shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

This Is Chris / Chris Connor

2009-05-13 | Jazz Vocal
 1950年代に活躍した女性ヴォーカリストにはスイング・ビッグ・バンド所属のバンド・シンガー出身というパターンが多いことはドリス・デイの時に書いた通りだが、女性のモダン・ジャズ・ヴォーカリストといわれる人達も、モダン・ビッグ・バンドの専属シンガーだった人が多い。ジーン・クルーパ楽団のアニタ・オデイ、スタン・ケントン楽団のジューン・クリスティ、クロード・ソーンヒル楽団のクリス・コナーなどがそうである。
 このアニタ、ジューン、クリスの3人はいずれもスタン・ケントン楽団に在籍していたことがあり、“ケントン・ガールズ”と呼ばれたりもした。彼女達にはハスキーな声質、知性を感じさせるモダンでスマートなフレージングという共通項もあったが、アニタには天性のリズム感の良さが、ジューンにはフレンドリーで気さくなキャラが、そしてクリスにはある種ドライで現代的な新しい感覚があって、そのユニークな個性で聴き手を魅了していた。
 この3人の中で私が最初にハマッたのがクリス・コナーである。彼女の一番の特徴はそのクールな歌い方にあり、その卓越したジャジーなセンスはまさに絶品だった。更に彼女が凄いのはクール&ドライな唱法の中にも非常に情感細やかに歌心を表現しているところである。50 年代半ばから60年代初頭にかけて彼女はベツレヘム、アトランティック、FMといったレーベルに多くの傑作を吹き込んでいるが、中でも三指に入る大名盤がこの「ジス・イズ・クリス」なのだ。
 この盤でまず注目すべきは都会的で洗練された知的なクールネスが売り物のコール・ポーターの曲を4曲も取り上げていることで、それが彼女の資質にぴったりマッチして実にスマートで粋な世界が展開されている。②「イッツ・オールライト・ウィズ・ミー」、⑦「アイ・コンセントレイト・オン・ユー」、⑨「フロム・ジス・モーメント・オン」、⑩「ライディン・ハイ」がそれで、ミディアムから少し速いテンポでスイングするクリスといい、名人芸と言える見事なブラッシュ・ワークを聴かせるオシー・ジョンソンといい、絶妙なバッキングを披露するJ&Kのトロンボーンといい、これ以上の名演があったら教えてほしいくらいの素晴らしい出来だ。又、あまり取り上げられることのない隠れ名曲⑧「オール・ドレスド・アップ・ウィズ・ア・ブロークン・ハート」でのゆったりしたスイング感の表出も見事という他ない。ラルフ・シャロンの“歌伴のお手本のような”ツボを心得たピアノがヒラヒラと宙を舞い、オシー・ジョンソンがここぞという所でスネアの一発をキメる。ベースのミルト・ヒントンも加えたその老練なプレイは歌伴最強トリオの名に恥じない素晴らしいものだ。
 スロー・バラッドではガーシュウィンの③「サムワン・トゥ・ワッチ・オーヴァー・ミー」が出色の出来で、歌詞に込められた切ない想いがビンビン伝わってくる名唱だ。“クリス節”と表現するしかない独特のフェイク唱法が聴ける⑥「ザ・スリル・イズ・ゴーン」ではファースト・ヴァースからセカンド・ヴァースに移る1分15秒あたりのピアノとブラッシュの絡みに背筋がゾクゾクしてしまう。まさに“歌良し・演奏良し・選曲良し”と三拍子そろった、クールで粋でスインギーなジャズ・ヴォーカル・アルバムの金字塔と言っていい1枚だ。

All about Ronny - Chris Connor