shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Help ! / The Beatles

2009-09-22 | The Beatles
 ビートルズのアルバムは、彼ら自身の音楽的変化と連動するような形でそれぞれのアルバム毎に異なった色彩を帯びている。「プリーズ・プリーズ・ミー」と「ウィズ・ザ・ビートルズ」は荒削りなロックンロール、「ア・ハード・デイズ・ナイト」は躍動感溢れるキャッチーなポップス、「ビートルズ・フォー・セール」は渋く落ち着いたアコースティック・サウンド、というように、アルバム全体がそれぞれのトーンで統一されていた。そのように見てくると彼らの5作目に当たるこの「ヘルプ」は中々形容するのが難しい。カントリー・タッチの曲やソフトなロックが目立つということで前作の延長線上にあると言えなくもないが、それまでのアルバムが持っていたような統一感はあまり感じられない。むしろキャッチーなロックンロールあり、フォーク・ロックあり、カントリーあり、弦楽四重奏あり、古典的なロックンロール・カヴァーありと、ビートルズの多様な音楽性を一気に開陳したようなごった煮風の名曲名演集と言えるのではないだろうか。
 このアルバムに関しては、私はまず日本盤LP(当然ステレオ)で親しみ、その後初CD化された時もジョージ・マーティンによるステレオ・リマスターだったので、ステレオ・ミックスのサウンドしか知らずに30年間過ごしてきた。というか、まさかモノラルとステレオでミックス違いがある、それもパッと聞いて誰にでも分かるほどの違いがあるなんて夢にも思っていなかったので、5年前に初めてUKオリジナルのモノラル盤(19ポンドと前期の盤では最安値でした...)を聴いた時は一瞬 “何コレ?俺の知ってる「ヘルプ」と違うやん???” とビックリしてしまった(゜o゜)  まず①「ヘルプ」ではミックスがどうこういう以前にジョンのヴォーカルがモノラルとステレオではまったくの別テイクだったし、②「ザ・ナイト・ビフォア」に至っては、モノラル・ミックスではポールのヴォーカルにほとんどエコーがかかっていないのでまるで目の前で歌っているようなリアリティーが感じられるのに対し、87年CDのジョージ・マーティンによるステレオ・ミックスではヴォーカルに大量のエコーがかけられていて全く違って聞こえるのだ。例えて言うなら “すっぴん美人”のモノラル vs “お化粧美人”のステレオ、といった感じか。因みに私は断然 “すっぴん美人” 派です(^o^)丿 又、今回のリマスターではモノCDのボーナス・トラックとして65年のステレオ・ミックスが入っていたのでついでに聴き比べてみたが、 1st や 2nd アルバムの左右泣き別れ・カラオケ・ミックス(笑)とは又違った中抜け・スカスカ・ミックスだった(>_<)
 このアルバムはA面が映画に使われた曲、B面がそれ以外の新曲を集めたものだが、そのせいかA面の方が派手な印象を受ける。①「ヘルプ」は初めて赤盤で聴いて衝撃を受けて以来の超愛聴曲で、情感豊かなジョンのヴォーカルにポールとジョージの絶妙なバック・コーラスがくんずほぐれつ絡み合いながら疾走していく様は、これぞ3分間ポップスの最高峰!と言いたくなるようなカッコ良さだ。②「ザ・ナイト・ビフォア」と⑤「アナザー・ガール」は似たような雰囲気を持った曲で、どちらもシンプル&ストレートでメロディアスなロックンロール。②は大平原で戦車に囲まれて4人が演奏するシーン(エンディングで爆弾が爆発するんよね...)が、⑤は海岸で戯れながら演奏する4人の姿(確かポールが女の子をベースに見立てて弾いてた...)がそれぞれ目に浮かぶ。しかし映像のインパクトでいえば断然⑦「ティケット・トゥ・ライド」だろう。この曲のシーンではアルプスの雪山で戯れる4人の姿が実に生き生きと描かれており、その映像がまた音楽と見事にマッチしていて、80年代に全盛を迎えるプロモーション・ビデオを先取りしたような素晴らしい映像に仕上がっている。特に4人が手をつないで雪の上にバタンと倒れるシーンや音楽に合わせて電線に音符が付いていくシーン(←このアイデア凄い!)が大好きだ。③「ユーヴ・ガッタ・ハイド・ユア・ラヴ・アウェイ」の、部屋の中でソファーに腰掛けて演奏するシーンでは無表情でタンバリンを打ち鳴らすリンゴやいきなりフルート・ソロに入るオッサン(←誰?)がエエ味出してるし、⑥「ユア・ゴナ・ルーズ・ザット・ガール」のレコーディングのシーンではタバコの煙を小道具として使って(?)光線の当たり具合でクールな雰囲気を巧く演出していたのが印象的だった。
 このアルバムには④「アイ・ニード・ユー」と⑩「ユー・ライク・ミー・トゥー・マッチ」という、ジョージの作品が2曲も入っているが、④はヴォリューム・ペダルを駆使したジョージの揺れるようなギター・リフがこの曲のキャッチーなメロディーを引き立てており、その何とも言えない素朴な味わいが大好きだし、⑩はメロディーは単調ながら次作「ラバー・ソウル」で全開になる “ドラムよりも目立つタンバリン” やジョンの弾くエレクトリック・ピアノがサウンドに絶妙な色づけをするなど、飽きさせない作りはさすがと唸らせるものがある。更に単調な⑪「テル・ミー・ホワット・ユー・シー」にも⑩と同じことが言えるだろう。⑧「アクト・ナチュラリー」は日本盤シングル「イエスタデイ」の裏面(←というか、正式には「アクト・ナチュラリー」がA面で、「イエスタデイ」はB面扱いになってた!)に入っていた曲で、カントリー&ウエスタン調のロカビリーは私には軽すぎていまいちピンとこなかった。リンゴの唄も悪くはないけど正直言って1曲で十分だ。⑨「イッツ・オンリー・ラヴ」は当時のジョンにしては珍しい甘口のラヴ・ソングだが、そのせいかジョン自身は “嫌いな曲” に挙げている。因みに昔流行った雅夢というフォーク・デュオの「愛はかげろう」という曲のサビのメロディーがこの曲そのまんまだったのを今でもよく覚えている。
 このようにB面前半の4曲は地味だったり単調だったりでいまいちパッとしないのだが後半に入って空気がガラッと変わる。まずは⑫「アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス」の目も眩むような疾走感(≧▽≦) アコギのカッコ良さをこれほど見事に体現した曲を私は他に知らない。ウイングスのUSA ライヴ・ヴァージョンも必聴だ。⑬「イエスタデイ」はもう何も言うことがない絶世の大名曲。弦楽四重奏付きのコレも悪くはないのだが、私は “Next song we’d like to do is from ah, Help LP, LP... and it’s called, y, yesterday.” というジョージの舌っ足らずな曲紹介付き6/30日本公演ヴァージョンのシンプルな演奏により愛着を覚えてしまう。ラリー・ウイリアムスのカヴァー⑭「ディジー・ミス・リジー」は初期の彼らが得意としていた火の出るようなロックンロールで私も大好きなのだが、このアルバムの中で聴くと何故か浮いて聞こえてしまう。「ラバー・ソウル」前夜の胎動を感じさせる他の曲に比べると、いささかオールドファッションなのだ。1年前ならしっくりきただろう。しかしビートルズは立ち止まってはいなかった。私には彼らの進化スピードの凄まじさをこの曲が逆説的に証明しているように思えてならない。

The Beatles - Help! - "Ticket To Ride" Vid #13 Restored


The Beatles Live In Japan- Yesterday
コメント (2)