shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Sessions Acoustiques / Sylvie Vartan

2009-05-28 | European Pops
 全盛期の歌なり演奏なりを何十年もたってから再演したものにはどちらかというとトホホな、いわゆる “やめときゃあよかったのにねぇ盤” が多い。特に女性ヴォーカルの世界では瑞々しさや勢いに溢れた若い頃の歌声に勝るものはなく、過去の “最も輝いていた自分” と同じ土俵でまともに勝負して勝てる可能性は極端に低い。そんな “再演物” の中で例外的な素晴らしさ、それも圧倒的な素晴らしさを誇る超愛聴盤がシルヴィ・バルタンの「アイドルを探せ~フレンチ・アコースティック」(94年)である。
 私がよく聴くシルヴィはアルバムで言うと「哀しみのシンフォニー」入りのイタリア盤「イレジスティビルメンテ(←読み方これであってるのかな?)」(75年)ぐらいまでで、それ以降の “ケバい化粧で踊り狂うダンシング・ディーヴァ” キャラ、いわゆるフレンチ・ディスコ・クイーンとしての彼女には全く興味を持てなかった。ディスコ云々の音楽スタイルは抜きにしても、楽曲のクオリティーがそれまでのものとは比べ物にならないくらいダウンしており、私は「シルヴィは60年代から70年代初めまででエエわ」とタカをくくっていた。そんな折、偶然ネットでこのCDの存在を知り、 “50才になったシルヴィが往年のヒット曲をアコースティック・ヴァージョンで聴かせる” という企画に興味を引かれたのと選曲の良さ、それに中古で1,200円という安さに釣られてあまり期待せずに購入した。
 届いたCDの①「悲しき慕情」を聴いて私は驚いた。こういうのを円熟味というのだろう、それまで自分が歩んできた波瀾万丈の人生を振り返るかのように、実にゆったりと歌うシルヴィ。ニール・セダカが歌い、カーペンターズもカヴァーしたオールディーズ・クラシックスが品格滴り落ちるスタンダード・ソングに変身していた。ひょっとするとコレは掘り出し物かも?と色めき立って②「おセンチな17才」を聴く。ヨーロピアン・デルタ・ブルース(笑)といっていいようなネチこいアコギの伴奏とアンニュイな雰囲気を振りまくシルヴィのヴォーカルが絶妙な調和を見せ、30年前のオリジナルを芸術的に、圧倒的に、超越的に凌駕している。ビーチ・ボーイズ屈指の名曲をカヴァーした③「スループ・ジョンB」は曲の髄を見事に引き出したアレンジが素晴らしく、シルヴィとバック・コーラスの軽妙なコール&レスポンスに目が眩む。シルヴィのというよりイエイエの代表的名曲④「アイドルを探せ」は格調高いギターのイントロに???と思っているといきなり耳に馴染んだあのメロディーをシルヴィが一語一語じっくりと歌詞をかみしめながら歌い綴っていく。これがもう鳥肌モノで、聴き手を優しく包み込むようなストリングスも心の琴線をビンビン刺激する。カスケーズの⑤「悲しき雨音」でもレイドバックした雰囲気にフランス語がバッチリ合っていて、実にオシャレなヨーロピアン・ポップスになっている。
 YMOの「タイトゥン・アップ」みたいなハイテク・ベースが耳に残る⑧「愛とあわれみ」、シルヴィが力強いヴォーカルを聴かせるブルージーなロック⑨「裏切らないワ」、ブルーグラスの薫りを撒き散らしながら軽快に飛ばす⑩「オー・プリティ・ウーマン」、ゴージャスなフレンチ・ポップ⑪「太陽に向かって」と、様々なタイプの曲をこなす懐の深さを見せつけるシルヴィは貫録十分だ。
 ノリノリのアコギ・カッティングに被さるようなシルヴィの語りにゾクゾクするイントロから一気呵成に駆け抜ける⑫「カミン・ホーム・ベイビー」はベン・タッカーも泣いて喜ぶカッコよさ!故郷ブルガリアに対する想いを綴った彼女のパーソナル・ソング⑬「思い出のマリッツァ」では郷愁を誘うアコーディオンの音色が効果抜群だが、何と言っても万感胸に迫るような切々としたヴォーカルが圧巻だ。唯一のライブ録音⑮「テンダー・イヤーズ」は6万人の観衆を前にしてアカペラで歌ったもので、彼女がこのアルバムを作るきっかけとなった感動的なナンバーだ。
 これは当時流行りのアンプラグド・ライブとは激しく一線を画すもので、私は彼女のヴォーカリストとしての器の大きさを改めて実感させられた。キャッチーでポップなイエイエ・クラシックスを粋なスタンダード・ソングへと昇華させたこのアルバム、静かな夜に独りゆったりと聴きたい1枚だ。

SYLVIE VARTAN LA PLUS BELLE POUR ALLER DANSER ROUMANIE

この記事についてブログを書く
« Ukuyeye / Mareva | トップ | L\'integrale Sixties / Anni... »