルバムを買ってもいいくらいだと思えるカッコ良さだ。それにしても珠玉のビートルズ・ナンバーをちょっと違ったアレンジで聴ける喜びを何と表現しよう!ゲット・バック・セッションでジョンが歌っていた⑩「ハイヒール・スニーカーズ」は⑥同様ロビーのスライド・ギターとウィックスのホンキー・トンク・ピアノが聴きもので、ポールのパワフルなヴォーカルも絶好調だ。バックのリズムを聴いてセサミ・ストリートのテーマを思い出してしまうのは私だけ?
 ⑪「アンド・アイ・ラヴ・ハー」はオリジナルよりも更にテンポを落としてスローで迫るユニークなアレンジで、ヘイミッシュのコーラス・ハーモニーが原曲の持っていた哀愁を際立たせているように思う。⑫「ザット・ウッド・ビー・サムシング」は1st アルバム「マッカートニー」以来の登場で、低音高音を見事に使い分けるポールの歌声が面白い。⑦と並ぶアコースティック・ポールの代名詞⑬「ブラックボード」(←この盤を聴けばわかります...)じゃなかった「ブラックバード」は “何も足さない、何も引かない” シンプル・イズ・ベストを絵に描いたような名曲名演だ。ポールがドラムを叩き、ヘイミッシュが歌うというユニークな編成の⑭「エイント・ノー・サンシャイン」に続く⑮「グッド・ロッキン・トゥナイト」はポールお気に入りのロックンロール・クラシックスで、ウキウキワクワクするようなブギウギ・リズムに乗って気持ち良さそうに歌いまくるポールが最高だ。こういう音楽を演る楽しさが伝わってくるような演奏ってたまらんなぁ...(^o^)丿 全米がエルヴィス一色だった1956年に何と10週連続№1を爆走したガイ・ミッチェルの⑯「シンギング・ザ・ブルース」は番組ラストに相応しいミディアム・テンポのナンバーで、オーディエンスの手拍子がすべてを物語っているように思う。間奏で聴けるポールの口笛もゴキゲンだ。⑰「ジャンク」はインストなので本当は「シンガロング・ジャンク」とすべきだろうが、ポールの中ではそんな区別はどうでもいいのだろう。この哀愁舞い散るメロディーは何回聴いてもエエなぁ... (≧▽≦)
 このスタジオ・ライブは煌びやかな「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」や「トリッピング・ザ・ライブ・ファンタスティック」に比べると一見地味に思えるかもしれないが、派手なサウンド・プロダクションがない分、ポールの音楽の素晴らしさをじっくりと味わえる出来になっており、ビートルズ・ファン、ポール・ファン必聴の隠れ名盤だと思う。

Paul McCartney She's A Woman (Live, Unplugged)

Tripping The Live Fantastic / Paul McCartney

2009-09-13 | Paul McCartney
 ライブ感溢れる快作「フラワーズ・イン・ザ・ダート」でかつてのポップ感覚を取り戻し見事に復活したポールは、そのアルバムを引っさげ89~90年にかけて大規模なワールド・ツアーを行った。そのツアーのベスト・テイクをポールが選び出し、曲順に至るまでライブのセットリストを忠実に再現・収録したライブ・アルバムがこの「トリッピング・ザ・ライブ・ファンタスティック」である。
 それまでポールの公式ライブ盤といえば76年の「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」だけだったので14年ぶりのライブ盤ということになる。曲目を見てまず目を引くのはビートルズ・ナンバーの占める割合がダントツに大きいこと。約半分がビートルズ・ナンバーというのはそれまでのポールでは考えられないことで、ビートルズ解散から20年経ってようやく吹っ切れたということだろうか。ビートルズ曲以外では今回のツアーの主役である「フラワーズ・イン・ザ・ダート」から6曲演奏されており、逆にウイングス時代の曲は極端に少ない。 “ウイングスのライブは「オーヴァー・アメリカ」で聴いてちょ(^.^)” ということだろうか?まぁこれはヒット曲の多いポールならではの贅沢な悩みだろう。
 このアルバムは完全版がアナログLP3枚組、CD2枚組でリリースされる一方で、アップテンポな楽曲を中心にCD1枚にまとめたダイジェスト版も「トリッピング・ザ・ライブ・ファンタスティック---ハイライツ」というタイトルで出されており、サウンドチェック用のリハーサル・テイク etc を除く全30曲中17曲を収めたお徳用盤となっている。マニアックなファンはもちろん前者だが、てっとり早くポールの魅力に触れたい人には後者がオススメだ。ここでは一応後者をベースに話を進めていきたい。
 ①「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」はポールの喉の調子がイマイチで声もかすれているが、完璧を求めるならライブ盤ではなくスタジオ録音盤を聴けばいいだけの話で、私としてはポールが拘りを捨ててビートルズ・ナンバーをストレートに歌ってくれるだけで嬉しい。このアルバムからシングル・カットされた②「バースデー」は「ホワイト・アルバム」の中でも一ニを争う私の愛聴曲で、ここでも疾走感溢れる歌と演奏が楽しめる。ポールも絶好調で、たたみかけるようなノリが圧巻だ。③「ウィー・ゴット・マリード」はスパニッシュな前半からハード・ドライヴィングな後半への盛り上がりが忠実に再現されているのがいい。 “60年代に帰ろう” というポールの言葉に続いて始まる④「ロング・アンド・ワインディング・ロード」は何故かあれほど毛嫌いしていたスペクター・アレンジ。何で???
 響き渡る⑤「サージェント・ペパーズ」のイントロにブッ飛ぶ私。⑰のアビー・ロード後半メドレーもそうだが、ライブでの再現を前提としていなかったこれらの曲が聴けるなんて夢の夢にも思っていなかったので、もう嬉しくてたまらない。後半はテンポを上げて “リプリーズ” へと突入。もう鳥肌モノの素晴らしさだ。間奏のギター・ソロが長すぎるのが唯一の難点か。理屈を超越した衝動が全身を襲う⑥「キャント・バイ・ミー・ラヴ」、他のバンドが逆立ちしても出せないこのグルーヴこそがビートルズをビートルズたらしめていたのだ。
 ⑦「オール・マイ・トライアルズ」と⑧「シングス・ウィー・セッド・トゥディ」を続けて聴くと、改めてビートルズの凄さが浮き彫りになる。4分56秒丸ごと1曲メロディーの塊で、一ヒネリしたアレンジがこれまた絶品だ。エンディングのギター・ソロからそのまま⑨「エリナー・リグビー」のストリングスのイントロへと繋がり、オリジナルよりもテンポを少し下げて歌うポールの歌声を聴いているだけでもう感無量だ。ビートルズの魔法は時の試練を軽く跳ね返し、駄曲凡曲だらけの21世紀音楽界において更にその輝きを増していく。
 珠玉のビートルズ・ナンバーに挟まれても見劣りしない80's ポールのビートリィな傑作⑩「マイ・ブレイヴ・フェイス」、ジェット音で始まるイントロを聴いただけで熱いモノが込み上げ、伝説のモスクワ公演の興奮が蘇る⑪「バック・イン・ザ・USSR」、歴史はここから始まった!と言いたくなるビートルズ・ロックンロール・クラシックス⑫「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」と、まさに名曲名演のアメアラレ攻撃だ(^o^)丿 ⑪⑯と共に東京公演の音源を収録した⑬「カミング・アップ」はウイングス時代の有名なグラスゴー・ライヴをも上回るようなグルーヴ感が素晴らしい。
 何百回何千回と聴いてきて耳タコのはずなのに聴くたびに感動が襲ってくる⑭「レット・イット・ビー」と⑮「ヘイ・ジュード」というポピュラー音楽史上最強のバラッド2連発の前にはただ平伏すのみ。特に⑮の後半部では、 “こっち側の席の人!” “今度は反対側の人!” “はい、次は真ん中の席の人!” と、わき起こる大合唱を指揮(?)するポールに大盛り上がりの会場の興奮が手に取るように伝わってくる。 “ウォウ~ イェ~”というオーディエンスとの掛け合いから一気になだれ込む⑯「ゲット・バック」のカッコ良さ(≧▽≦) この曲も含め、今回のツアーではポールの絶頂期といわれる “リヴォルヴァー以降” の楽曲を中心にセレクトされているのも面白い。続いて様々な言語でリンダを紹介するMCが入るが、これが中々微笑ましい雰囲気で大好きだ(^.^) 当然日本語もあって “ウチノ カミサン” “リンダデス!” というポールの日本語も楽しめる。ラストはビートルズ・ファンなら涙なしには聞けない⑰「ゴールデン・スランバーズ~キャリー・ザット・ウエイト~ジ・エンド」、この圧倒的な音楽の奔流に身を任せる快感は何物にも代えがたい。至福の6分27秒だ。
 このツアーを大成功させ、ライブ・パフォーマーとしての自信を取り戻したポールは、80年代のようにヘタに時流を意識するのをやめ、グランジ/オルタナ系ロックで自滅への道を突き進む90年代音楽界を尻目に、我が道を行くアルバムをマイペースで作っていくようになる。

Paul McCartney - Live In Japan 1990 10/13

Flowers In The Dirt / Paul McCartney

2009-09-12 | Paul McCartney
 82年にリリースし全米№1に輝いたアルバム「タッグ・オブ・ウォー」以降のポールはスランプに陥った。チャート上の成績や売り上げで言っているのではない。そもそも私はチャートを参考にはするが決して信じない。何と言ってもあの大傑作「バック・トゥ・ジ・エッグ」が8位までしか上がらなかったのだ。そんなモンを鵜呑みにできるワケがない。私が問題にしているのはアルバムのクオリティーそのものの著しい低下である。「パイプス・オブ・ピース」(83年)は元々「タッグ・オブ・ウォー」セッションの残り物集みたいなモンで生気に乏しい演奏が多かったし、「ギヴ・マイ・リガーズ・トゥ・ブロード・ストリート」(84年)は大コケした同名映画のサントラ盤でビートルズ・ナンバーの再演という伝家の宝刀を抜きながらもイマイチな内容だった。これで完全に焦ったポールはヒュー・パジャムをプロデューサーに迎え、無理してらしくない音作りに走った「プレス・トゥ・プレイ」(86年)をリリース、70年代の大傑作連発時代をリアルタイムで経験してきた私には正直言ってとてもポール・マッカートニーの作品とは思いたくないようなトホホなアルバムだった。“何もそこまで言わんでも...” と思われるかもしれないが、彼は天下のポール・マッカートニーなのだ。そんじょそこらのポップ・スターとは次元が違う。格が違う。私の中ではポールのアルバムは名曲名演のアメアラレでなければならない。麻雀に例えるなら(←例えるかそんなもん!)、ビートルズ時代のアルバムはすべて国士無双13面待ちか九連宝燈9面待ちのダブル役満という奇跡的なアガリの連続、70年代の「ラム」や「バンド・オン・ザ・ラン」は起死回生の四暗刻単騎といったところだろう。ところが80年代に入って「タッグ・オブ・ウォー」を最後に、役満どころか満貫にすら届かない、そんなポールがエルヴィス・コステロをパートナーに迎えて久々の、本当に久々の満貫を上がったのがこのアルバム「フラワーズ・イン・ザ・ダート」(89年)だった。
 ビートルズ時代を見れば一目瞭然なように、20世紀最高のメロディーメイカーであるポールには対等な立場で彼にズケズケとモノを言い、刺激を与えてくれるジョン・レノンのようなパートナーが必要だった。ビートルズ解散後の70年代ですら、“どこかでジョンが聴いている” という思いがあるから意地でもハンパな作品は作れない。私見だが、それがあの70年代ポールの輝かしい黄金時代を生んだのだと思っている。しかしジョン・レノン亡きあと、ポールの周りにはお茶坊主しかいなかった。だんだん裸の王様化していったポールの前に現れたのがエルヴィス・コステロだったというわけだ。彼に刺激を受けてそれまで眠っていたポールのポップ感覚が覚醒、天才が長い眠りから覚めたのだ(^o^)丿 又、このアルバム制作時にポールがライブ活動の再開を考えていたというのも大いにプラスに作用し、ステージでの再現を念頭に置いたグルーヴを持った楽曲が増え、演奏も自然とライブ感溢れるものになったのだろう。
 このアルバムからの 1st シングル①「マイ・ブレイヴ・フェイス」を初めて耳にした時、大げさではなく私は熱いものが込み上げてくるのを感じた。いきなり “マイブレイ マイブレイ マ~イ ブレ~イ フェ~イス” で始まる突き刺さるようなイントロから聴き手を一気に連れ去っていくポールのキラキラした歌声、連れ去られる快感、ウキウキワクワクするようなキャッチーなメロディー、もろに “あの頃” を思い出させるようなビートリィなギターのサウンド... すべてが完璧だ。本当に久しぶりのこの高揚感... “ポール・マッカートニー・イズ・バック!” と声を大にして叫びたくなるような快活なポップスだ。個人的にはこの1曲だけで名盤「タッグ・オブ・ウォー」1枚分に匹敵する衝撃だった(≧▽≦)
 ダントツに好きな①以外ではアコースティックな前半から徐々に盛り上がっていく⑤「ウィー・ゴット・マリード」が美メロ炸裂でエエ感じ(^.^) グルーヴィーな⑦「フィギュア・オブ・エイト」もこのアルバムのコンサート・ツアーのオープニング曲になるだけあって思わず身体が動いてしまうノリの良いナンバーだ。⑧「ディス・ワン」はいかにもポールらしい佳曲(←後半部の展開が特に好き!)だし、CDのみ収録の⑬「太陽はどこへ」(←何かミーナみたいな邦題やね...)の遊び心満載の摩訶不思議なポップ感覚も面白い。
 まだ完全復活とまではいかないが、過去数年間にわたって続いた暗黒時代とは明らかに違うポジティヴな空気を感じさせるこのアルバムは90年代に向けてポール再浮上のきっかけとなった重要な1枚だ。

Paul McCartney - My Brave Face

Tug Of War / Paul McCartney

2009-09-11 | Paul McCartney
 ソロ・アルバム「マッカートニーⅡ」リリース後、ウイングスのメンバーをスタジオに集めジョージ・マーティンのプロデュース(「死ぬのは奴らだ」以来8年ぶり!)の下、レコーディングをスタートさせたポールの元に飛び込んできたのがジョン・レノン射殺のニュースだった。この悲報に大きなショックを受け、打ちひしがれたポールはしばらく活動を停止してしまう。思えばビートルズ在籍時から2枚看板として切磋琢磨しながら新しい時代を切り開き続け、関係が悪化したといわれたビートルズ末期ですら「ジョンとヨーコのバラード」を二人だけでレコーディングしたり、解散後も「眠れるかい?」と相手にちょっかいをかけ、「親愛なる友よ!」と即レスするほど仲の良かった(笑)二人は心の底からお互いを認め合いリスペクトし合う最大のライバルであり最高の友だった。そんなジョンが急にいなくなってしまった... ポールの心中察するに余りある。結局ジョンの死後2ヶ月たってやっとポールは活動を再開したが、新作をソロ作品に切り替えることを決断し(これによって事実上ウイングスは消滅)、スティーヴィー・ワンダーやカール・パーキンス、それにリンゴ・スターといった豪華なゲストを迎えてレコーディングを開始した。そして翌82年の春についに我々の前に姿を現したのがこの「タッグ・オブ・ウォー」である。
 アルバム・タイトル曲の①「タッグ・オブ・ウォー」は人生を綱引きに例えながら未来への希望を歌った典雅な曲想のメッセージ・ソングで、2分4秒から転調して徐々に力強さを増していくパートがいい(^.^) フェイドアウトにかぶさるようにリンゴとスティーヴ・ガッドのツイン・ドラムが滑り込んでくる②「テイク・イット・アウェイ」、ポールの真骨頂とでもいうべきキャッチーなメロディーにマーティン先生の絶妙なエレピ・プレイ、ツボを心得たブラス・アレンジに見事なコーラス・ハーモニーと、文句なしの1曲だ。③「サムバディー・フー・ケアーズ」は枯れた味わいが魅力の隠れ名曲で、1分48秒から始まる哀愁舞い散るアコギ・ソロにパン・パイプが絡むところなんか涙ちょちょぎれる。バック・コーラスも効果バツグンだ。この①②③と続く流れがめっちゃ好きなのだが、問題なのは次の曲。初めて聴いた時、まるでそんな流れをブチ切るかのようにコテコテのブラコン・サウンド④「ホワッツ・ザット・ユァー・ドゥーイング」のイントロが流れてきた時は唖然とした。スタジオでジャムってて出来たようなこの曲はポールとスティーヴィーの共作ということになっているが、ベーシック・トラックは誰が聴いても120%スティーヴィーのものだ。確かに歌や演奏はグルーヴィーだし5分12秒からスティーヴィーが叫ぶ “She loves you, yeah, yeah, yeah” のパートなんか正直言って大好きなのだが、スティーヴィーのサウンドにポールが客演してるようにしか聞こえないこの曲をポールのアルバムに入れる必要性がどこにあったのか、と思ってしまう。ポールが亡きジョンへの想いを切々と綴った⑤「ヒア・トゥデイ」はビートルズ・ファンなら涙なしには聴けない。歌詞の一言一言が胸に突き刺さり、ジョンを失った深い悲しみと八つ裂きにしても足りないマーク・チャップマンへの怒り、そして何よりもジョンへの素直な気持ちを歌にしたポールへの共感etc、様々な想いが交錯するのだ。私は1年に1回聴くことにしている。
 B面トップの⑥「ボールルーム・ダンシング」はこのアルバム中で私が一番好きな曲で、ウキウキワクワクするような躍動感に満ち、音楽を前へ前へと進めていくドライヴ感溢れるノリが最高だ。映画「ヤァ!ブロードストリート」での演奏シーンも大好きで、ピアノを弾きながらシャウトするポール、昔と変わらないドラミングで魅せるリンゴ、ノリノリでベースを弾くジョーンジー、エンディングで剛腕ラリアット(?)を炸裂させるリンダと、見どころ満載だ(^o^)丿 ポールお得意の2曲連結構成でユニークな流れを持った⑦「ザ・パウンド・イズ・シンキング」に続く⑧「ワンダーラスト」はアルバムのエンディングにぴったりハマリそうな壮大な曲想を持ったナンバーで、ポールがそれまでの人生で書いてきたバラッドの集大成みたいな名曲だ。⑨「ゲット・イット」はポールのアイドルであるカール・パーキンスと共演したほのぼの系ロカビリーで、気分はすっかり「ビートルズ・フォー・セール」のB面だ。⑪の序曲みたいな繋ぎ曲⑩「ビー・ホワット・ユー・シー」を経てハードなギター・リフが炸裂するイントロで始まる⑪「ドレス・ミー・アップ・アズ・ア・ラバー」はポールには珍しいセルメン風のサウンドに途中パコ・デ・ルシアが乱入してきてスパニッシュな空気を撒き散らすという実に面白い曲で、私は結構気に入っている。この何でもアリの精神がエエのよね(^.^) スティーヴィーとのデュエットした 1st シングル⑫「エボニー・アンド・アイボリー」は言わずと知れた大ヒット曲で、黒人と白人をピアノの鍵盤に例えて調和とハーモニーを訴えるという、ある意味めっちゃベタな発想がいかにもポールらしい。名曲だとは思うが、今になって思えば大物とデュエットして安易に大ヒットを飛ばしてしまったことが却ってこの後のポールの不調の一因になったのではないか。ただ、この曲が7週連続全米№1を独走してポールが我が世の春を謳歌していた時、そのことを予測できた人はいなかっただろう。このアルバムを最後にポールはスランプに陥り、数年間にわたって不振に喘ぐことになる。

※ 今日9/11(金)の深夜0:55からNHKで「よみがえるビートルズ 完全版」が放送されます。この前の日曜に見逃した方はぜひ!!!

Paul McCartney - Ballroom Dancing

McCartney Ⅱ / Paul McCartney

2009-09-10 | Paul McCartney
 1980年という年は私の人生において最悪の1年だった。大学入試を控えてクソしょーもない受験勉強を強いられる鬱陶しい日々を過ごしていたからではない。我が人生において最も崇拝する2人のうち、まずポールが大麻所持で逮捕され夢にまで見た来日公演がキャンセルされ、まるで奈落の底へ突き落されたような気持ちで1年がスタートし、その年の暮れにはジョンが射殺されるという、ビートルズ・ファンにとっては呪われたような1年だったからだ。
 その前年、私は必死の思いでポールの大阪フェスティバル・ホール公演のチケットをゲットし、当時破格の1万円もした(他のアーティスト達の相場はみんな判で押したように3千円だった...)プラチナ・チケットを毎日眺めてはニヤニヤしながらついに生ポールが見れる(^o^)丿と一日千秋の思いで来日を心待ちにしていた。そして運命の1月16日、学校から帰った私の目に飛び込んで来たのは “ポール・マッカートニー、大麻所持により成田で逮捕!” という衝撃的ニュース...(゜o゜) 当然コンサートは中止、寒風吹きすさぶ中、新大阪にあるウドー音楽事務所までチケットの払い戻しにのこのこ出かけて行き、逆にその場で売っていた幻の来日公演パンフレット(←何ちゅーアクドイ商売するねん!)を3千円出して買って喜んでいたのが今となっては懐かしい思い出だ。
 大麻に関しては “ポールは日本をナメてる!” とか “誰かをかばっているのでは?” とかいった噂がまことしやかに流れたものだが、真相は分からない。ただ、後々のインタビュー等でわかってきたのは当時のポールがウイングスとしての活動にあまり乗り気ではなかったということ。ポール会心の傑作「バック・トゥ・ジ・エッグ」のチャート成績がイマイチだったのもその一因かもしれないが、とにかくこの頃からポールの頭の中では“ウイングスを解散してソロでやっていく” という考えが芽生えつつあったように思う。そしてそれが実際に形となって表れたのが逮捕→海外退去から4ヶ月経ってリリースされた通算2枚目の完全ソロ・アルバム「マッカートニーⅡ」である。
 この頃になるとポールに対する放送禁止措置も既に解除されており、逮捕の話題性もあってかラジオやテレビで 1st シングルの①「カミング・アップ」がガンガンかかり始めた。世間ではそのテクノっぽいサウンドに賛否両論が渦巻いていたが、何よりも特筆すべきは曲そのものの出来の良さだった。それが証拠にシングルB面に入っていた同曲のウイングスによるグラスゴー・ライブ・ヴァージョンではテクノのテの字もない熱気溢れるノリノリのバンド・サウンドが楽しめ、アメリカではこっちのヴァージョンの方がウケがよかったためにAB面を入れ替えた結果、当時圧倒的な強さで首位を独走していたリップスの「ファンキータウン」を蹴落として3週連続全米№1を記録する大ヒットになったのだ。それと、ポールがシャドウズのハンク・マーヴィンやスパークスのロン・メイル、更にはビートルズ時代の自分にまで扮して一人で何役も演じるチープな作りがたまらないビデオ・クリップも必見だ。私が特に好きなのは曲のアタマで画面左からポールがノソノソと登場し、いきなり正面を向いて歌い出すシーン、このポールの動きが何とも言えず可笑しい。襟なしスーツを着て首を振り振りプレイするポールが昔と全然変わってへんのも凄いなぁ... (≧▽≦) そういえば同時期に出たYMOのアルバム「増殖」に入ってた「ナイス・エイジ」という曲の間奏部分で元ミカ・バンドの福井ミカ姐さんがポールの逮捕ネタ(“ニュース速報” のくだりで、22番というのは留置場でポールに付けられた番号のこと。この曲のタイトルを連呼してはります...)をブチかましてたりして、とにかく話題満載のナンバーだった。
 大名曲①が終わり、②「テンポラリー・セクレタリー」のイントロが聞こえてきた瞬間、私も含めてポール・ファンのほぼ全員が3メートルはブッ飛んだに違いない。バリバリの、じゃなかったピコピコのテクノ・サウンドである。しかしそれはあくまでも表面的なコーティングに過ぎず、曲そのものはいつものマッカートニー・ミュージック。そもそも天下のポール・マッカートニーがテクノなんぞに色目を使ったなどという世評は的外れもいいところで、ただ単に世間で流行ってて面白そうだからちょっと遊んでみた、という感じではないかと思っている。次作ではブラコン・サウンドまでしれっと作ってしまう天才ポールにとって、テクノで遊ぶなんて朝めし前だったに違いない。それとこのアルバム全体がテクノ一色のような誤解を与える論評もよく聞いたが、全11曲中ピコピコは②⑥⑧の3曲だけではないか!一体どこを聴いとんのじゃ、とツッコミを入れたくなる。
 ウイングスで演れば「レッティング・ゴー」みたいになったかもしれない③「オン・ザ・ウェイ」、ポールな魅力全開のシンプル・イズ・ベストを地で行く美しいバラッド④「ウォーターフォールズ」、数年後の「プレス」を想わせる底抜けに明るい曲想とラフな音作りが楽しい⑤「ノーバディ・ノウズ」、ゲーム・ミュージックみたいなチープな味わいが楽しいBGM⑥「フロント・パーラー」、もっとちゃんと歌詞を付けてプロデュースすれば屈指の名曲に昇格しそうな壮大にして重厚なバラッド⑦「サマーズ・デイ・ソング」、日本人に対する蔑称を使ったタイトルが物議を醸したYMO憑依曲⑧「フローズン・ジャップ」、ポールが “なりきりエルヴィス” してる多重ヴォーカルとアダム&ジ・アンツ風なビートが楽しい⑨「ボギー・ミュージック」、ポールの持つ前衛性が最も好ましい形で発揮された感じでワケわからんけど何度も聴いてるうちにクセになる⑩「ダーク・ルーム」(←これホンマにオモロイ曲です!)、アルバムを締めくくるアコースティックなバラッド⑪「ワン・オブ・ジーズ・デイズ」と、聴き応え十分だ。
 “テクノなポールなんて(>_<)” とこのアルバムを敬遠していた人は無責任極まりない世評に惑わされずに、今一度先入観を捨てて真っ白な心で聴いてみてはいかがだろう?天才のお遊びにつきあってみるのも一興、と思えてくる実に面白いアルバムだと思う。


Back To The Egg / Wings

2009-09-09 | Paul McCartney
 1979年当時の音楽シーンは、イギリスではニュー・ウエイヴの嵐が吹き荒れ、アメリカでは国全体がバカになったのかと思うぐらい軽薄ディスコ・ミュージックが全盛を誇っていた。そんな中、前作「ロンドン・タウン」で3人になってしまったポール&ウイングスは新たにギタリストとドラマーを迎え、ニュー・アルバムの先行シングル「グッドナイト・トゥナイト」をリリースした。そのサウンドはディスコ・ミュージックをポール流に解釈したもので、この曲を初めてラジオで聞いた時は “何で???” と思うぐらいビックリした。しかしダンサブルなコーティングを施しながらもそのコアにあったのはまぎれもないポールなメロディー横溢のマッカートニー・ミュージックで、凡百のアホバカ・ディスコ・ミュージックとは激しく一線を画していた。
 そしてついに新生ウイングスのニュー・アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」が発表された。タイトルは “原点に帰ろう” という意味ではないかと言われたが、確かにそのサウンドはタイトでソリッドなロック色の強いもので、ロックなポールが大好きな私にとってこのアルバムはポールのソロ作品中、「ラム」と「バンド・オン・ザ・ラン」に次ぐウルトラ愛聴盤なのだ。
 アルバムはラジオ放送の受信音にインストルメンタル・ビートが重ねられた①「レセプション」で幕を開ける。ラジオの受信と新生ウイングスを歓迎するレセプションとのダブル・ミーニング?このアルバムからの 1st シングル②「ゲッティング・クローサー」はワクワクするような曲想の高揚感溢れるロックンロールで、何度聴いても心がウキウキするノリの良さだ。初めて聴いた時からこの曲にはシビレまくったが、全米チャートで 20位止まりだったのにはビックリ。当時のチャートはドナ・サマーやアニタ・ワード、ヴィレッジ・ピープルにアース・ウインド&ファイアーといった金太郎飴ディスコの寡占状態で、こんなカッコ良いロックンロールが不発に終わったのを見て私は “全米チャートは終わっとる!” と確信した。
 ③「ウィーアー・オープン・トゥナイト」は前作の「アイム・キャリイング」の路線を踏襲したアコースティック・ギターによる小品といった感じのナンバーで、アルバムのラス前⑬の中でこの曲のテーマ・メロディーが再登場する。 “This is it!” というポールの掛け声で始まる④「スピン・イット・オン」はパンク/ニュー・ウエイヴを意識したようなラフでエッジの効いたハイスピード・ロックンロールで、これまた私の大好きな曲。この疾走感がたまらんなぁ... (≧▽≦)
 ⑤「アゲイン・アンド・アゲイン・アンド・アゲイン」はデニーの作品でヴォーカルもデニーなのだが、ほのぼのとしたサウンドがこのアルバムの流れの中にピタリとハマッていて中々エエ感じだ。⑥「オールド・サイアム・サー」はキーボードが奏でるサビのメロディーが耳に残るミディアム調のタイトなロック・ナンバーで、ハイ・テンションなポールのヴォーカルがたまらない。どことなくオリエンタルな雰囲気の漂う曲想もユニークだ。A面は偶数トラックにハードな曲を配しており、2曲に1曲がロックというのもこれまでのアルバムにない大きな特徴だ。この辺りにもポールのヤル気、意欲が伝わってくる。⑦「アロー・スルー・ミー」は翌年の「マッカートニーⅡ」に通じるようなシンセ・サウンドだが、いかにもポールなメロディーは健在だ。どことなく AOR な雰囲気も漂う渋いナンバーだ。
 このアルバム最大の話題がブリティッシュ・ロック界の名だたるミュージシャンから成るロック・オーケストラ、すならちロッケストラで、ピート・タウンゼント、デイヴ・ギルモア、ジョン・ボーナム、ジョン・ポール・ジョーンズ、ロニー・レイン、ゲイリー・ブルッカーといった超豪華なメンツで録音されたのが⑧「ロッケストラ・テーマ」と⑬「ソー・グラッド・トゥ・シー・ユー・ヒア」の2曲だった。⑧は単調なメロディーを繰り返すインストものながらその迫力は凄まじいものがあるし、⑬は疾走系のハードなロックンロールでポールのシャウトも気合十分、どちらのトラックもオーヴァー・ダビングなしの一発録りだ。
 ⑨「トゥ・ユー」はこれまたニュー・ウエイヴを意識したようなハードなナンバーで、ラフでドライな質感を持ったポールのヴォーカルが印象的だ。⑩「アフター・ザ・ボール~ミリオン・マイルズ」は華やかな宴の後の余韻を巧く表現したゴスペル調の前半と、アコーディオンをバックにしみじみと歌う後半を上手く繋げたスローなメドレー。⑪「ウインター・ローズ~ラヴ・アウェイク」もやはりメドレーで、文字通り厳しい冬のイメージを持った前半のパートから穏やかな春の到来のような後半のパートへと続くメロディーの美しさはポールならではだ。
 ⑫「ザ・ブロードキャスト」はピアノとメロトロンの演奏をバックにした詩の朗読で、このアルバムが①で始まるラジオ放送仕立てだったことを思い出させる。私は何故かサイモン&ガーファンクルの「7時のニュース/きよしこの夜」を思い出してしまった。ハードな⑬を挟んでアルバムのラストを飾るのはジャジーな雰囲気横溢の⑭「ベイビーズ・リクエスト」。これ、めちゃくちゃ渋くてカッコイイ!!! ポールの頭の中にあったのはマンハッタン・トランスファーの「ジャヴァ・ジャイヴ」ではないか。洗練された大人の味わいが素敵な余韻を残してこの名盤を締めくくっている。
 このように内容的には並々ならぬ意欲を持って仕上げたポール渾身の一撃とも言える傑作アルバムだったのだがセールス的には今一つ振るわず(全米8位)、その後ポールはウイングスそっちのけでソロ活動に精を出すようになり、ウイングスは消滅してしまう。原点に帰っての新たなスタートとなるはずだったこのアルバムが結局ウイングスのラスト・アルバムになってしまったのは何とも皮肉な話だが、セールス云々に関係なく(...といっても軽~くミリオン・セラー!)私のようにロックなポールが好きな人には最高の1枚だと思う。

Paul McCartney & Wings - Baby's Request [1979]

London Town / Wings

2009-09-08 | Paul McCartney
 70年代半ば、ポール&ウイングスは大ヒットアルバムを連発し、大規模なアメリカ・ツアーも大成功させ、まさに向かうところ敵なし状態だった。アメリカ制覇を成し遂げた記念に集大成的な3枚組ライブを出して一区切りつけた後、ポールはどこへ向かうのだろう?と思っていたところへ届いたシングルが「マル・オブ・キンタイア」(夢の旅人)だった。「ヴィーナス・アンド・マース」、「スピード・オブ・サウンド」とアメリカ志向の音作りが続いた反動でもあるまいが、アメリカのアの字も感じられないコテコテのスコティッシュ・フォーク・ワルツで、大きくフィーチャーされたバグパイプの音が大英帝国の薫りを運んできた。この曲がアメリカで不発に終わったのも何となく分かる気がするが、それとは対照的にイギリスでは爆発的に売れまくり、それまでビートルズの「シー・ラヴズ・ユー」が持っていた売り上げ記録を塗り替えたというニュースが伝わってきた。確かニュー・ミュージカル・エキスプレス誌の見出しに “McCartney's Mull – it's a record!!!” とあって、 record に “記録” という意味があるのを知らなかった私は自分のアホを棚に上げて “レコードにきまっとるやないか!何をボケたこと書いとんねん...” と思っていた(>_<) コテコテブリティッシュなアコースティック・バラッドもいいが、どちらかというとアップテンポなロッケンローが好きな私はB面扱いの「ガールズ・スクール」の突き抜けたような疾走感が好きで、こっちの方をよく聴いていた。
 そしていよいよニュー・アルバムのリリース... アルバム製作中にギタリストとドラマーが脱退するという、バンドオンザラン・デジャヴー現象を乗り越えて出来上がったアルバムのタイトルが「ロンドン・タウン」... すっかりイギリス回帰路線だ。リードギタリスト脱退の影響かアコギをフィーチャーした曲が多く、前作までの派手さは影を潜め、アルバム全体にしっとりと落ち着いた穏やかな雰囲気が漂っている。
 ①「ロンドン・タウン」はミディアム・スロー調のしっとりしたナンバーで、 “ロンドンの街の汚れた地面に銀色の雨が降りそそいでいた...” という歌詞を持ったこの曲のくすんだサウンドが聴く者にロンドンの灰色の空を連想させる。ウイングスお得意のコーラス・ワークもバッチリだし、エンディング部分のアレンジはお見事!の一言だ。②「カフェ・オン・ザ・レフト・バンク」はどこか懐かしい響きのメロディーを持った歯切れの良い疾走系のナンバーで、どちらかというとユル~い曲が多い中、いかにもウイングスらしいタイトなバンド・サウンドが嬉しい。私のお気に入りの1曲だ。③「アイム・キャリイング」は美しいメロディーを持った小品という感じ。④「バックワーズ・トラヴェラー」と⑤「カフ・リンク」はメドレーのように繋がった1曲という感じなのだが、④は未完成っぽいし、⑤はビートルズの「フライング」みたいなミステリアスなインスト・ナンバーで、私にはイマイチよくわからない(>_<) デニーが歌う爽やかな佳曲といった感じの⑥「チルドレン・チルドレン」、ポールがマイケル・ジャクソンのために書き、自らファルセット・ヴォイスを駆使して歌う⑦「ガールフレンド」と、やや甘口の曲が続いた後、A面ラストはガツン!とくる⑧「アイヴ・ハド・イナフ」だ。力感漲るイントロのギター・リフからタイトでソリッドなポール流ロックンロールが展開される。やっぱりポールのロックンロールはエエなぁ... (≧▽≦) 大人しい曲が並ぶA面の中で私が②と並んで大好きなナンバーだ。
 ⑨「ウィズ・ア・リトル・ラック」(しあわせの予感)はこのアルバムからの 1st シングルで、アホみたいなRSOレーベル全盛だった全米チャートに風穴を開け、2週連続№1に輝いた大ヒット曲。キャッチーでどこかほのぼのとしたポールなメロディーとポジティヴな歌詞が素晴らしい。⑩「フェイマス・グルーピーズ」と⑪「デリヴァー・ユア・チルドレン」の2曲はUSAライブのアコースティック・セットを彷彿とさせるアコギのリズム・カッティングがたまらないノリノリのナンバーで、私はどちらもめっちゃ気に入っている。⑪のリード・ヴォーカルはデニーで、「リチャード・コーリー」もそうだったが彼の歌声はこういうトラッド・フォーク系の曲にぴったりハマるのよね。⑫「ネイム・アンド・アドレス」はポールがプレスリーの声色で歌うロカビリーで、単品では結構好きなのだがアルバム全体の流れの中ではちょっと浮いているような感じもする。⑬「ドント・レット・イット・ブリング・ユー・ダウン」はアコギ主体のフォーキーなサウンドに大胆にリコーダーをフィーチャーした中南米のフォルクローレっぽい曲想で、哀愁舞い散るメロディーに涙ちょちょぎれる隠れ名曲。⑭「モース・ムース・アンド・ザ・グレイ・グース」は「バンド・オン・ザ・ラン」のラスト曲「西暦1985年」を彷彿とさせる壮大なスケールを持った大作で、たたみかけるような疾走感がめちゃくちゃカッコイイ(^o^)丿 終始電子音みたいなサウンドは鳴り続けるわ、途中でトラッド・フォークが乱入してくるわ、後半ポールはハードにシャウトしまくるわで、何かワケがわからんうちに引き込まれていってしまうのだ。とにかく緊張感溢れる歌と演奏が圧巻で、ポールの圧倒的なサウンド・クリエイターぶりには平伏すしかない。
 このように全体的には地味な印象のアルバムかもしれないが、私のようにビートルズ「夢の人」系のアップテンポなフォーキー・サウンドが大好きな人間にとって、このアルバムB面はこたえられないと思う。

Morse Moose and the Grey Goose

Wings Over America

2009-09-07 | Paul McCartney
 この「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」はポール&ウイングスの1976年USツアーの模様を収めたライヴ盤で、当時 “アナログLP3枚組で発売!” というリリース・インフォメーションを聞いた私は “3枚組って、ほぼ完璧版やん!しかもビートルズ・ナンバーも演ってるし... これはめっちゃ楽しみや(^o^)丿” と大コーフンしたのを覚えている。発売日当日に手にしたこのアルバムは3枚組ということもあってズシリと重かったが、中身の方も私の期待通り、いや期待を遙かに超えて素晴らしいもので、 “ライヴ盤よりもスタジオ録音盤の方が完成度は上” と信じ切っていたそれまでの私の考えを木っ端微塵に打ち砕いてしまった(≧▽≦)
 このアルバムは全30曲というヴォリュームで、楽曲の内訳はツアーのベースになった「ヴィーナス・アンド・マース」からが9曲と最も多く、続いて最高傑作「バンド・オン・ザ・ラン」から5曲、ツアー当時の最新アルバム「スピード・オブ・サウンド」から4曲と、いわゆる全盛期の最新3部作から計18曲が選ばれている。更にビートルズ・ナンバーが5曲、残りはソロ初期のナンバーやデニー・レインの曲という構成だ。
 A面はまず①「ヴィーナス・アンド・マース~ロック・ショウ~ジェット」という怒涛の3連発メドレーで始まる。ライブのオープニングを想定して作られたと思しき曲想がピッタリとハマッてオーディエンスものっけから大興奮。バラッドも悪くはないが、私はやはりノリノリのロックを歌うポールが一番好きだ。②「レット・ミー・ロール・イット」はスタジオ・テイクよりもブルージーな色が濃く、特に間奏でのジミーのギター・ソロは水を得た魚のようにバリバリと弾きまくっている。ここで早くも③「スピリッツ・オブ・エインシェント・イージプト」と④「メディシン・ジャー」というメンバーのヴォーカル曲を持ってくるあたり、ポールの “ウイングスはバンド” という主張が伝わってくる。2曲とも自由闊達に歌いまくるポールのベース・ラインが聴きものだ。
 B面の①「メイビー・アイム・アメイズド」は 1st ソロ・アルバム「マッカートニー」からの曲で、6年という月日を経て更に熟成されたアレンジと自信に溢れたポールの歌声が素晴らしい。「ハートのささやき」などという信州みやげのクッキーみたいな邦題以外は言うことナシだ。ここからはブラス・セクションが大きくフィーチャーされる曲が続く。②「コール・ミー・バック・アゲイン」はポールのソウルフルなシャウトと味のあるバック・コーラス、ブルージーなギターといった要素が一体となって迫ってくる。ラストのリフレインはちょっと長すぎるか。ハジケるようなピアノのイントロで大歓声が上がる③「レディ・マドンナ」、キタ━━━(゜∀゜)━━━!!! という感じである。続く④「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」のポールの歌い出しに対するオーディエンスの反応もハンパじゃない。やっぱり何だかんだ言ってもポールといえばビートルズなのだ。アレンジを巡ってフィル・スペクターと激しく対立したこの曲は「アンソロジー3」で聴けるのと同じシンプルなアレンジが嬉しい。この深~い味わい、たまりまへん。私の超愛聴曲⑤「リヴ・アンド・レット・ダイ」の出だしをポールが歌い始めると背筋がゾクゾクするような快感に襲われる。このダイナミックな歌と演奏は間違いなくあの傑作スタジオ・テイクをも凌駕していると思う。ライブ映像を見た記憶では、アップ・テンポになるパートでのストロボ乱射とエンディングでのマグネシウム花火爆裂がインパクト大だった。
 C面はアコースティック・セットで、①「ピカソズ・ラスト・ワーズ」はテンポ・チェンジするところでスムーズに次の②「リチャード・コーリー」へとメドレーのように繋がっていく。この曲のオリジナルはサイモン&ガーファンクルだが、私は流れるようなテンポ設定のこのヴァージョンの方が断然好きだ。正直言ってポール以外のヴォーカル曲はあまり聴かずに飛ばしてしまうことも多いのだが、このトラックだけは別。特に歌詞の “I wished that I could be... John Denver.” ってところが何故か気に入っている。スタジオ・ヴァージョンを忠実に再現した③「ブルーバード」に続いて始まる④「アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス」、元々大好きな曲だったが、ここでもビートルズ時代のヴァージョンに負けないくらい高速で疾走するポールがめちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) このアルバム中の私的ハイライトがこれだ。イントロだけで大きな歓声が上がる⑤「ブラックバード」、淡々と歌うポールの弾き語りが心に染み入ってくる。歌い出しの “イエスタデイ~♪” で物凄い歓声が上がる⑥「イエスタデイ」... ポール、あなたに出会えて良かったよ(^.^)
 静謐な2曲が終わりコンサートも後半に入ってD面は①「ユー・ゲイヴ・ミー・ジ・アンサー」、②「マグネット・アンド・チタニアム・マン」と傑作「ヴィーナス・アンド・マース」からアップテンポなナンバーが続く。このあたりの曲の並べ方もアメリカ受けしそうな流れでさすがという他ない。デニーの③「ゴー・ナウ」に続く④「マイ・ラヴ」は言わずと知れた全米№1ソングで、オリジナルのストリングスがない分、シンプルな印象だ。ちょうど B④みたいな感じである。次は再びアップテンポな曲で⑤「リスン・トゥ・ホワット・ザ・マン・セッド」、もう全米№1ソングのアメアラレである。改めてポールの偉大さを痛感させられてしまう。
 E面はリリースして間もない新作「スピード・オブ・サウンド」からの4曲で占められており、このツアーの効果もあってアルバムは全米№1をゲット、①「レット・エム・イン」、②「タイム・トゥ・ハイド」、③「シリー・ラヴ・ソングス」、そして④「ビウェア・マイ・ラヴ」と、立て続けに演奏することによって絶好のプロモーションになったのだろう。特に④は長いイントロをカットしていきなりクライマックスがやってくる激しい演奏で、張り裂けんばかりのポールのヴォーカルがめちゃくちゃカッコエエのだ。
 F面はブルージーな①「レッティング・ゴー」に続く②「バンド・オン・ザ・ラン」では今更ながらポールの縦横無尽なベース・プレイに唖然とさせられる。あまり指摘されないことだが、歌いながらこれだけのプレイを易々とやってのけるポールって凄いと思う。アンコールはコンサートのシメに相応しい疾走系ナンバー2連発で、大好きな③「ハイ・ハイ・ハイ」はオリジナルよりも高速化してノリノリで突っ走っているし、公式未発表曲④「ソイリー」はこれまでも度々アンコール・ナンバーとして歌われてきたハードなロックンロールで、火の出るようなポールのシャウトをはじめ、バンドが一体となって燃え上がる様が楽しめる。全部聴き終えるともうお腹いっぱい、大満足という感じだ。
 ポール&ウイングスの絶頂期の姿を見事に記録したこのライブ・アルバムは、選曲・歌・演奏とどれを取っても “ハードで、楽しくて、メロディアス” という3拍子揃った文句なしの内容で、ポールのベスト盤的側面をも持った超お買い得の1枚だと思う。

134 ROCK SHOW part 4 of 12 - PAUL McCARTNEY & WINGS

Wings At The Speed Of Sound

2009-09-06 | Paul McCartney
 「ウイングス・アット・ザ・スピード・オブ・サウンド」は1976年の全米ツアーに合わせてリリースされたウイングス全盛期の1枚なのだが、大ヒットしたわりにはファンの間での人気はイマイチ低いらしい。①「レット・エム・イン」(幸せのノック)、⑥「シリー・ラヴ・ソングス」(心のラヴ・ソング)という2大ヒット曲が入っているにもかかわらずだ。私の場合もポールの他のアルバムに比べるとターンテーブルに乗る頻度はやはり低かった。それは全11曲中ポールがリード・ヴォーカルを取っているのはわずか6曲で残りの5曲は他のメンバー... デニー・レイン2曲②⑧、リンダ・マッカートニー1曲⑦、ジミー・マッカロック1曲⑤、ジョー・イングリッシュ1曲⑨... がリードを取っているという、良く言えば民主的、悪く言えばファンの気持ちを無視した KY なアルバムなんである。何でも「バンド・オン・ザ・ラン」、「ヴィーナス・アンド・マース」の連続大ヒットですっかり気を良くしたポールがニュー・アルバムの構想を練るにあたって “何か今までと違ったことをやりたい” “メンバー全員のフィーリングに彩られたアルバムにしたい” と言い出し、このような形になったという。でも正直なところ、このアルバムを身銭を切って買うファンの内、一体何人がポール以外のメンバーのヴォーカルを聴きたいと思うだろうか?不謹慎な話だが、メディアが LP から CD に移行した一番のメリットはリモコン一つで曲を簡単に飛ばせることで、ジョンの「ダブル・ファンタジー」やこの「スピード・オブ・サウンド」ではリモコンが欠かせない。
 いきなりネガティヴな話になってしまったが、ポールが歌う6曲のレベルは文句なしに高い。まずは 1st シングルとしてカットされた⑥「シリー・ラヴ・ソングス」は当然のごとく全米№1(5週間!)をゲット、更に1976年の年間№1シングルにも輝いたという、絵に描いたような名曲名演だ。特にこの曲でのポールの自由闊達なベース・プレイは凄いとしか言いようがない。ウイングスお得意のコーラス・ハーモニーも絶品で、これで売れない方がおかしい。有名なイントロはピンク・フロイドの「マネー」にインスパイアされて作ったという。さすがは天才ポールです(^o^)丿 又、 “愚かなラヴ・ソングの一体どこが悪いねん!” と開き直ったような歌詞は、甘いバラッドばかり書くと(←実際はそんなことないのにねぇ...)ポールを批判する人たちに向けてのポールからの回答だろう。やるねぇ...(^.^)  2nd シングル①「レット・エム・イン」はいかにもポールらしい陽気な曲で、メロディーは単調だがそこを補って余りある多彩なサウンド・プロダクションが聴きもの。あまりシングル向きの曲ではないと思うのだが、全米チャートで4週連続3位を記録したのは全米ツアーの勢いだろう。
 シングル曲以外も良い曲が並んでいるが、中でも私がダントツに好きなのが④「ビウェア・マイ・ラヴ」だ。静謐なイントロにアコギがかぶさり、これはフォーキーな曲かいなぁと思っていると1分28秒あたりから雰囲気が変わり、風雲急を告げるポールのシャウトが響き渡る。後はひたすらハードに盛り上がっていく疾風怒濤の展開が圧巻で、ライブ映えするカッコ良いナンバーだ。小粋な⑩「サン・フェリー・アン」はアルバム「ロンドン・タウン」のB面にジャジーなアレンジを施したような雰囲気が◎。これ、結構好きです(^.^) ③「シーズ・マイ・ベイビー」はジョー・イングリッシュの刻む律儀なリズムに乗った軽妙洒脱なポールのヴォーカルがエエ感じだし、⑪「ウォーム・アンド・ビューティフル」はポールなメロディーが横溢する隠れ名曲だ。
 ポール以外の歌でいうとデニー・レインの⑧「タイム・トゥ・ハイド」がすごく良い曲で、「USA ライヴ」のヴァージョンも忘れ難い。あとの曲は特に言うことはないのだが、ジミー・マッカロックの⑤「ワイノ・ジュンコ」は最初カタカナの日本語タイトルを見て “ワイの淳子???” (←そんなはずあらへんやろが!)と勘違いしていたが、よくよく調べてみると wine の junky 、つまりアル中の歌だった。ジミーは前作でも「メデシン・ジャー」を歌っていたが、ドラッグ・ソングばっかりやん(>_<) リンダ姐さんの⑦「クック・オブ・ザ・ハウス」はハッキリ言ってご愛嬌。彼女の声はコーラス・ハーモニーの要としてはウイングスになくてはならないものだが、リード・ヴォーカルは1曲で十分です(笑)
 このようにポールが半分くらいしか歌っていないことから過小評価されがちなこのアルバムだが、結構な佳作揃いなのでポール・ファンは聴いて損はない1枚だと思う。

Beware My Love
コメント (4)

Venus And Mars / Paul McCartney & Wings

2009-09-05 | Paul McCartney
 「ヴィーナス・アンド・マース」は1975年にリリースされたポール通算6枚目のアルバムであり、私にとってはいよいよここからがリアルタイムで体験したポール盤である。前作「バンド・オン・ザ・ラン」の世界的大ヒットですっかり自信を取り戻したポールが次に考えたのがウイングスをライブ活動可能なパーマネントなグループにすることだった。ビートルズの後期、ポールは “ミュージシャンは常にプレイしていなくてはならない” と他の3人にライブ活動再開の必要性を説いていたという。そんな彼がウイングスを結成したのも “ステージに立ちたくてたまらなかったから” というからポールの本気度は相当なものだったろう。早速ギタリストとドラマーを補充して先行シングル「ジュニアズ・ファーム」をリリースするのだが、これがもうめちゃくちゃノリの良いロックンロールで、その力感溢れるサウンドは本作の②「ロック・ショー」を予感させるのに十分なものだった。その後ドラマーの交代劇を経て、ニュー・オーリンズで録音されたのがこの「ヴィーナス・アンド・マース」である。
 アルバムの基本的な構成は前作の路線をそのまま踏襲・発展させながらも、緊張感よりもむしろヴァラエティー豊かな楽しさを優先させたゴージャスな作りになっている。例えば実質的には2曲を繋いで1曲にしたようなメドレー形式の①「ヴィーナス・アンド・マース」~②「ロック・ショー」は3部構成が見事に当たった名曲「バンド・オン・ザ・ラン」を彷彿とさせるものがあるが、コンサートのオープニング用に作られたと思しきこの2曲、特に②「ロック・ショー」なんかもうライブ感バリバリだ。この熱さ、このノリ、まさに圧巻である。昔どこぞのアホバカ評論家が “ロックのジョン vs バラッドのポール” などというド素人以下の単細胞発言をしているのを読んだことがあるが、何を眠たいこと言うてんねん!ポールは “バラッドの名曲も書ける” 筋金入りのロックンローラーなのだ。それは歴史を変えた1962年の“ワン、トゥ、スリー、ファッ!”(笑)以来変わることのない真理だと思っている。とにかくこの「ロック・ショー」のライブ感溢れるダイナミックなサウンドは洋楽を聴き始めたばかりの私にとっては衝撃的で、 “ジミー・ペイジ” や “マジソン・スクエア” 、 “ハリウッド・ボウル” といった固有名詞がふんだんに出てくる歌詞も面白くてハマりまくったものだし、今でもポールのソロ時代を通して私的トップ3に入るスーパーウルトラ愛聴曲なのだ。
 ③「ラヴ・イン・ソング」はユニークな旋律が光る美しいバラッドで、しんみりと歌うポールに耳が吸い付く。どことなくオリエンタルな雰囲気も漂う後半部の作り込みが印象的だ。④「ユー・ゲイヴ・ミー・ジ・アンサー」はポールの十八番とも言うべきヴォードヴィル調のナンバーで、70年代版「ホエン・アイム・64」という感じ。ノスタルジックな空気を演出するホーン・セクションもエエ味を出している。
 ⑤「マグネット・アンド・チタニアム・マン」(磁石屋とチタン男)はポールがアメリカの漫画からヒントを得て書き上げたという物語風のノリの良いナンバーで、ポールの声色の使いわけといい、ウイングスの魅力の一つである清々しいコーラス・ハーモニーといい、私の大好きな1曲だ。このアルバムからの 2nd シングル⑥「レッティング・ゴー」を聴くといつも「ワイン・カラーの少女」というワケのわからん邦題のせいで赤っ恥をかいたことを思い出してしまう。当時素直な中学生だった私は英語の先生に “Letting go ってワインカラーっていう意味があるんですか?” と質問して “コイツ何言うとんねん、アホちゃうか?” と言わんばかりの白い目で見られたのだ。邦題は原題の直訳、と信じていたのだからオメデタイ話だ(>_<) 曲そのものは新加入ギタリスト、ジミー・マッカロックのブルージーなギター・ワークが絶品で、ヘヴィーなブラス・セクションも効果的だが、ちょっと重すぎてシングルには向いていないような気もする。私は大好きやけど...(^.^)
 B面は歌詞とサウンドを SF っぽく変えた⑦「ヴィーナス・アンド・マース(リプリーズ)」に続く⑧「スピリッツ・オブ・エインシェント・イージプト」でデニー・レインがリード・ヴォーカルをとるのだが、途中ポールのヴォーカルにすり変わる個所があって、そこが何かカッコイイ。⑨「メディシン・ジャー」はジミー・マッカロック作で入魂のギター・ソロも披露しているノリの良いロック曲なのだが、リード・ヴォーカルまでやるというのは欲張り過ぎ。例えポールにススメられたのだとしても謹んで辞退するべきだったのだ。ファンはポールのヴォーカルを聴きたいのだから(>_<) 2分49秒からスルスルと滑り込んでくるリンダの歌声に何故か和んでしまう。⑩「コール・ミー・バック・アゲイン」はブルージーな雰囲気を持った曲で、ポールのソウルフルなヴォーカルがユニークだ。
 アルバムからの 1st シングル⑪「リスン・トゥ・ホワット・ザ・マン・セッド」(あの娘におせっかい)は泣く子も黙る大ヒット曲で、ポールにとって「アンクル・アルバート」、「マイ・ラヴ」、「バンド・オン・ザ・ラン」に続くソロ4枚目の全米№1ソング。サックスの使い方も絶妙だし、何よりも歌詞とメロディーが見事に一体化して完全無欠のポップ・ソングとして屹立しているところが凄い。ここでもウイングスなコーラス・ワークが大いに威力を発揮している。老人の寂しい状況を歌った⑫「トリート・ハー・ジェントリー~ロンリー・オールド・ピープル」はそこはかとなく漂う哀愁がたまらないし、ラストの⑬「クロスロード・テーマ」ではレイドバックなギターがこの豪華なアルバムのフィナーレを見事に演出している。
 この翌年ポールが行ったアメリカ・ツアーでもセット・リストの中心となった躍動感溢れるハード・ドライヴィングな楽曲を多数収録したこのアルバムは私をポール狂にした全盛期ウイングスの大傑作なのだ。

Paul McCartney & Wings - Rockshow (Seattle '1976)

Band On The Run / Paul McCartney & Wings

2009-09-04 | Paul McCartney
 「バンド・オン・ザ・ラン」はポールの最高傑作だと言われている。私にとっても「ラム」と並ぶ超愛聴盤だし、総合的な完成度で言えば「ラム」をも凌駕している。中身の音楽はもちろんだがジャケットがこれまたカッコ良くて、このアルバムは名盤の必要十分条件をすべて満たしているように思う(^o^)丿 “完全無欠の” っていう形容詞はこのアルバムのためにあるようなものだ。
 当初、アルバムの制作過程はスムーズにはすすまなかった。まずレコーディングの行われるナイジェリアのラゴスへの出発直前になってギタリストとドラマーが脱退、まぁウイングスはポールのワンマン・バンドなのでファンとしてはポールとリンダがいればあとは誰でもエエというのが本音だが、それにしても出鼻をくじかれるとはこのことだろう。しかも治安の悪いラゴスで強盗に襲われるわ、現地のミュージシャンとトラブるわでまさに踏んだり蹴ったりのレコーディングだったらしいが、そのような逆境がプラスに作用したのかアルバム全体に緊張感が漲り、それまでとは違う辛口のポールが楽しめるのだ。個々の楽曲の充実はもちろんのこと、「ワイルド・ライフ」、「レッド・ローズ・スピードウェイ」と比べてみて何よりも素晴らしいのは躍動感溢れる多彩なマッカートニー・ミュージックが絶妙なアレンジで並んでいること。全9曲が完璧にプロデュースされ音に格段の厚みが増しているにもかかわらず、無駄な音が全く入っていないのは凄いとしか言いようがない。まるでビートルズのアルバムを聴いているような充実感だ。
 アルバム・タイトル曲の①「バンド・オン・ザ・ラン」は気だるいムーグ・シンセサイザーとギターのサウンドが支配するスローな前半部から少しテンポ・アップして力強いヴォーカルが聴ける短い中盤部を経て、オーケストラが入りノリの良いアコギのリズミカルなサウンドがたまらない後半部と、異なる曲想を巧く融合させた3部構成は唯一無比で、これぞ天才ポールの真骨頂といえるキラー・チューンだ。この曲の素晴らしさにについてはまだまだ言い足りないが、先に進まなくてはいけない(^.^)
 ②「ジェット」はまずその風雲急を告げるようなイントロでガツン!とやられる。ギターのカッティングもシビレるし、ポールの乾いたドラミングも素晴らしい。疾走感を更に加速させるようなコーラス・ワークも絶品だ。1分58秒と2分58秒で右チャンネルから炸裂する火の出るようなピアノを始め、隅々まで様々なアイデアが詰まったこの分厚い音は圧巻だ。まさにヒット曲のお手本のようなカッコ良いロックンロール・ナンバーだと思う。因みに私はこの曲のおかげ(?)で lady suffragette(婦人参政権論者)などという大学入試にも出てこないような難しい単語を知っていたヘンな中学生だった。
 ③「ブルーバード」はポールお得意のアコギを使ったスロー・バラッドだが決して甘さに流されていないところがこの時期のポールの充実ぶりを示している。温か味溢れる間奏のサックスとコーラスの絡みなんか、絶頂期のポールならではの余裕を感じさせる見事なアレンジで、聴いていて心にポッと灯がともるような感じがする。ロマンチスト、ポールの面目躍如たる素晴らしいラヴ・ソングだと思う。
 ④「ミセス・ヴァンデビルト」は “ホッ ヘホッ♪” という掛け声が耳に残る印象的なナンバーで、アフリカの民族音楽調の曲想が実にユニークだ。これ、理屈抜きで大好き(^o^)丿 絶妙なアコギのリズム・カッティングといい、ビシバシきめるポールのドラミングといい、ハウィ・ケイシーの怒涛のサックス・ソロといい、その全てが躍動感に溢れ、音楽ってエエなぁ... と実感させてくれる。何よりも楽曲全体を引き締めるポールのベースが圧倒的に、超越的に素晴らしい!!!
 ⑤「レット・ミー・ロール・イット」は一転してキーボードとヘヴィーなギターというまるでプラスティック・オノ・バンドのようなシンプルなオケをバックに堂々たる歌声を聴かせるポールはジョン・レノンを意識しているようにも聞こえるのだがどうだろう?
 ⑥「マムーニア」はいかにも “アフリカしてる” 感じが伝わってくるホノボノ・タイプのナンバーで、アコギの音色が清々しい風を運んできてくれるユニークな1曲だ。⑦「ノー・ワーズ」は何となくジョージっぽい曲想(イントロのギターといい、“ノーワーズ フォー マァイ ラァ~ヴ♪”のパートといい、「ギヴ・ミー・ラヴ」の頃のジョージしてないですか?)の穏やかなナンバーだが、中盤のファルセット・ヴォイスやエンディングのギター・ソロはポールならではだ。トニー・ヴィスコンティのストリングス・アレンジも光っている。
 ⑧「ピカソの遺言」は “Drink to me, drink to my health♪” というサビのメロディーの単調な繰り返しからテンポ・チェンジ、途中ケイト・ブッシュの「魔物語」を想わせるリズム・ボックスをバックに「ジェット」のフレーズが再登場したり、エンディングは「ミセス・ヴァンデビルト」のフレーズでフェイド・アウトしたりとトータル・アルバムを意識した構成で楽しませてくれる。
 ⑨「西暦1985年」はこのアルバムの中で私が最も好きな曲で、そのダイナミックな曲想といい、緊張感溢れるサウンドを生み出すピアノ連打のリフといい、ポップでありながらプログレッシヴという難題を軽くクリアしている。ムーグとホーンで盛り上げる後半部も凄まじく、ピアノ、ギターにストリングスも加わった重厚なサウンドは圧巻の一言。エンディングで“バァ~ ドォン ザラァ~ン♪” と①のサビが流れてくるところなんかもう鳥肌モノだ。
 天才ポールがその持てる才能を存分に発揮し、全編を通してまったくダレることなく力強さと躍動感に溢れたスリリングなマッカートニー・ミュージックが楽しめるこのアルバムは、ビートルズ各メンバーのソロ作品の中で、いや、70年代にリリースされたすべてのポップ/ロック・アルバムの中で最高峰に位置する1枚だと思う。

Nineteen Hundred and Eighty Five by Paul McCartney and Wings

Red Rose Speedway / Paul McCartney & Wings

2009-09-03 | Paul McCartney
 “勝手にポール祭り” も3日目に突入した。ポールのアルバムはそれこそレコードが擦り切れるくらい聴いてきたが、このように時系列に沿って、しかも集中して聴いたことはなかったので、改めて色んな発見があって中々楽しい。同じレコード、CDでも聴き方を変えるだけでこんなに色々楽しめるのだから音楽って面白いなぁと改めて実感させられる。特にポールの場合はもう30年以上の付き合いで、隅々まで聴いて分かっていたつもりだったが、以前あまりピンとこなかった曲が久しぶりに聴くとめちゃくちゃ良かったりとか、とにかく天才ポールはまだまだ奥が深いのだ。
 この「レッド・ローズ・スピードウェイ」がリリースされた1973年というのはまだリアルタイムで楽しんでいたわけではないので当時の状況は後追いで知るしかなかったのだが、とにかくこの時期、マッカートニー夫妻に対する風当たりは相当強かったらしく、「マッカートニー」や「ワイルド・ライフ」はもちろんのこと、あの「ラム」ですらケチョンケチョンに酷評されていたらしいのだ。稀代のスーパー傑作アルバムを評して “チープなポップンロール” やとぉ...? 耳に虫でも湧いとるんちゃうか??? そしてそんな世間の悪評に対してポールが “これでどーよ!” とばかりに反撃を開始したのがちょうどこの頃で、次々とシングル・ヒットを連発するのだ。
 まずは胸のすくようなロックンロール・ナンバー「ハイ・ハイ・ハイ」でロッカーとしての存在をアピールし、続いてはポールお得意の激甘ラヴ・ソング「マイ・ラヴ」で全米№1をゲット、更に007シリーズの主題歌「リヴ・アンド・レット・ダイ(死ぬのは奴らだ)」でも全米2位を記録するなど、 “上等じゃ、やったろーやないか!” というポールの気迫が伝わってくるような怒涛の快進撃なのだ。そんな時期に出されたアルバムがこの「レッド・ローズ・スピードウェイ」である。
 ①「ビッグ・バーン・ベッド」はちょうど「ラム」のエンディングのフレーズ “Who's that comin' round that corner?” をすくい上げてそこから曲想を膨らませて出来たようなファンキーな曲で、そのノリの良さはアルバム冒頭を飾るに相応しい。①が終わると間髪を入れず②「マイ・ラヴ」のイントロが聞こえてくるのだが、霧の中から巨大な何かが浮かび上がってくるようなこの瞬間がたまらない。行間からリンダへの愛が滲み出るこの曲はもう何の説明も不要なくらい有名なポールの傑作バラッドで、今やポップス・スタンダードとしてカヴァーされるほどの名曲だ。③「ゲット・オン・ザ・ライト・シング」はこの時期のポールが目指していたバンド・サウンドを具現化したような快活なナンバーで、続く④「ワン・モア・キス」もいかにもポールらしいほのぼの系ソング。この①→②→③→④という流れは前作に欠けていた “アルバムとしての作り込み” の成果だと思う。
 しかしAラスの⑤「リトル・ラム・ドラゴンフライ」からB面アタマの⑥「シングル・ピジョン」、⑦「ホエン・ザ・ナイト」、そしてムーグ・シンセサイザーを使ったインスト・ナンバー⑧「ループ」にかけては割と地味な曲が並んでいて少し中弛みして聞こえてしまう。だからこのアルバムの素直な感想としては “エエねんけど、あと一歩何かが足りない” というのが正直なところ。もしこれらをシングルの「ハイ・ハイ・ハイ」や「死ぬのは奴らだ」、それにシングルB面で埋もれさせてしまうには惜しすぎる名曲「C ムーン」や「ザ・メス」、「カントリー・ドリーマー」なんかと差し替えたらめちゃくちゃ凄いアルバムになってたと思うのだが...(^.^)
 ⑨「メドレー:ホールド・ミー・タイト~レイジー・ダイナマイト~ハンズ・オブ・ラヴ~パワー・カット」はこのアルバムで私が最も感銘を受けたトラックで、ポールの天才メロディー・メイカーぶりが如何なく発揮されている。とにかく4つの名曲が絶妙に溶け合っており、10分12秒や10分25秒でメドレー前半の曲のフレーズを巧く織り込みながら大団円へともっていくあたり、さすがという他ない。「アビー・ロード」B面後半のメドレーを彷彿とさせる名曲名演だ。このメドレーだけでもこのアルバムを買う価値があると思うのは私だけだろうか?

HANDS OF LOVE /POWER CUT - Paul McCartney
コメント (2)

Wild Life / Wings

2009-09-02 | Paul McCartney
 ポールの全アルバム中、最も聴きまくったのは 2nd アルバムの「ラム」である。1st アルバム「マッカートニー」は噛めば噛むほど味が出るスルメ盤だったが、「ラム」は王道を行く捨て曲ナシの大名盤、王者のカムバック宣言として満天下にポール健在を知らしめるポップス玉手箱のようなアルバムだった。すっかり調子を取り戻したポールが次に考えたのがライブへの復帰、つまりパーマネントなグループの結成である。そしてリハーサルもそこそこにスタジオに入ったウイングスがわずか3日間でレコーディングしたのがこの「ワイルド・ライフ」だった。しかしやっつけ仕事的な感は否めず、アルバム発表当時はボロクソに叩かれたらしい。
 私がこのアルバムを買ったのは昨日も書いたようにウイングスの全盛期諸作や「ラム」を聴いた後だったので、その落差は大きなショックだった。私は筋金入りのビートルズ・ファン、ポール・ファンを自認しているので、それだけに彼に対する要求度は厳しく、高い。まず天下のポールに失敗は許されない。出す作品すべてが傑作でなければならない。常にハイ・テンション、ハイ・クオリティーを維持し、他のアーティストが逆立ちしても作れないような泣く子も黙る名曲をガンガン出し続けなければならない。そういうわけで、このアルバムは確かにシングルが1曲も入ってないというハンデはあったが、それ以上にポールらしい弾けるような魅力に溢れる楽曲 – 「レディ・マドンナ」や「バック・イン・ザ・USSR」、「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」みたいなキャッチーな曲 – に乏しく、ポールが結成したバンドとしてビートルズや全盛期ウイングス的な音を期待した私の耳にはあまりにも薄味・地味に響いて、その第一印象はスカスカ・サウンドにコケまくった「マッカートニー」よりも更に悪かった。これに関してはポール本人を始め、リンダやデニー・レインまでもが “少しも自慢できる内容じゃない(>_<)” と言っているし、全盛期のウイングスのライヴにおいて1曲もレパートリーに入らなかったことでも一目瞭然だ。
 ということで70年代ポール盤の中では一番聴いてなかった「ワイルド・ライフ」なのだが、何年か前、ふと気が向いて聴いてみるとこれが結構イケるのだ。確かに他のアルバムのような派手さはないが、これはこれでアリやなぁ...と思えるのである。このアルバムはLPでA面にあたる①~④がリズミカルなナンバー、B面にあたる⑤~⑧がポールらしいリリカルなナンバーという構成で、私にはやはりA面が面白い。特に気に入ってるのが①「マンボ」で、リズミカルでパーカッシヴなバックの演奏に乗ってハジケまくるポールがごっつうエエ感じなのだ。何でこの良さがワカランかったんやろ?と、我ながら情けない限りだが、とにかくこの曲はクセになる。良い意味でのラフな味わいがたまらない。
 ミディアム・テンポでシンプルなメロディー・ラインの②「ビップ・ボップ」はどことなく50年代の雰囲気を持ったナンバーで、ポールによると “何となく出来たリズムを曲にした” とのこと。エフェクトをかけたようなポールの声が面白い。③「ラヴ・イズ・ストレンジ」はロックのスタンダードをカヴァーしたものらしいがオリジナルは聴いたこともない。そんなことよりもこのファンキーなレゲエ風のリズムはトーキング・ヘッズの「ジス・マスト・ビー・ザ・プレイス」の10年先を行くカリビアン・フレイヴァー溢れる佳曲だと思う。まぁ、今だから言えることだが、さすがはポールと言わざるを得ない。④「ワイルド・ライフ」は①と並んで私が気に入っているナンバーで、「ビウェア・マイ・ラヴ」に「レッティング・ゴー」を混ぜ合わせ「レット・ミー・ロール・イット」でグツグツ煮込んだような(←何じゃそりゃ?)ブルージーな雰囲気がたまらない(≧▽≦) ポール入魂のヴォーカルがたっぷりと味わえるのも嬉しい。
 B面の⑤「サム・ピープル・ネヴァー・ノウ」、⑥「アイ・アム・ユア・シンガー」はメロディーが薄味すぎて私にはイマイチ。どちらかというとメロディーよりもリンダへの愛を綴った歌詞を聴かせるための曲のように思える。⑦「トゥモロウ」はB面では一番好きな曲で、リズミカルなピアノのイントロといい、いかにもポールな曲想といい、鉄壁を誇るリンダとデニーのバック・コーラスといい、実にウイングスらしい1曲だと思う。何でも「イエスタデイ」のコード進行を利用しているらしいが(だからタイトルが「トゥモロウ」なんか?)、私には “コード進行” などという難しい専門用語はわからないのでノー・コメント(>_<) ⑧「ディア・フレンド」は巷の噂どおりどう聴いてもジョンへのメッセージ・ソングだろうが、この二人の関係は兄弟げんかというか、 “嫌い嫌いも好きのうち” 的なものだったのだろう。「ハウ・ドゥー・ユー・スリープ」に対して「ディア・フレンド」... お互いめっちゃ意識し合ってて微笑ましいではないか(^.^) そういえばジョンが “ポールの悪口を言っていいのは俺だけだ。他のヤツが言うのは許さない。” と言ったとどこかで読んだことがあるが、行間からジョンなりのポールへの愛情が滲み出ているのが感じられて何かめっちゃ嬉しかった。
 このアルバムは「マッカートニー」の時と同様に洗練されたビートルズ的なサウンドを期待すると思いっ切り肩透かしを食うが、当時の等身大のポールがそのまま出た佳作として楽しめる1枚だろう。世評で言われているような駄作では決してないと思う。

Paul McCartney & Wings - Mumbo.

McCartney / Paul McCartney

2009-09-01 | Paul McCartney
 長かった... ビートルズ全CD完全リマスターのニュースに大コーフンした4月の初め、発売日の9月9日は遙か彼方のように思われた。それ以来私はただひたすら9月がやって来るのを心待ちにしながらこの5ヶ月間を過ごしてきた。そしてついに今日から9月に突入、後はX-デーまでカウントダウンの毎日だ。ということで今日から “ポール・マッカートニー祭り” で勝手に盛り上がっていきます(^o^)丿
 これまで何度も書いてきたように私が音楽を聴き始めたのは1975年で、ビートルズはすでになく、やや沈黙気味の他のメンバーを尻目に八面六臂の大活躍をしていたのがポールだった。最初に買ったのが「ヴィーナス・アンド・マース」、続いて「バンド・オン・ザ・ラン」というスーパーウルトラ大名盤2連発、更に初期のシングル盤も片っ端から買いまくり、私はすっかりマッカートニー信者と化していた。そんな中、残すは初期のアルバム4枚のみということで買ったのがこの 1st アルバム「マッカートニー」だった。
 初めて聴いた時の印象は “何コレ???” ウイングス全盛期の、あるいは後期ビートルズの煌びやかでポップな音作りを予想していた私の耳に飛び込んで来たのはまるでデモ・テープのようなラフなサウンドだった。スカスカではないか...(>_<) すっかり失望した私は数回聴いた後、レコード棚にこのアルバムをしまい込んだ。
 その後しばらくしてウイングスの集大成ライブ「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」がリリースされ、その中に入っていた「メイビー・アイム・アメイズド」が気に入った私は、改めてその元になったスタジオ・テイクを聴きたくなり、再びこの「マッカートニー」を聴いてみた。すると、確かにサウンドはスカスカだが、何度も繰り返し聴くうちにその飾り気のない素朴な味わいが徐々に心の中に染み込んできて、最初に感じた失望感を解消してくれたのだ。アルバム全体に田舎の家庭料理のような手作り感があり、溢れ出る “メロディーの洪水” はポールならではのものだった。アルバムの大半を占めるインスト・ナンバーや3分以下の短い楽曲だって、そのどれもがちゃんとした歌詞を添えるなり、しっかりとプロデュースするなりすれば名曲名演の仲間入りをしそうな “ダイヤモンドの原石” ばかりだ。私はだんだんこのアルバムが好きになっていった。
 個々の楽曲で言えばまずは何と言っても⑫「メイビー・アイム・アメイズド」が素晴らしい。「アビー・ロード」に入っていてもおかしくない出色のナンバーだと思う。「ホワイト・アルバム」の頃に書かれた⑥「ジャンク」とそのインスト⑪「シンガロング・ジャンク」が湛えるえもいわれぬ哀感にも涙ちょちょぎれる。ポールにしか書けない名曲だ。愛妻リンダへの想いがダイレクトに伝わってくる①「ラヴリー・リンダ」と④「エヴリナイト」はどちらも素直なメロディーが耳に心地良いし、リンダとの初デュエット⑦「マン・ウィー・ワズ・ロンリー」もほのぼのとした雰囲気があってエエ感じだ。ポールお得意のプレスリー風ヴォーカルが面白い②「ザット・ウッド・ビー・サムシング」、ファンキーなノリの⑧「ウー・ユー」、幻のアルバム「ゲット・バック」収録のヴァージョンとの比較も一興の⑩「テディ・ボーイ」(私はリンダの彷徨バック・コーラス入りのこちらのヴァージョンにより愛着を感じてしまう...)と聴きどころも満載だ。
 世評が低いらしい残りのインスト曲だが私は結構好きで、これのどこがアカンねん!とマジで思ってしまう。③「バレンタイン・デイ」はスタジオで遊んでいるうちに出来たような2分足らずの曲だが、そんな中にもキラリと光るフレーズが続出するあたり、さすがはポール。⑤「ホット・アズ・サン」は確か海賊版LPのタイトルやったような記憶があるが、中々遊び心に溢れた楽しいナンバーだ。⑨「ママ・ミス・アメリカ」は当時毎日のように聴いていたFM大阪の音楽番組 “田中正美のビート・オン・プラザ” のオープニング・テーマ曲で、この曲を褒めた評をこれまで見たことがない(というより完全シカトされ状態?)のだが、個人的に非常に思い入れのある1曲で、何回も聴いているうちにすっかり病みつきになっていた。⑬「クリーン・アクロア」はポールの持つ前衛性が表に出た異色のナンバーだが、世間一般のアホバカ・アヴァンギャルドとは違い、ポールの場合はちゃーんと最後まで聴けるからある意味凄い。あんまりワケわからんけど...(笑) 所々で聴けるギターのフレーズは「ラム」や「レッド・ローズ・スピードウェイ」に繋がるフラグメントのように思う。
 このアルバムは確かにカタギの音楽ファンに諸手を上げてオススメできるような盤ではないかもしれないが、ポール・マッカートニーの音楽に魅せられた者にとっては聴けば聴くほど愛着の湧く、かけがえのない1枚なのだ。

Paul McCartney - Momma Miss America
コメント (10)