shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Wild Life / Wings

2009-09-02 | Paul McCartney
 ポールの全アルバム中、最も聴きまくったのは 2nd アルバムの「ラム」である。1st アルバム「マッカートニー」は噛めば噛むほど味が出るスルメ盤だったが、「ラム」は王道を行く捨て曲ナシの大名盤、王者のカムバック宣言として満天下にポール健在を知らしめるポップス玉手箱のようなアルバムだった。すっかり調子を取り戻したポールが次に考えたのがライブへの復帰、つまりパーマネントなグループの結成である。そしてリハーサルもそこそこにスタジオに入ったウイングスがわずか3日間でレコーディングしたのがこの「ワイルド・ライフ」だった。しかしやっつけ仕事的な感は否めず、アルバム発表当時はボロクソに叩かれたらしい。
 私がこのアルバムを買ったのは昨日も書いたようにウイングスの全盛期諸作や「ラム」を聴いた後だったので、その落差は大きなショックだった。私は筋金入りのビートルズ・ファン、ポール・ファンを自認しているので、それだけに彼に対する要求度は厳しく、高い。まず天下のポールに失敗は許されない。出す作品すべてが傑作でなければならない。常にハイ・テンション、ハイ・クオリティーを維持し、他のアーティストが逆立ちしても作れないような泣く子も黙る名曲をガンガン出し続けなければならない。そういうわけで、このアルバムは確かにシングルが1曲も入ってないというハンデはあったが、それ以上にポールらしい弾けるような魅力に溢れる楽曲 – 「レディ・マドンナ」や「バック・イン・ザ・USSR」、「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」みたいなキャッチーな曲 – に乏しく、ポールが結成したバンドとしてビートルズや全盛期ウイングス的な音を期待した私の耳にはあまりにも薄味・地味に響いて、その第一印象はスカスカ・サウンドにコケまくった「マッカートニー」よりも更に悪かった。これに関してはポール本人を始め、リンダやデニー・レインまでもが “少しも自慢できる内容じゃない(>_<)” と言っているし、全盛期のウイングスのライヴにおいて1曲もレパートリーに入らなかったことでも一目瞭然だ。
 ということで70年代ポール盤の中では一番聴いてなかった「ワイルド・ライフ」なのだが、何年か前、ふと気が向いて聴いてみるとこれが結構イケるのだ。確かに他のアルバムのような派手さはないが、これはこれでアリやなぁ...と思えるのである。このアルバムはLPでA面にあたる①~④がリズミカルなナンバー、B面にあたる⑤~⑧がポールらしいリリカルなナンバーという構成で、私にはやはりA面が面白い。特に気に入ってるのが①「マンボ」で、リズミカルでパーカッシヴなバックの演奏に乗ってハジケまくるポールがごっつうエエ感じなのだ。何でこの良さがワカランかったんやろ?と、我ながら情けない限りだが、とにかくこの曲はクセになる。良い意味でのラフな味わいがたまらない。
 ミディアム・テンポでシンプルなメロディー・ラインの②「ビップ・ボップ」はどことなく50年代の雰囲気を持ったナンバーで、ポールによると “何となく出来たリズムを曲にした” とのこと。エフェクトをかけたようなポールの声が面白い。③「ラヴ・イズ・ストレンジ」はロックのスタンダードをカヴァーしたものらしいがオリジナルは聴いたこともない。そんなことよりもこのファンキーなレゲエ風のリズムはトーキング・ヘッズの「ジス・マスト・ビー・ザ・プレイス」の10年先を行くカリビアン・フレイヴァー溢れる佳曲だと思う。まぁ、今だから言えることだが、さすがはポールと言わざるを得ない。④「ワイルド・ライフ」は①と並んで私が気に入っているナンバーで、「ビウェア・マイ・ラヴ」に「レッティング・ゴー」を混ぜ合わせ「レット・ミー・ロール・イット」でグツグツ煮込んだような(←何じゃそりゃ?)ブルージーな雰囲気がたまらない(≧▽≦) ポール入魂のヴォーカルがたっぷりと味わえるのも嬉しい。
 B面の⑤「サム・ピープル・ネヴァー・ノウ」、⑥「アイ・アム・ユア・シンガー」はメロディーが薄味すぎて私にはイマイチ。どちらかというとメロディーよりもリンダへの愛を綴った歌詞を聴かせるための曲のように思える。⑦「トゥモロウ」はB面では一番好きな曲で、リズミカルなピアノのイントロといい、いかにもポールな曲想といい、鉄壁を誇るリンダとデニーのバック・コーラスといい、実にウイングスらしい1曲だと思う。何でも「イエスタデイ」のコード進行を利用しているらしいが(だからタイトルが「トゥモロウ」なんか?)、私には “コード進行” などという難しい専門用語はわからないのでノー・コメント(>_<) ⑧「ディア・フレンド」は巷の噂どおりどう聴いてもジョンへのメッセージ・ソングだろうが、この二人の関係は兄弟げんかというか、 “嫌い嫌いも好きのうち” 的なものだったのだろう。「ハウ・ドゥー・ユー・スリープ」に対して「ディア・フレンド」... お互いめっちゃ意識し合ってて微笑ましいではないか(^.^) そういえばジョンが “ポールの悪口を言っていいのは俺だけだ。他のヤツが言うのは許さない。” と言ったとどこかで読んだことがあるが、行間からジョンなりのポールへの愛情が滲み出ているのが感じられて何かめっちゃ嬉しかった。
 このアルバムは「マッカートニー」の時と同様に洗練されたビートルズ的なサウンドを期待すると思いっ切り肩透かしを食うが、当時の等身大のポールがそのまま出た佳作として楽しめる1枚だろう。世評で言われているような駄作では決してないと思う。

Paul McCartney & Wings - Mumbo.