shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

This Time / Culture Club

2009-05-18 | Rock & Pops (80's)
 80'sポップスの洗礼を受けた者にとって、その好き嫌いは別にして、カルチャー・クラブほどインパクトの強いグループはなかったのではないだろうか?その音楽はもちろんだが、何と言ってもヴォーカルのボーイ・ジョージの醸し出す中性的なムードは見る者の目を釘付けにするに十分な妖しさを湛えていた。だから彼らの成功はMTVのおかげというのもある意味真実だし、現にデュラン・デュランらと共に “第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン” の中心的存在としてアメリカで大ブレイクしたのだが、そういったヴィジュアル面ばかりに目がいってしまうと彼らの本質というか、真の魅力は見えてこない。
 私が初めて彼らの音楽を聴いたのは1983年の2月だったか、ケイシー・ケイサムのアメリカン・トップ40で流れてきた⑦「ドゥー・ユー・リアリー・ウォント・トゥ・ハート・ミー」(邦題:君は完璧さ)で、カリビアンなムード横溢のレゲエ・サウンドに乗ったボーイ・ジョージの歌声を聴いて “またイギリスからハイセンスなグループが出てきたなぁ” と感心したものだった。楽曲の完成度も文句なしに高く、“これは全米№1も当確やな” と思っていたら上には上がいるもので、結局マイコーの「ビリー・ジーン」の下で3週連続の2位に甘んじてしまった。
 続くシングル④「タイム」はファースト・アルバム未収録の新録音で、他の派手なシングル曲に比べるとやや地味な印象ながら、ボーイ・ジョージの翳りのあるヴォーカルが楽曲に微妙な陰影を与えていて、私は非常によく出来た良い曲だと思う。ただ不幸なことにこの曲もアイリーン・キャラの「フラッシュダンス」に阻まれ、2週連続の2位に留まってしまった。偶然とはいえ、その年を代表する2大ウルトラ・メガ・ヒットとチャートのピークが被ってしまうとはツイてないなぁと気の毒に思ったものだった。
 しかし更にパワーアップた彼らはその年の暮れにセカンド・アルバム「カラー・バイ・ナンバーズ」をリリース、前作よりも楽曲のクオリティーが格段に向上しており、80'sポップス史に残る傑作アルバムと言えた。“カ~マカマカマ...♪” で全米全英共に№1に輝いた①「カーマは気まぐれ」は、ちょうど1年前にホール&オーツが「マンイーター」で実践して見せたように、モータウン・サウンドのエッセンスを巧く取り入れながら洗練された80'sポップスに仕上げるという、いわゆる “ホワイト・ソウル・ヒット曲製造の方程式” に則った、絵に描いたような大名曲だ。
 アルバムからのセカンド・シングル③「ミス・ミー・ブラインド」は軽快なテンポが心地良いダンサブルなポップ・チューンで、ボーイ・ジョージの滑らかなヴォーカルといい、シックのナイル・ロジャースみたいなリズム・カッティングがかっこ良いロイ・ヘイのギターといい、全米5位にまで上がったのも当然と言える魅力的な1曲だ。尚、このCDではこの曲と次曲④「タイム」が間を開けずに収録されていて独特の緊張感を生み出すのに成功しており、ベスト・アルバムといえどもアルバム全体の流れに気を配っているのがわかる。
 しかし彼らの快進撃もここまでだった。サード・アルバムからの第1弾シングルが⑪「ザ・ウォー・ソング」、例の “センソー ハンタァ~イ♪” と声高に歌う反戦ソングである。前作の大ヒットでのぼせあがり、調子こいて “ついついやってもうた” のかどうかは知らないが、彼らはアメリカのポップスの世界で最もやってはイケナイこと、つまり歌の世界に露骨に政治を持ち込むという致命的なミスを犯してしまったのだ。この曲を含むサード・アルバム「ウェイキング・アップ・ウィズ・ザ・ハウス・オン・ファイア」も魅力的な曲に乏しく、彼らは完全に失速してしまった。
 一旦落ち目になると余程のことがない限り再浮上は難しいのがポップス界の現実だ。86年にリリースされた⑧「ムーヴ・アウェイ」は「カーマ」時代に立ち返ったかのようなキャッチーなメロディーとホワイト・ファンクとでもいうべきノリの良さが絶品で私は大好きだったのだが、チャート上は失地回復には至らず、しかもボーイ・ジョージのドラッグ・スキャンダルによってバンドは活動停止を余儀なくされてしまった。最近も麻薬所持やら男性監禁暴行(!)やらでシャバと別荘を行き来しているボーイ・ジョージ(しかし懲りひん奴やなぁ...何回捕まったら気ぃ済むねん!)だが、全盛期を知る者としてはそんなニュースを見るたびに淋しく思ってしまう。
 このアルバムには最も80'sらしかったバンドの、最もキラキラと煌いた4年間の歩みがしっかりと刻まれている。ヴィジュアル抜きで十分楽しめるそのサウンドはエヴァーグリーンな80'sポップスそのものなのだ。