shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

L'integrale Sixties / Annie Philippe

2009-05-29 | European Pops
 今、私は第2次イエイエ・ブームの真っ最中である。5年ぐらい前にフランス・ギャルを初めて聴いて感動し、そこから様々なイエイエ・シンガーを聴き漁っていったのが第1次。イエイエの持つ底抜けの楽しさに目覚めた私がギャルのシングル、アルバムをほぼ聴きつくし、次は誰をいったろかとイエイエ・シンガーについて色々調べてみたところ、アニー・フィリップがフランス・ギャルを頂点とする “ロリータ派” の一人としてシャンタル・ゴヤと並んで紹介されており、フランス・ギャルが好きならこの二人もきっと気に入るはずと書かれてあったのだ。フレンチやイタリアン・ポップスはギャルやバルタンのような超有名シンガー以外は中々試聴できるサイトがなく、ネットの文字情報だけを頼りに音を聴かずに一か八か勝負するいわゆる “見ずテン買い” を余儀なくされたCDも少なくないが、そんな中で予想を超える素晴らしさだったのがこのアニー・フィリップのベスト盤2枚組CD「コンプリート・シックスティーズ」である。
 当時のフレンチ・ポップス界は4曲入りEPを中心に動いていたようで、彼女に限らずオリジナルLPなんてレア中のレアという状況、しかも楽曲の漏れ落ちも多くなるということで、このCDでは彼女の12枚出たEPを年代順にコンプリート収録するという画期的な方法でのリイシューとなっている。同じ音源をたらい回しに切り売りしながら初出音源を小出しにしていく日本のレコード会社にも、このようにファンの視点に立った潔い発想をぜひ学んでほしい。
 彼女はポール・モーリアに見出され、64年にルルの「ヒー・ドント・ウォント・ユア・ラヴ・エニモア」のフレンチ・カヴァー①「何と言われても」でデビュー。確かに少し鼻にかかったような声質といい、舌っ足らずな歌い方といい、フランス・ギャルを少しアク抜き(?)したような感じである。しかしプレスリーの「ラヴ・ミー・テンダー」のカヴァー②「川辺のバラ」のようなバラッドではギャルっぽさはあまり感じられない。デイヴ・ベイビー・コーデッツみたいなハッピー・オルガンが大活躍する④「歌って踊って」は心がウキウキ弾むようなナンバーで初期の傑作だと思う。スプリームズのカヴァー⑤「ベイビー・ラヴ」はハンド・クラッピングに至るまでオリジナルに忠実されているのが嬉しい。フランス・ギャル色が濃厚なアイドル系ポップス⑥「落第しちゃった」やシャンタル・ゴヤあたりが歌いそうなメランコリックなバラッド⑦「サン=トロペでさようなら」に対し、⑧「明日まで待てない」や⑨「悲しい気持ち」ではアニーらしさ溢れるパンチの効いたヴォーカルが炸裂!徐々にオリジナリティーが確立されつつあるのが分かる。⑪「兵隊さんの太鼓」はこれぞイエイエ!といいたくなるようなナンセンスな擬音語 “ヤンバンババダバ ダバダンバン♪” の繰り返しが楽しい(^o^)丿 彼女再大のヒット曲⑬「片道切符と乗車券」は哀愁舞い散るハーモニカとアニーの一人二重唱が印象的だ。
 レーベルをフィリップスに移籍してすぐの大ヒット⑰「わたしの友達」は名曲の殿堂入りを推挙したくなるような涙ちょちょぎれるキラー・チューン。このしっとり感、たまりません(≧▽≦)  古き良きデキシーランド・ジャズっぽい伴奏が楽しい⑱「勝手におしゃべり」でも彼女の力強いヴォーカルが冴え渡る。これ大好き(^.^) イントロのリズム・ギターが快感の⑲「誰がため、何のため」は哀愁のメロディーが耳に焼き付いて離れない名曲。アニーはこの頃が楽曲的に一番充実していたように思う。⑳「チャカブン」はギャグとしか思えないようなオモロイ曲で、ひたすら“ブン チャカブン チャカブン チャカチャカチャカブン♪” とチャントする。何なん、これ?(笑) めっちゃカッコ良いファズ・ギターのイントロから始まる(21)「モードな毎日」は “これぞ60's!” と叫びたくなるキッチュなサウンドの波状攻撃が圧巻で、(26)「タクシー急いで」と共にフレンチ・ポップス・ファンだけでなくネオアコ・ファンにも強烈にアピールしそうなナンバーだ。
 ディスク2ではママス&パパスのカヴァーで爽快感溢れる①「どこへでも行くがいいわ」、ストリングス・アレンジでよりポップな味付けに成功した②「タクシー急いで」(シングル・ヴァージョン)、絵に描いたようなイエイエ・バラッドの傑作③「哀しみのマネキン」を最後に楽曲のパワー・ダウンが顕著になる。67年と言えばまさに「サージェント・ペパーズ」の時代... やがてイエイエの衰退とともにアニーも表舞台から姿を消してしまった。思えば世界のミュージック・シーンが物凄いスピードで変化し、混沌の中からニュー・ロックが生まれつつあった時、フランスだけいつまでもノーテンキにイエイエを踊っているわけにもいかなくなったのだろう。

Annie Philippe - Le mannequin