shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Back To The Egg / Wings

2009-09-09 | Paul McCartney
 1979年当時の音楽シーンは、イギリスではニュー・ウエイヴの嵐が吹き荒れ、アメリカでは国全体がバカになったのかと思うぐらい軽薄ディスコ・ミュージックが全盛を誇っていた。そんな中、前作「ロンドン・タウン」で3人になってしまったポール&ウイングスは新たにギタリストとドラマーを迎え、ニュー・アルバムの先行シングル「グッドナイト・トゥナイト」をリリースした。そのサウンドはディスコ・ミュージックをポール流に解釈したもので、この曲を初めてラジオで聞いた時は “何で???” と思うぐらいビックリした。しかしダンサブルなコーティングを施しながらもそのコアにあったのはまぎれもないポールなメロディー横溢のマッカートニー・ミュージックで、凡百のアホバカ・ディスコ・ミュージックとは激しく一線を画していた。
 そしてついに新生ウイングスのニュー・アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」が発表された。タイトルは “原点に帰ろう” という意味ではないかと言われたが、確かにそのサウンドはタイトでソリッドなロック色の強いもので、ロックなポールが大好きな私にとってこのアルバムはポールのソロ作品中、「ラム」と「バンド・オン・ザ・ラン」に次ぐウルトラ愛聴盤なのだ。
 アルバムはラジオ放送の受信音にインストルメンタル・ビートが重ねられた①「レセプション」で幕を開ける。ラジオの受信と新生ウイングスを歓迎するレセプションとのダブル・ミーニング?このアルバムからの 1st シングル②「ゲッティング・クローサー」はワクワクするような曲想の高揚感溢れるロックンロールで、何度聴いても心がウキウキするノリの良さだ。初めて聴いた時からこの曲にはシビレまくったが、全米チャートで 20位止まりだったのにはビックリ。当時のチャートはドナ・サマーやアニタ・ワード、ヴィレッジ・ピープルにアース・ウインド&ファイアーといった金太郎飴ディスコの寡占状態で、こんなカッコ良いロックンロールが不発に終わったのを見て私は “全米チャートは終わっとる!” と確信した。
 ③「ウィーアー・オープン・トゥナイト」は前作の「アイム・キャリイング」の路線を踏襲したアコースティック・ギターによる小品といった感じのナンバーで、アルバムのラス前⑬の中でこの曲のテーマ・メロディーが再登場する。 “This is it!” というポールの掛け声で始まる④「スピン・イット・オン」はパンク/ニュー・ウエイヴを意識したようなラフでエッジの効いたハイスピード・ロックンロールで、これまた私の大好きな曲。この疾走感がたまらんなぁ... (≧▽≦)
 ⑤「アゲイン・アンド・アゲイン・アンド・アゲイン」はデニーの作品でヴォーカルもデニーなのだが、ほのぼのとしたサウンドがこのアルバムの流れの中にピタリとハマッていて中々エエ感じだ。⑥「オールド・サイアム・サー」はキーボードが奏でるサビのメロディーが耳に残るミディアム調のタイトなロック・ナンバーで、ハイ・テンションなポールのヴォーカルがたまらない。どことなくオリエンタルな雰囲気の漂う曲想もユニークだ。A面は偶数トラックにハードな曲を配しており、2曲に1曲がロックというのもこれまでのアルバムにない大きな特徴だ。この辺りにもポールのヤル気、意欲が伝わってくる。⑦「アロー・スルー・ミー」は翌年の「マッカートニーⅡ」に通じるようなシンセ・サウンドだが、いかにもポールなメロディーは健在だ。どことなく AOR な雰囲気も漂う渋いナンバーだ。
 このアルバム最大の話題がブリティッシュ・ロック界の名だたるミュージシャンから成るロック・オーケストラ、すならちロッケストラで、ピート・タウンゼント、デイヴ・ギルモア、ジョン・ボーナム、ジョン・ポール・ジョーンズ、ロニー・レイン、ゲイリー・ブルッカーといった超豪華なメンツで録音されたのが⑧「ロッケストラ・テーマ」と⑬「ソー・グラッド・トゥ・シー・ユー・ヒア」の2曲だった。⑧は単調なメロディーを繰り返すインストものながらその迫力は凄まじいものがあるし、⑬は疾走系のハードなロックンロールでポールのシャウトも気合十分、どちらのトラックもオーヴァー・ダビングなしの一発録りだ。
 ⑨「トゥ・ユー」はこれまたニュー・ウエイヴを意識したようなハードなナンバーで、ラフでドライな質感を持ったポールのヴォーカルが印象的だ。⑩「アフター・ザ・ボール~ミリオン・マイルズ」は華やかな宴の後の余韻を巧く表現したゴスペル調の前半と、アコーディオンをバックにしみじみと歌う後半を上手く繋げたスローなメドレー。⑪「ウインター・ローズ~ラヴ・アウェイク」もやはりメドレーで、文字通り厳しい冬のイメージを持った前半のパートから穏やかな春の到来のような後半のパートへと続くメロディーの美しさはポールならではだ。
 ⑫「ザ・ブロードキャスト」はピアノとメロトロンの演奏をバックにした詩の朗読で、このアルバムが①で始まるラジオ放送仕立てだったことを思い出させる。私は何故かサイモン&ガーファンクルの「7時のニュース/きよしこの夜」を思い出してしまった。ハードな⑬を挟んでアルバムのラストを飾るのはジャジーな雰囲気横溢の⑭「ベイビーズ・リクエスト」。これ、めちゃくちゃ渋くてカッコイイ!!! ポールの頭の中にあったのはマンハッタン・トランスファーの「ジャヴァ・ジャイヴ」ではないか。洗練された大人の味わいが素敵な余韻を残してこの名盤を締めくくっている。
 このように内容的には並々ならぬ意欲を持って仕上げたポール渾身の一撃とも言える傑作アルバムだったのだがセールス的には今一つ振るわず(全米8位)、その後ポールはウイングスそっちのけでソロ活動に精を出すようになり、ウイングスは消滅してしまう。原点に帰っての新たなスタートとなるはずだったこのアルバムが結局ウイングスのラスト・アルバムになってしまったのは何とも皮肉な話だが、セールス云々に関係なく(...といっても軽~くミリオン・セラー!)私のようにロックなポールが好きな人には最高の1枚だと思う。

Paul McCartney & Wings - Baby's Request [1979]