shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Revolver / The Beatles

2009-09-24 | The Beatles
 まだビートルズ・ド素人だった頃、私は彼らに関する膨大な情報を吸収しようと日々レコードを聴きまくり、それと同時に彼らについて書かれた様々な評論を読んで知識を増やそうと必死になっていた。もう学校の勉強なんてまったくせずに “寝ても覚めてもビートルズ”(←今と同じや... 全然進歩してへんやん!)だった。当時のアルバム評はどれもこれも判で押したように画一的で、この「リヴォルヴァー」の評価は “実験的なサウンドがいっぱいの野心作” “異次元の響きが感じられる問題作” ... 大体そんなところだったように思う。しかしビートルズに関して好奇心旺盛だった私は逆に “異次元” だとか “実験的” とかいう言葉に魅かれ、速攻でこのレコードを買いに走った。
 「リヴォルヴァー」を初めて聴いた時の衝撃は全ビートルズ・アルバム中、間違いなく№1だったと思う。少なくとも「サージェント・ペパーズ」や「アビー・ロード」よりは遙かにインパクト大だった。まずは何と言ってもA面1曲目の①「タックスマン」である。ギターの弦をいじっていると思しき音、誰かの咳払い... といったスタジオの雑音をバックに “ワン、トゥ、スリー、フォー、ワン、トゥ...” とカウントを取るジョージの声を何とイントロ代りに(←本当のカウントがちゃんと別に聞こえる)使っているのだ!これまで長いこと音楽を聴いてきたが、咳払いで始まるレコードなんてコレだけだ。そしてそれがまためちゃくちゃキマッててカッコエエのがビートルズの、そしてこのアルバムのマジックなのだ。この曲の聴き所はまだまだ一杯あって、まずはウィルソン首相やヒース首相が登場する歌詞がめっちゃシニカルで面白い。特に “車を運転したら道路に税金、座るのなら座席に税金、寒くなったら暖房に税金、歩こうものならアンタの足に税金だ!” のくだりが最高だ(^o^)丿 又、ポールの斬新なベース・ラインも素晴らしい。このベースは革新的ともいえるもので、洋の東西を問わずパクられまくっている。特に60年代後半から70年代前半にかけてのGSや歌謡曲にはよくこのベース・ラインが入っていて、テンプターズの「エメラルドの伝説」やフィンガー5の「恋のダイヤル6700」など、数え上げたらきりがないぐらいだ。題名は忘れたが、ミスチルの曲にも入ってたなぁ...(^.^) それと、間奏とエンディングで聴けるポールのキレたギター・ソロも圧巻だ。確か「アナザー・ガール」以来だと思うが、それにしてもこのポールの気合いの入りようはハンパではない。とにかくこの「タックスマン」、私はジョージの最高傑作だと思っている。
 このように強烈な①で始まる「リヴォルヴァー」だが、アルバム・ラストの⑭「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」はもっと凄い。イントロからシタールが鳴り響き、何種類もの録音テープをループにして逆回転させ例のカモメの鳴き声みたいなサウンドを作り、リンゴのバスドラも不気味に唸って不思議なグルーヴを生み出し、ジョンのヴォーカルもひしゃげたような感じに歪められて、そのすべてがサイケデリックな雰囲気を醸し出しているのだ。何でも “ダライ・ラマが山頂から歌っていて、そのバックで4000人の修行僧がコーラスしているような” サウンドをジョンが要求したらしい。歌詞もそれまでのポピュラー・ミュージックの世界では考えられないアヴァンギャルドなもので、ジョンはその思索的なメッセージをお経のような単調なメロディー(ワン・コードらしい...)に乗せて歌う。まさに孤高の天才、ジョン・レノンの才気迸るナンバーだと思う。尚、UKモノラルLPの 1st プレスはこの曲のミックス違い(雰囲気がちゃいます!)が収録された超稀少盤とのことで、この曲が大好きな私は前回のラウド・カット盤と同様に不退転の決意でスナイプし、 $113.50 でイタリア人のコレクターから手に入れた。日本国内で買うとこの何倍もするらしいので、eBay やっててホンマによかったと思った。
 ジョージの成長、ジョンのサイケなフィーリング、リンゴの絶妙なドラミングに加え、このアルバムのもう一つの特徴としてポールの充実ぶりが挙げられる。②「エリナー・リグビー」、⑤「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」、⑥「イエロー・サブマリン」、⑧「グッド・デイ・サンシャイン」、⑩「フォー・ノー・ワン」、⑬「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」と、すべて違ったタイプの曲で、そのどれもが傑作と言うから恐れ入る。特に②はもう絵に描いたような名曲で、“アー ルギャ オーダ ロンリ ピィポ~♪” とイントロなしでいきなりハイテンションなヴォーカルから入るビートルズお得意のパターンだ。しかもストリングス入りというと甘口のラヴ・ソングを予想してしまうが、いざ聴いてみるとアップテンポで疾走する辛口ストリングスがこの曲に更なる加速感を与え、2分4秒がアッという間に過ぎ去っていく。特に1分39秒からの “ハザマケンジ~♪” のバックのたたみかけるようなストリングス・アレンジは絶品で、この曲の持つ孤独感、せつなさを見事に表現している。⑤は赤盤に入っていなかったのでこの盤で初めて聴いたが、いやはや、もう参りましたというしかないぐらいの大名曲だ。こんな絶世の美曲を書けるのはこの地球上でポールをおいて他にいないだろう。しかも美しいのに甘くない... これはもう天才の仕事だ。⑥⑧⑩⑬もアレンジ、使用楽器、そしてその演奏法に至るまで徹底的に考え抜かれ、このアルバムにピタッとハマる名曲名演になっている。まさにポール全盛期の幕開けだ。
 そんなポールに対し、ジョンは③「アイム・オンリー・スリーピング」や⑦「シー・セッド・シー・セッド」といったサイケデリックな雰囲気の曲で対抗しており、歌詞、歌い方、演奏のどれを取ってもめっちゃリヴォッている。しかし私が大好きなのはストレートアヘッドな⑨「アンド・ユア・バード・キャン・シング」で、パワフルなツイン・リード・ギターが爆裂し、そこにポールの闊達なベースが絡んでいくという超カッコ良いロックンロールがたまらない。「アンソロジー2」の “笑い転げヴァージョン” も必聴だ。⑪「ドクター・ロバート」はクールでドライなリズム・ギターのカッコ良さにシビレまくった曲で、ポールが書いたミドルの “ウェル ウェル ウェル...♪” のパートがただでさえ素晴らしいこの曲の世界を更に広げているように思う。
 ジョージの④「ラヴ・トゥ・ユー」はシタールまみれで正直ツライもんがある。そもそもシタールなんてもんは「ノーウェジアン・ウッド」やストーンズの「ペイント・イット・ブラック」のようにスパイスとして使って初めて活きてくるのであって、インド音楽の楽器を西洋音楽のロックでいきなり全面フィーチャーしようなんて土台無理な話。まぁそれでも何とか聴けるものになっているというのが逆にビートルズの凄さなんだろうが、もろインド音楽はちょっと堪忍してほしい(>_<) それとは対照的にシタールのシの字もない⑫「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」はいかにもジョージらしい佳曲で、91年のクラプトン入り「ライヴ・イン・ジャパン」の1曲目でこの曲のイントロが聞こえてきた時はゾクゾクしたものだ。
 クオリティーの高い楽曲群に様々なアイデアが詰め込まれ、徹底的に作り込まれたこのアルバムは、ロック歴史において彼らが前人未到の新たな次元に突入したことを高らかに宣言した、エポックメイキングな大傑作だ。

Tomorrow Never Knows [Alternate Mono Mix]

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