shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

OLIVE / 松任谷由実

2009-05-17 | J-Rock/Pop
 私はユーミンが好きでCDも結構持っている。さっき数えてみたら20枚近くあった。常日頃からノリノリのロックンロールとスインギーなフォービート・ジャズを愛好する私を知る人達は皆、それを聞くと「何で?」と怪訝そうな顔をする。もっとヒドイ時なんか「全然似合わへんわ!」と言われたこともあった(笑) ハイハイ、どーせ私はお洒落なユーミンの世界とは程遠い顔してますよ!そう、ユーミンの世界はお洒落なんである。
 私が抱くイメージは、ちょうどバブルの頃のトレンディー・ドラマの主人公たちが体現していたような、生活臭を感じさせないライフスタイル。青山や麻布のキレイなマンションに住み、お昼はイタメシで夜はカフェバー、胸ときめく出会いが毎日あってみんながみんな恋してるような(笑)、そんな感じなのだ。彼ら彼女らは恋に悩むことはあっても決して仕事上のストレスや生活費のやりくりで悩むことはない。何と言っても中央フリーウェイである。 “二人して流星になったみたい... まるで滑走路 夜空に続く~♪”... 狭い奈良にはそんな道あらへんし、ドライヴに出かけても西名阪のオービスに捉えられて罰金減点を食らった苦い思い出しかない私には遠い世界の夢物語だった。しかしだからこそというべきか、彼女の歌に強烈に魅かれたのだと思うし、70年代後半から80年代を通してずーっとそんな世界を歌い続けてきた彼女は、ある意味、時代を先取りしていたと言っていいだろう。
 そんな彼女のアルバムの中でも愛聴曲含有率がダントツに高いのが、「SURF & SNOW」とこの「OLIVE」で、2枚とも盤が擦り切れるくらい聴いたものだった。オモテの名曲が多い「サーフ...」に対し、「オリーヴ」はいわゆる隠れ名曲が満載だ。
 まず①「未来は霧の中に」では東京オリンピックやアポロの月着陸といった “科学も夢を見てた~♪” 60年代をリアルタイムで体験した彼女の少女時代の記憶がモノの見事に3分間ポップスという形に昇華されている。このアルバムがリリースされた1979年の時点でこんな歌詞を書き、客観的に歌える人は彼女をおいて他にいなかったように思う。バックのギターはビートルズ「オー・ダーリン」へのオマージュか。一途な恋心を歌った②「青いエアメイル」に続く、レゲエっぽい軽快なリズムでカムフラージュされた③「ツバメのように」は飛び降り自殺した女性について唄ったもので、そのシュールな情景描写には背筋が凍りつく。彼女をただの “お洒落な歌を歌うJ-Popシンガー” と思っていると大やけどをしてしまうだろう。ユーミン屈指の隠れ名曲④「最後の春休み」は誰にでも経験のある思春期特有の甘酸っぱい想いを見事に表現した歌詞が圧倒的に素晴らしい。 “たまに電車で目と目があっても もう制服じゃない~♪” なんて絶対に彼女にしか書けない歌詞だ。アン・ルイスが歌った⑤「甘い予感」はその軽快でポップな曲調と共に “カーラジオ~ 流れてくるのはぁ~ ビーチボーイズ~♪” というフレーズがたまらない愛聴曲。バックの演奏(特にドラムス!)もめっちゃ巧いなぁ... (≧▽≦)
 ⑥「帰愁」は後の「輪舞曲(ロンド)」を始めとするエスニック路線への伏線となるようなフォルクローレ調歌謡ポップスで、その哀愁舞い散るサウンドは当時高校生だった私には衝撃的だった。今の耳で聴いても圧倒的に、超越的に素晴らしい1曲だ。⑦「冷たい雨」はバンバンの「いちご白書」のB面に入ってた曲でハイファイセットなんかも歌っていた記憶があるが、ここでは作者としてセルフ・カヴァー、私はこのユーミン・ヴァージョンが一番好きだ。 “彼女の名前教えないでね 恨む相手はあなただけでいい~♪” なんてサラッと歌ってしまうところに逆に凄味を感じてしまう。⑧「風の中の栗毛」はいかにもユーミンといった感じの “ユーミンらしさ横溢曲” だが、彼女ならこれくらいの曲は30分ぐらいでササッと書き上げられそうだ。山下達郎のバック・コーラスが絶品の⑨「稲妻の少女」、このアルバムを買った当時はこの曲が一番好きで、特にサーファーの女の子を描写した “しーろいしぶきが 帽子なら あの娘は手品で飛び出す銀鳩~♪” というフレーズはいつ聴いても新鮮に響く。その発想の斬新さと表現力の豊かさは日本随一といっていいだろう。
 今回久々にユーミンを一気聴きしてみて、当時は気付かなかった歌詞の微妙なニュアンスや独創的なフレーズに改めて感じ入った次第だ。彼女が「あの日に帰りたい」でシーンに登場してきた時に盛んに使われた “ニュー・ミュージック” という言葉の意味が当時はよく分からず “フォーク・ソングとどこが違うねん?” と思っていたが、時代の先を行く “時をかける少女” ユーミンの音楽は、ノスタルジーの中でしか聴けないフォーク・ソングとは違い、何十年経っても風化することのない “新しい音楽” だったのだ。

帰愁 松任谷由実
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