shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Beatles For Sale

2009-09-21 | The Beatles
 1964年はビートルズにとってアメリカを、そして世界を完全制覇した画期的な1年だった。「抱きしめたい」→「シー・ラヴズ・ユー」→「キャント・バイ・ミー・ラヴ」の3枚のシングルが連続して全米№1を14週に渡って爆走するわ、4/4付の全米チャートでは1位から5位までを独占するという空前絶後の大記録を打ち立てるわ、エド・サリヴァン・ショーに出演して72%という驚異の視聴率を叩き出すわ、テレビ出演やコンサート・ツアーを続けながら「ア・ハード・デイズ・ナイト」で映画にも出演するわ(しかも全曲傑作オリジナルでビシッとキメたサントラ盤まで作ってしまった!)で、もうどぉにも止まらない山本リンダ状態だった(≧▽≦) これに味をしめたレコード会社は、金の卵を産むニワトリであるビートルズに “もっと産め!” 、つまりその年のクリスマス商戦用のニュー・アルバムを作れという。いくら何でもムチャクチャである。しかしビートルズは殺人的なスケジュールの合い間を縫ってレコーディングを敢行、見事クリスマス・シーズンに間に合わせて完成させてしまったのだ。それが4枚目のアルバム「ビートルズ・フォー・セール」である。
 まずはジャケットに注目。そこに居並ぶ4人の表情にはさすがに疲れの色が見てとれ、目はうつろ状態で、 “ビートルズ売り出し中” とは言い得て妙というか実に皮肉なタイトルだ。中身の音楽の方も全14曲中オリジナルはわずか8曲で、アルバム全体のトーンとしてはジャケットの倦怠ムードを反映し、カラフルな前作「ア・ハード・デイズ・ナイト」でのワクワクドキドキするような躍動感や陽気でキャッチーなメロディーは影を潜め、ダーク・トーンというか、渋いというか、ドライというか、一見地味になったように見えるのだが、次段階への重要なステップとして不可欠なアルバムだと思う。アコースティック色が強いから言うのではないが、ちょうどゼッペリンのⅢみたいな位置づけだろう。因みに私のUK黄パロ盤は31ポンド、何故か中々キレイな盤が出てこずに手こずった1枚で、モノ・リマスターCDでは折り込み式のゲートフォールド・ジャケットを見事に再現している(←出し入れしにくいけど...)。
 ビートルズのアルバムの大きな特徴として、A面1曲目の出だしでいきなり聴き手をKOしてしまう傾向があることに最近気付いた(←遅っ!)。「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」、「イット・ウォント・ビー・ロング」、「ア・ハード・デイズ・ナイト」、「ヘルプ」、「ドライヴ・マイ・カー」、「タックスマン」、「SGT ペパーズ」、「バック・イン・ザ・USSR」、そして「カム・トゥゲザー」... どれもこれもいきなりガツン!!! とくる曲ばかり(アルバム「レット・イット・ビー」はフィル・スペクターがやったから「トゥ・オブ・アス」なんやろな...)である。そんなビートルズ鉄の掟(?)に従って1曲目に抜擢されたのがジョンの①「ノー・リプライ」である。レコードに針を落とす(或いはCDプレイヤーのボタンを押す)と、静寂を破っていきなりスピーカーから迸り出る “ディサプン ワンスビフォ~♪” というジョンの歌声で全身に電流が走る。この快感こそがビートルズを聴く醍醐味ではないか。そして不思議なことにこの電気ショック的快感は何百回何千回聴いても色褪せない。それこそがビートルズ・マジックなのだ。そういえばスターズ・オン45 のビートルズ・メドレーの出だしもこの曲だった。さすが、わかってるなぁ...(^.^)
 ジョンが “俺は負け犬” と歌う②「アイム・ア・ルーザー」はこのアルバムの大きな特徴の一つであるカール・パーキンス路線の土の薫りのするサウンドに軽~くボブ・ディラン風ハーモニカをまぶしたナンバーで、感情を抑制するというよりは消去したかのようなジョンのクールなヴォーカルはそれまでに聞かれなかったものだ。③「ベイビーズ・イン・ブラック」を聴くとどうしても日本公演で1本のマイクを2人で仲良く分けあいながらハモッていたジョンとポールの姿が思い浮かぶ。そういう意味では⑥「ミスター・ムーンライト」も同じで、テレビの日本公演特番の羽田から都内へ向かうビートルズの車の映像のバックで、先導するパトカーのサイレン音がフッと途切れて一瞬無音状態になった後、静寂を破るように響き渡った「ミスタァ~ァァ、ムゥンラァァイ!」っていう雄叫び(←2分24秒のところ... 鳥肌モンです!)にブッ飛んだのが忘れられない。④「ロックンロール・ミュージック」は確かこのアルバムを買う前に既にシングル盤を買っていて聴き狂った記憶があるキラー・チューンで、ジョンの息もつかせぬヴォーカルの何とカッコ良いことか!!! ジョージ・マーティンのピアノもノリノリで、この疾走感溢れるカヴァーはチャック・ベリーのオリジナルを軽く超えていると思う。
 このように①②③④⑥と、A面7曲中5曲をジョンが歌っており、残る2曲がポールの⑤「アイル・フォロー・ザ・サン」と⑦「カンザス・シティ~ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ」である。⑤はポールが10代の頃に作ったフォーキーな曲で、その後の彼のアコースティック・バラッド路線を予感させる佳曲だし、リトル・リチャードの名曲をメドレーでカヴァーした⑦では喉も張り裂けんばかりに絶叫するポールに彼のロックンローラーとしての真骨頂を見る思いがする。特に後半部分でポールvsジョン&ジョージが展開する狂乱のコール&レスポンスが圧巻だ。
 B面はA面に比べるとどうしても地味な印象があるが、それでも⑧「エイト・デイズ・ア・ウイーク」1曲のインパクトは何物にも代えがたい。フェード・インで始まるイントロやお約束のハンド・クラッピングがシャッフル・リズムをベースにしたこの小気味良いロックンロールの魅力を倍増させている。「アンソロジー1」で彼らが様々な試行錯誤を重ねてこの曲を作り上げていくプロセスが聴けたのは実に興味深くスリリングだった(^o^)丿 日本盤シングル「ロックンロール・ミュージック」のB面に入っていた⑪「エヴリ・リトル・シング」はあまり目立たないが聴けば聴くほどハマッてしまうスルメ・チューンで、リンゴのティンパニが曲をキリリと引き締めるスパイス的な役割を果たしている。残りの曲は他の曲に比べると私的にはインパクトがやや弱いように感じていたが、リミックス・アルバム「ラヴ」での⑬「ホワット・ユーアー・ドゥーイング」の絶妙な使われ方を聴いてこの曲を見直してしまった。
 一般的にビートルズがポップ・アイドルからロック・アーティストへと変貌し始めたのは「ラバー・ソウル」からだと言われるが、アコギを多用して単なるロックンロールではない新たなサウンドを模索し始めたこのアルバムに、そのあたりの伏線があるように思う。

The Beatles - Rock and Roll Music
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