shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Van Halen I

2009-03-16 | Hard Rock
 フォリナーのヒット曲に「衝撃のファースト・タイム」というのがあるが、ヴァン・ヘイレンのデビュー盤は当時高校生だった私にとってまさに「衝撃のファースト・アルバム」だった。とにかくそれまでリアルタイムで聴いてきたハードロック・ギターの概念を根底から覆すようなスリリングなプレイに完全KOされたのだ。味・クセ・ニュアンスといった個人的魅力で聴かせる他のギタリストたちとは違い、エディー・ヴァン・ヘイレンのギターというのはフレーズに情緒を絡ませないので、よくある「泣きのギター」に慣れた耳にはとりわけ衝撃的だった。その乾いた音色はまるでギターだけがそこで鳴っているかのような錯覚を覚えるほどで、まるでロック・ギターの究極奥義、無より転じて生を拾う“無想転生”の如き凄まじさ。しかも超高速でガンガン弾きまくりながらも一つ一つのフレーズがメロディアスでちゃーんと曲の一部になっており、他に類を見ないリフやバッキングで卓越したメロディー・センスを見せつけている。特にこのファースト・アルバムでは天才ギタリスト、エディーのキャリアの中でも最もギラギラしたアグレッシヴなプレイが聴けるのが嬉しい。
 バンド全体として見ても、どちらかというとあまり音域の広くないデイヴ・リー・ロスのヴォーカルもサウンドの中にピッタリとハマッているし、強烈なグルーヴを生み出すアレックスとマイケルのリズム隊も磐石で、若さゆえの勢いのある演奏が一発録りに近い臨場感のあるサウンドで音盤の中に封じ込められている。このアルバムはどうしても話題がエディーの神業プレイに集中してしまうが、私は楽曲の良さも重要なポイントだと思う。心に残るメロディーがあったからこそ、彼らのライブ感溢れるワイルドなプレイが活きてくるのだ。
 アルバムでは何といっても②③④⑤が曲間をほとんど空けずに圧倒的スピードで駆け抜けていくあたりが一番のハイライト。インパクト絶大なインスト・ナンバー②「エラプション」は闇を切り裂くような鋭いギター・サウンドが鳥肌モノで、右手でタッピングするいわゆるライトハンド奏法が全開だ。③「ユー・リアリー・ガット・ミー」はイントロを聴いただけで全身に電気が走り、ロックな衝動がマグマのように押し寄せる。ギターの歪み具合がこれまた最高で、キンクスのオリジナル・ヴァージョンが消し飛ぶカッコ良さだ。④「エイント・トーキン・バウト・ラヴ」はライブで大盛り上がりする曲で、イントロのギターの尖った音がたまらない。まさに絵に描いたようなハード・ロックの名曲だ。⑤「アイム・ザ・ワン」は超ハイスピード・リフを駆使して圧倒的な疾走感を生み出し、野放図にエディーがはしゃぎまくる疾風怒濤の展開が圧巻だ。
 89年のトーン・ロックの大ヒット「ワイルド・シング」の元ネタになった⑥「ジェイミーズ・クライン」に続く⑦「アトミック・パンク」はどうやって弾いてるのか想像もつかないようなスリリングなイントロからカッコ良いリフの波状攻撃で一気に駆け抜けるスピード感がたまらない(≧▽≦) ⑩「アイス・クリーム・マン」は前半の渋いアコギからエレキにスイッチして後半かっ飛ばす演出がかっちょ良く、デビュー盤にして早くも大物の風格が漂っている。
 他のヴァン・ヘイレン盤とは違い、何故かブリティッシュ・ロック特有の翳りが感じられるところもこの盤の魅力を大いに高めており、リリースから30年たった今でも色褪せないアメリカン・ロックの歴史的大名盤だ。

Eddie Van Halen - Eruption

いしだあゆみリサイタル

2009-03-15 | 昭和歌謡
 私はあゆの大ファンである。ただしあゆはあゆでも平成のあゆではない。私が好きなのは昭和のあゆ、いしだあゆみである。そもそも昭和歌謡を語る上で「いしだあゆみのブルーライト・ヨコハマ」は絶対に外せない屈指の名曲であり、その哀愁舞い散るメロディーは多くの日本人の心を捉え、老若男女を問わず誰もが口ずさむ“国民的流行歌”になった。ファースト・フード感覚で気軽に音楽を聴ける今と違い、レコードがまだ貴重品だった69年という時代に100万枚を売り上げたというのだから、その凄さがわかろうというものだ。
 そんな彼女の一番の魅力は“あゆみ節”と呼ばれるゆる~いヴォーカルにあり、聴く者をゆったりした気分にさせてくれる。昨年私が本格的に昭和歌謡にハマッた頃、友人の901さんとの「ザ・ピーナッツのボサノバ」を巡るやりとりは以前お話ししたが、その時「ザ・ピーナッツ以外にも昭和歌謡でボサノバやってた歌手いてへんかなぁ...」という話題になり、その時いみじくも「いしだあゆみなんかボサノバやってそうな気がするなぁ... あのゆるい歌い方は絶対にボッサに向いてるでぇ(^o^)丿」と仰ったのを聞いてネット検索で調べてみると、何と本当にあったのだ。改めて901さんの慧眼には平伏するしかない。アルバム・タイトルは「いしだあゆみリサイタル ~My First Recital~」で、バックを務めるのは原信夫とシャープス&フラッツ、ゲストは何とあのジャッキー吉川とブルー・コメッツだ。曲目を見るとカヴァー曲が数多く取り上げられており、「男と女」や「黒いオルフェ」、それに何と西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」までやっているのだ... これは聴きたい!何としても聴きたい!! 天地が逆になっても聴きたい!!! しかし未CD化なのでヤフオクでLPを狙うしかない。彼女のような人気歌手のLPは状態の良い盤を探すのが至難の業で、3度目のトライでようやくピカピカ盤を手に入れた。
 真っ先に針を落としたのはA面の④「男と女」で、そこから⑤「黒いオルフェ」、⑥「白い恋人たち」、⑦「いそしぎ」、⑧「シェルブールの雨傘」へとボッサ・アレンジを施されたカヴァー曲が続く。癒し効果抜群の彼女のしっとりした歌声はボッサの名曲たちとピッタリ合っていて、こちらの期待通りのアンニュイな雰囲気を醸し出している。特に「黒いオルフェ」なんかもう絶妙な脱力ぐあいで、例のイザベル・オーブレのフレンチ・ボッサに迫る名演だと思うし、「いそしぎ」での消え入るようなヴォーカルで儚さを見事に表現しているところも特筆モノだ。すっかりフレンチ・ボッサ気分に浸ったところでA面アタマの①「ブルーライト・ヨコハマ」や②「明日より永遠に」、③「涙の中を歩いてる」といった彼女のヒット曲を聴く。歌謡曲というジャンルは今やもう消滅したに等しいが、改めて聴いてみると実によく出来た曲が多い。この素晴らしさが分かる日本人に生まれて本当によかったなぁと思う。
 B面最初の2曲①「スカボロー・フェア」と②「アクエリアス」はブル・コメとの共演で、①では最初のうちこそ大人しくスローで歌っているものの曲のテンポが速くなる1分20秒あたりからノッてきてそのまま間髪入れず②へとなだれ込む。哀愁舞い散るフルートをバックにスインギーに歌うあゆのカッコ良さ!佐川満男とのデュエット③「或る日突然」に続いて④「アカシアの雨がやむとき」のイントロが流れてくるだけで万感胸に迫るモノがあるが、あゆの歌声はもう背筋がゾクゾクするほど素晴らしい。筒美メロディーを凝縮したようなGS歌謡のキラー・チューン⑥「太陽は泣いている」、少し愁いを帯びたあゆみ節が炸裂する⑦「喧嘩のあとでくちづけを」、典型的な歌謡曲⑧「今日からあなたと」と、コンサートの後半部を怒涛のオリジナル攻撃で盛り上げるという流れも単純明快だ。
 ファースト・ライブの緊張感やアット・ホームな雰囲気がよく伝わってくるこのアルバム、キュートなジャケットも含めて私の愛蔵する1枚だ。

Ishida Ayumi - bluelight yokohama

True Blue / Madonna

2009-03-14 | Rock & Pops (80's)
 80年代で最多のヒット曲を持っているのはマドンナである。巻き起こしたブームのスケールのデカさや瞬間風速では圧倒的にマイケル・ジャクソンだろうが、10年間で6枚のアルバムと23曲のトップ20ヒットを放ったマドンナの創作パワーにはさすがのマイケルも敵わない。ましてや彼女は80’sアーティストとして21世紀に入った今もなお第一線でバリバリ活躍している数少ない存在なのだ。そういう意味でも80年代以降の他のアーティスト達を凌駕していると思う。
 初めて彼女を聴いたのは84年の2月に「ホリデイ」がチャートに入ってきた時で、ちょうど第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン真っ盛り、そんな中で「ホリデイ」のキャッチーなメロディーと弾けるようなリズムは私に強烈なインパクトを残した。TVで見たその激しく歌い踊る姿はトニー・ベイジルを思い起こさせ、キワモノ的な雰囲気が濃厚に立ち込めていた。しかし続いてリリースされた「ボーダーライン」はデジタル・ビートを基調としながらもただのダンス・ミュージックに終始することなくじっくり聴くに値する佳曲に仕上がっており「もしやコレは...大化けするかも...」という期待を抱かせた。
 秋に「ラッキー・スター」がトップ5入りし、いよいよセカンド・アルバムへのお膳立てが整ったところへドッカとやってきたのがご存知「ライク・ア・ヴァージン」である。マドンナの名を世界中に知らしめたこの曲は6週連続全米№1という記録以上に人々の脳裏に深く刻み込まれ、同名のセカンド・アルバムと共に記憶に残る大ヒットとなった。時代の寵児となった彼女はヒット曲を連発、特に「クレイジー・フォー・ユー」はあの「ウィー・アー・ザ・ワールド」とほぼ同時期にリリースされ3週連続2位に甘んじた後ついに「ウィー・アー・ザ・ワールド」を蹴落として1位に輝いたのだから、この時期いかにマドンナがホットな存在だったか分かろうというものだ。
 そして86年、いよいよサード・アルバム「トゥルー・ブルー」が登場する。私はこのアルバムこそが彼女の本当の勝負作になると思って楽しみにしていたのだが、彼女の音楽的レベルは私の予想を遥かに超えて高く、前作で確立したモンロー的イメージを巧みに中和しながら初めてのセルフ・プロデュースで素顔を見せたマドンナがそこにいた。ナイル・ロジャース色の強かった前作のデジタル・ビート中心の音作りからよりヒューマンで温かみのあるサウンドへの変化が見られ、“カエルの歌が聞こえてくるよ”うなストリングスのイントロから始まる①「パパ・ドント・プリーチ」でもベース・ラインを強調した骨太のサウンドが斬新だった。当時アメリカで社会問題化しつつあったティーンエイジャーの妊娠を歌った歌詞も「踊るための音楽」から「歌を聴かせる音楽」への進化を如実に示していた。
 ダンサブルでメロディアスな②「オープン・ユア・ハート」や⑤「ホェアズ・ザ・パーティー」、壮大なスケールでじっくりと歌い上げた心に染みるバラッド④「リヴ・トゥ・テル」、必殺のメロディー連発で60’sの薫り溢れる軽快なポップ曲⑥「トゥルー・ブルー」、哀愁舞い散るラテン・フレイバーに涙ちょちょぎれるキラー・チューン⑦「ラ・イスラ・ボニータ」、60'sへの憧憬を80's風サウンドで上手く表現したノリノリの⑧「ジミー・ジミー」と、絵に描いたようなポップな名曲が並ぶ。マドンナでどれか1枚と言われれば私は迷うことなく彼女がポップ・アイコンとしての頂点を極めたこのアルバムを選びたい。

13. La Isla Bonita - Who's That Girl

Acoustic Live / Joscho Stephan

2009-03-13 | Gypsy Swing
 マヌーシュ・ギタリストというのは物心ついた時からギターを手にして毎日のように一族郎党が集まって音楽を演奏していた、というケースが少なくない。そんな中から“神童”と呼ばれる子供たち、すなわち小さい頃からバカテクぶりを発揮して各地のギター・コンテスト荒らし(笑)をするジプシー・キッズが現れる。ビレリ・ラグレーン、ストーケロ・ローゼンバーグ、ジミー・ローゼンバーグらがそうである。この3人のうちビレリとストーケロはデビューしてジプシー・スイングもののCDを数枚出した後、あえて他ジャンルに挑戦し、様々なミュージシャン達との交流を通して幅広い音楽性を身につけ、再びジプシー・コミュニティーに戻ってきた。最近の彼らのアルバムを聴くと速弾き一辺倒だった若い頃に比べ、微妙なニュアンスまでしっかりと聴き手に伝える実に味わい深いプレイをしていることに気付く。一皮向けて“真に偉大なギタリスト”の仲間入りを果たしたと言えるだろう。それに引き換えジミーの方は壁にぶち当たり伸び悩んでいる。彼のCDは何枚も持っているし確かに速弾きテクニックは凄いが、どれを聴いてもみな同じでそのプレイからはハートが伝わってこない。例えるなら、ヘビメタの速弾きギタリスト達とクラプトン、ベック、ペイジといった3大ギタリストとの違いである。ただ速いだけのプレイでは感心はしても感動はしない。
 ここにヨショ・ステファンというドイツ出身の若手マヌーシュ・ギタリストがいる。デビュー当初から超絶テクで一部のマニアの間で話題になっていた人である。その演奏スタイルはデビュー作でほぼ完成されており、とにかくスムーズでスピーディー、しかも速いだけでなくすべての音を正確にクリーンに弾きこなしている。しかしデビュー以降の3作はどれも“めちゃくちゃ上手いのは分かるけど何かが足りない”内容で、上記の“ジミー症候群”を心配していたのだが、4枚目にあたるこの「アコースティック・ライブ」ではそれまでとは一味も二味も違い、テクニックを聴かせるギタリストからテクニックで音楽を聴かせるギタリストへと見事な変貌を遂げている。
 聞くところによると彼はジプシー音楽以外にもチェット・アトキンス、カルロス・サンタナ、ジョージ・ベンソン、ウエス・モンゴメリーといったギタリストが好きで、毎年ナッシュヴィルで開催される「チェット・アトキンス・コンヴェンション」にも参加して様々なジャンルの音楽のエッセンスを吸収してきたという。その成果か、ここでは速弾き一辺倒の演奏スタイルを脱し、ギターを通して音楽する喜びが伝わってくるような血の通った演奏を存分に聴かせてくれる。
 例えばジャンゴの⑦「ヘヴィ・アーティラリー」では「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のリフをアドリブで挿入するなど遊び心溢れるプレイが楽しいし、⑭「世界は日の出を待っている」でのジェットコースターのような上昇下降を繰り返すソロなんかもう見事という他ない。ヱビス・ビールのCMでおなじみの⑰「ハリー・ライムのテーマ(第三の男)」では新境地といえる余裕溢れるプレイが聴けるし、私の大好きな⑬「ボッサ・ドラド」でもそれまでの屈託の無い陽性一筋なプレイは影を潜め、この曲の持つ哀愁をバッチリ表現している。
 下にアップしたYouTubeの超絶テクを見れば、マヌーシュ・スウィングを知らない人でも驚倒するだろう。ホンマに涼しい顔をして凄いことをやっている。そして一番の聴き所は⑯「黒い瞳」の指板上を縦横無尽に駆け巡るフィンガリングが目に見えるような壮絶なプレイだろう。ありとあらゆるテクニックを駆使し、なおかつギターで歌いまくるという至芸が圧巻だ。壁を突き破ったヨショ・ステファン... これからの成長が楽しみな逸材である。

Joscho Stephan - Bossa Dorado
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Best Of The Doobies / Doobie Brothers

2009-03-12 | Rock & Pops (70's)
 ドゥービー・ブラザーズで最初に買ったのがこの初期ベスト盤「ベスト・オブ・ザ・ドゥービーズ」である。これは私にとって幸いだった。というのはこの後、バンドのサウンドがガラリと変化し、まったく別物のバンドへと変貌してしまったからだ。もしあと2・3年ズレていたら私は見向きもしなかっただろう。
 元々彼らはベイ・エリアのサンノゼで70年に結成されたブルースやカントリーをルーツとする典型的なアメリカン・ロック・バンドで、72年に出されたセカンド・アルバム「トゥールーズ・ストリート」からシングル・カットされた④「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」が大ヒットし一気にブレイクした。トム・ジョンストンとパット・シモンズの爽快なツイン・ギターにシンプルなコーラス・ワークが絡んでいく快感がたまらない、初期ドゥービーズの魅力を凝縮したような名曲だ。他にもハイスピードで疾走する感じが圧巻な⑥「ロッキン・ダウン・ザ・ハイウェイ」やグルーヴィーな⑦「ジーザス・イズ・オールライト」など、彼らのサウンドを特徴づける音楽スタイルが一聴瞭然な名盤だ。
 完全に自らのアイデンティティーを確立した彼らが波に乗って73年にリリースしたサード・アルバム「キャプテン・アンド・ミー」にはドゥービーズの名を不動のものとした2曲が入っていた。①「チャイナ・グローヴ」と②「ロング・トレイン・ラニング」である。この2曲、どちらもその独特のギター・カッティングが生み出すファンキーなグルーヴが絶品で、私なんかイントロを聴いただけでアドレナリンが逆流し、ロックな衝動がこみ上げてくる。①のドライヴ感なんか凄まじいモノがあるし、②の間奏で聴けるハーモニカもめちゃくちゃカッコイイ。B'zの「バッド・コミュニケーション 000-18」のアーシーな演奏は間違いなくこの曲に触発されたものだと思う。とにかくどちらもアメリカン・ロックの歴史に残る屈指の名曲名演だ。
 75年には土の薫り溢れるアコースティック・ギターとアカペラ・コーラスがユニークな⑤「ブラック・ウォーター」が初の全米№1となり、続いてアルバム「スタンピード」を発表、ジェフ・バクスターの加入でトリプル・リード・ギターとなり更にパワーアップしたドゥービー・サウンドが炸裂する。特に⑩「テイク・ミー・イン・ユア・アームズ」はギター・カッティングからコーラス・ハーモニーに至るまで前期ドゥービーズの集大成的なノリノリのサウンドで、その勢いに満ちた躍動感は圧巻だ。これがあのホランド=ドジャー=ホランドの作品だと知った時はビックリしたが、リズム・パターンに注意して聴いてみるとナルホドと納得できる。
 だが私の心酔したドゥービーズはここまで。その後バンドはトム・ジョンストンの病気療養中に加入したマイケル・マクドナルド色を強め、パワフルでドライヴ感溢れる前期サウンドからメロウでオシャレなAOR的後期サウンドに変わってしまう。特に79年の「ミニット・バイ・ミニット」とそこからシングル・カットされて全米№1(しかもグラミー賞受賞ときたもんだ!)になった「ホワット・ア・フール・ビリーヴズ」なんてもう最悪で、マイケル・マクドナルドのふわふわした彷徨ヴォーカルといい、覇気の無いフュージョンちっくな腰抜けサウンドといい、何でこんな毒にも薬にもならへん味気ない音楽が売れるのかまったく理解出来なかった(>_<) このベスト盤をお持ちの方はマイケル色の強い③⑧だけが周りから浮いているのがよくお分かりいただけると思う。
 ドゥービー・ブラザーズ、その前期後期のサウンドのどちらを好むかでその人の音楽観までわかってしまうという、まるでリトマス試験紙のようなバンドである。

The Doobie Brothers Long Train Runnin' / Live at Budokan '93

Anita Sings The Most / Anita O'Day

2009-03-11 | Jazz Vocal
 「真夏の夜のジャズ」という映画がある。58年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの模様を記録したコンサート・ドキュメンタリー・フィルムで、様々なミュージシャンの貴重な映像が満載なのだが、中でも私が一番好きなのはアニタ・オデイが登場するシーンである。黒のノースリーブにつばの広い黒い帽子という全身黒ずくめのスタイルで、いかにも女ざかりという風情のアニタ姐御がクールにスイングする「スウィート・ジョージア・ブラウン」と「二人でお茶を」のカッコ良さ(≧▽≦) その声、その仕草、そのムード... そのすべてが粋なアニタのパフォーマンスは私に強烈なインパクトを残した。今でも街でつばの広い帽子をかぶったエレガントな女性(滅多にいないが...笑)を見かけると思わずハッとしてしまう。
 アニタ・オデイのキャリアは古く、40年代にはジーン・クルーパ楽団やスタン・ケントン楽団のバンド・シンガーとして脚光を浴び、50年代にはソロとしてヴァーヴ・レーベルに多数の傑作アルバムを吹き込んでいる。そんな彼女のレコードの中でもとりわけ私が好きなのがこの「アニタ・シングズ・ザ・モスト」なのだ。アニタのレコード数あれど、これほど歌心溢れる盤が他にあるだろうか?彼女をいつも以上にのせているのはジャズ・ピアノの巨匠、オスカー・ピーターソンその人である。縦横無尽にアドリブをかましながらスタンダード・ソングを歌いこなすアニタをガッチリと受け止め、得意の速弾きではなく歌伴のお手本のような絶妙なオブリガートでアニタをリードしていくあたりに彼の真価を見る思いがする。①「ス・ワンダフル~誰も奪えぬこの想い」のガーシュウィン・メドレーではアップ・テンポからスローへと見事なチェンジ・オブ・ペースをみせるアニタといい、スインギーな伴奏で彼女をしっかりと支えるピーターソン・カルテットといい、まさに“ス・ワンダフル”だ。③「オールド・デヴィル・ムーン」では一見投げやりに聞こえる彼女の歌い方が、逆にジャジーな雰囲気を醸し出しているのが凄い。ハーブ・エリスの軽快なギター・ソロも文句なし。“喉に快適ハーブ・エキス、耳に快適ハーブ・エリス”のキャッチ・コピー(?)はダテじゃない。前半のハイライトといえる④「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」ではアニタの専売特許といえる変幻自在のフェイク唱法が炸裂し、全員が一体となって駆け抜けるスピード感がたまらない。
 ミディアムでスイングする⑤「また会う日まで」に続く⑥「ステラ・バイ・スターライト」ではスローな歌い出しからミディアムへとテンポ・アップし再びスローでシメるという①とは逆パターンの構成で、アニタの堂々たる歌いっぷりにはトップ・ジャズ・ヴォーカリストとしての風格が漂う。私がこのアルバムの中で一番好きなのが⑦「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」で、ピーターソンの絶妙なバッキングに乗って軽やかにスイングするアニタの何と粋なことよ(^o^)丿 この粋がわからなければジャズ・ヴォーカルは愉しめない。素晴らしいリズム・セクションを得て自由自在に歌いまくるアニタの悦びがダイレクトに伝わってくるキラー・チューンだ。⑧「ゼム・ゼア・アイズ」でのスキャットを多用しながら疾走するアニタとスリリングなブラッシュのソロ・チェンジ、あまりにカッコ良くて息を呑む素晴らしさだ。⑩「ユー・ターンド・ザ・テーブルズ・オン・ミー」ではレイ・ブラウンの重量級ウォーキング・ベースがアニタにピッタリ寄り添い、うねるようなグルーヴを生み出している。
 このアルバムはアニタにピーターソン・カルテットという、スイングすることにかけては右に出るものがいない最強コンビが作り上げたジャズ・ヴォーカルの金字塔なのだ。

アニタ・オデイ - 二人でお茶を

Sports / Huey Lewis And The News

2009-03-10 | Rock & Pops (80's)
 ポップスの世界において70年代というのはある意味大物アーティストが君臨した時代で、ポール・マッカートニー&ウイングス、ローリング・ストーンズ、スティーヴィ-・ワンダー、エルトン・ジョン、イーグルスといったビッグ・ネームたちがチャートを支配していたような印象が強かった。70年代末にイギリスで起こったパンク/ニュー・ウェイヴの波は音楽的に実を結んだとは言い難いが、ポリスやプリテンダースといったバンドの台頭が来るべき80年代に向けて新しい風を感じさせてくれた。それは無名の新人バンドでも曲さえ良けりゃヒットするという、ある意味下克上的な様相を呈していた。
 そんな70年代も終わり、明らかにそれまでとは違う明るくてノリの良いポップスがまるで雨後のタケノコのようにチャートに顔を出し始めた82年の春頃、ラジオからヒューイ・ルイス&ザ・ニューズというバンドの「ドゥー・ユー・ビリーヴ・イン・ラヴ」というキャッチーな曲が流れてきた。タイトにカッチリと引き締まったサウンドに絡む爽やかなコーラス・ハーモニーが実に魅力的なその曲は、ちょうど暖かくなってきてアウトドアのお出かけが増えてくるこの季節にピッタリで、まるでオープンカーで海岸通りを初夏の風を受けながら流しているかのような爽快な気分にしてくれた。サンフランシスコのバンドかぁ... ロックンロールのバンドでこんなに爽やかなコーラス・ワークが聴けるなんて貴重な存在やし、これから先が楽しみやなぁと思い、早速目をつけた。
 そして83年の秋、待望のニュー・アルバムがリリース、タイトルは「スポーツ」....(>_<) はぁ?長年音楽を聴いてきたが「スポーツ」なんてタイトルつけるバンド、他には考えられない(笑) 無骨というかアメリカ的なおおらかさというか、実にユニークな連中だ。中身の方はというと、①「ハート・オブ・ロックンロール」の歌詞に「モダン・ミュージックには色んなスタイルがあるけれど、僕をワイルドにさせるのはあのおなじみのバック・ビートのリズム... ロックンロールなんだ」とあるように、出てくる音すべてに熱いロックンロールの鼓動が脈打っているのだ。その①ではよく弾んで気持ちのいいリズム感バツグンのロックンロールをバッチリ軽快にキメてくれる。高音部でちょっとハスキーにしわがれるヒューイ・ルイスの声が超渋い。②「ハート・アンド・ソウル」はパッと聞きには地味だが何度も聞くうちに良さがじわーっと伝わってくる渋い曲で、この曲をファースト・シングルに切った彼らも凄いがそれをヒット・チャートの8位に迎え入れたアメリカという国も凄い。それに比べてセカンド・シングルになった④「アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ」はキャッチーでゴキゲンなノリノリのナンバーで、このリズミカルな演奏を聴いて身体が思わず揺れなければもうロックンロールには無縁な人だと言い切ってしまいたいぐらい素晴らしい。そのファンキーなノリは思わず「ゴースト・バスターズ!」って叫びたくなるほどだ(笑)
 タネも仕掛けも無いストレートなロックンロール⑤「ウォーキング・オン・ア・シン・ライン」、ゴムマリのように弾力性のあるリズムが快感を呼ぶ⑥「ファイナリー・ファウンド・ア・ホーム」、爽やかなコーラス・ハーモニーの妙が存分に楽しめる⑦「イフ・ジス・イズ・イット」とシンプルで味のある曲の波状攻撃。ハンク・ウイリアムズのカントリー・ナンバー⑨「ホンキー・トンク・ブルース」を高速化してごきげんなロックンロールにしてしまうあたり、まさにこのバンドの真骨頂だろう。生き生きして躍動感に溢れるタイトなロックンロールが満載の、80年代ポップス名盤だ。

Huey Lewis and The News - I Want A New Drug

Simple Dreams / Linda Ronstadt

2009-03-09 | Rock & Pops (70's)
 70年代半ばの日本の洋楽シーンにおいて、ソロの女性シンガーといえばオリビア・ニュートン・ジョンとリンダ・ロンシュタットだった。もちろん他にも多くの女性シンガーがいたはずだが、私が目にした音楽雑誌や耳にしたラジオ番組ではこの二人が突出していたように思う。私はもちろん二人とも大好きで、「カントリー・ロード」のような親しみやすい正統派ポップスが得意なオリビアに対し、ウエスト・コーストの男共を従えてロック色の濃いサウンドをベースに過去の名曲たちを次々とカヴァーしていくリンダ、という風に捉えていた。
 そんなリンダの愛聴盤の中でも特にレコードが擦り切れるくらい聴いたのがこのシンプル・ドリームズである。全10曲で、ロック色の濃いノリの良いナンバーとカントリー色の濃いスロー・ナンバーがバランス良く収められており、私は特に前者の「ロックなリンダ」が大好きだ。まずは何といっても冒頭の①「イッツ・ソー・イージー」が素晴らしい。彼女は前作でもバディ・ホリーの「ザットル・ビー・ザ・デイ」をカヴァーしており、今回も彼の名曲を取り上げ絶妙なテンポ設定で自分の色に染め上げる温故知新のチカラワザ路線は健在で、抜群のノリでぐいぐい音楽を引っ張っていく。彼女の自信に満ちたヴォーカルは一糸乱れぬバックのサウンドと有機的に結びつき、これぞウエスト・コースト・ロック!といえるヴァージョンに仕上がっている。「ソゥイズィ、ソゥイズィ、ソゥイズィ、ソゥイズィ...♪」と呪文のように繰り返すコーラス・ハーモニーが耳に残るナンバーだ。
 ⑦「プアー・プアー・ピティフル・ミー」はシンプル・イズ・ベストを絵に描いたようなミディアム・テンポのストレートなロック曲で、彼女の張りのある力強い歌声がたまらない。歯切れの良いギターや弾けるようなシンセ・ドラムがこの曲に更なるドライヴ感を与え、彼女の隠れ名曲の筆頭に挙げたい快演になっている。歌詞の「ヨコ ハァマ!」の部分が何故か大好きだ(笑) ストーンズのカヴァー⑨「タンブリング・ダイス」は最初曲目を見た時に「え?リンダがストーンズ?」とミスマッチのように思ったが、実際に聴いてみるとリンダのパンチの効いたヴォーカルがこれまたネチこいバックの演奏と渾然一体となってグルーヴィーなノリを生み出してストーンズの難曲を見事に歌いこなしており、改めて彼女の選曲眼の正しさに感心してしまう。
 しっとり系ではロイ・オービソンのカヴァー⑥「ブルー・バイユー」が彼女がただの“ウエスト・コーストのじゃじゃ馬娘”ではなくスロー・バラッドを歌わせても超一流であることを如実に示す名唱だ。ゆったりとしたカントリー・タッチで南国のムードが漂う中、溢れ出るような情感をコントロールしながらしっとりと歌い上げるリンダが実にチャーミングだ。トラディショナル・ソングの⑤「花嫁にはなれない」はドリー・パートンをゲスト・ヴォーカルに迎え、どこかやるせないムードを巧く演出しながら心温まるデュエットを聴かせてくれる。
 この後彼女は同じ路線でもう1枚「リヴィング・イン・ザ・USA」を出すのだが、この頃が彼女が最も輝いていたように思う。確かに80年代に入ってからのネルソン・リドルとのスタンダード・ジャズ3部作は大成功を収めたが、私にはやはりこの頃の「土の薫りのするウエスト・コースト・ロック」路線のリンダが最高なのだ。

Linda Ronstadt - It's So Easy (LIVE)
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New Jersey / Bon Jovi

2009-03-08 | Hard Rock
 ボン・ジョヴィの代表作といえば、全米だけで1,200万枚を売り上げ彼らを一気にスターダムへと押し上げた「スリッパリー・ホェン・ウェット」(86年)である。このアルバムの大成功によって彼らは80年代後半のハード・ロック・ブームの頂点に君臨し、シーンを牽引していった。しかし私が個人的に最も思い入れが深いのはその2年後に出た「ニュー・ジャージー」なのだ。「スリッパリー...」は“気がついたらいつの間にかアルバム・チャートのトップに立っていた”って感じで、シングル・チャートでもあれよあれよという間に№1ヒットを連発、山本リンダもビックリの“もぉどぉにも止まらない状態”で、ファンとしても必死でついていくのがやっとだった。
 だが「ニュー・ジャージー」は違う。今度はこちらもしっかりと心の準備が出来ているし、それはボン・ジョヴィの方も同じだろう。挑戦者の立場だった前作とは違い、今度は“王者ボン・ジョヴィ”として新作をリリースするのだ。そのプレッシャーの大きさは想像を絶するものだったに違いない。「スリッパリー...」で2曲の全米№1を共作したポップ・メタルの天才デズモンド・チャイルドがここでも②③⑤というヒット性の高いナンバーの共作者に名を連ね、再びブルース・フェアバーンのプロデュースと、勝利の方程式に抜かりはない。
 アルバム1曲目の①「レイ・ユア・ハンズ・オン・ミー」はまさにライブ・ショウの始まりを告げるが如きオープニング・ナンバーで、場内がが暗転しPAからこの曲のイントロが流れてきてファンが総立ちになって手を挙げる...という光景が目に浮かぶようだ。ファースト・シングル②「バッド・メディスン」は「ユー・ギヴ・ラヴ・ア・バッド・ネーム」の流れを汲むパワフルな曲で、確かサンヨーのCMにも使われてたような記憶がある。それにしてもハードロックのバンドがお茶の間に何の違和感もなく溶け込んでしまうとは時代も変わったものだ。③「ボーン・トゥ・ビー・マイ・ベイビー」は「リヴィン・オン・ア・プレアー」をよりタイトでソリッドにしたような、最もボン・ジョヴィらしい青春賛歌。スプリングスティーンの「サンダー・ロード」と「ボーン・トゥ・ラン」を足して2で割ったような歌詞をはじめ、演奏からコーラスに至るまですべてがニュー・ジャージーしまくっている。心を震わすようなジョンのヴォーカルがたまらないソウルフルでグルーヴィーな④「リヴィング・イン・シン」に続く⑤「ブラッド・オン・ブラッド」もやはりスプリングスティーンの「ボーン・トゥ・ラン」を彷彿とさせる怒涛のようなドラマ展開で、イントロを聴いただけでアドレナリンが逆流しそうになる。友情よりもっと強い絆の存在を歌ったボン・ジョヴィ史上屈指の名曲だ。
 ⑥「ホームバウンド・トレイン」のライブ感溢れるヘヴィーなサウンドにはジェフ・ベックへのリスペクトが横溢、この曲に限らずこの「ニュー・ジャージー」には彼らが多くのことを学び取った先輩たちへの敬意がストレートに表出されている。ビートルズの「ドント・レット・ミー・ダウン」をボン・ジョヴィ流に煮詰めて煮詰めて作り上げたような⑩「アイル・ビー・ゼア・フォー・ユー」はある意味クッサクサの泣きのバラッドだが、逆にそこがたまらん魅力になっており、ファンならフニャフニャの腰砕け状態になるだろう。⑪「99イン・ザ・シェイド」はスピード感溢れるノリノリのロックンロールで、車で飛ばしながら聴けば気分も爽快だ。⑫「ラヴ・フォー・セール」はノリ一発のワン・テイクで録ったような楽しい曲で、ブラッシュの小気味良いリズムに乗ってジョンがはしゃぎまくる。この曲をラストにもってくるあたり、ボン・ジョヴィの余裕と遊び心が表れている。
 それにしてもこのアルバムのクオリティーの高さは尋常ではない。どの曲もエネルギーに満ちていてしかもメロディアスという、実に煌びやかで色彩豊かなアルバムだ。

Bon Jovi - Blood On Blood - (Live 1990)

Blue Selection / 井上陽水

2009-03-07 | J-Rock/Pop
 聴き始めの頃にはその素晴らしさが理解できず、何年も経ってからようやくその真価が分かってきた懐の深いアーティストがいる。井上陽水は自分にとってまさにそういう“憎らしい”存在である。学生時代にリアルタイムで聴いた陽水の歌は彼独特のクセのある歌い方がどうにも鼻についてあまり好きにはなれず、又、後追いで聴いた初期の「傘がない」「夢の中へ」「心もよう」といったヒット曲の数々もそれほど大きなインパクトはなく、むしろライバルと言われた吉田拓郎のストレートな魂の叫びを夢中になって聴いていた。今にして思えば当時の私はそういった表現方法のみに気を取られ、陽水の歌の持つ内面的なパッションを味わえるほど大人になっていなかったのだろう。確かに拓郎のように本音をさらけ出して叫び、それを歌にして共感を得るのはたやすい事ではないが、陽水のようにあくまで歌のあるべき道に留まり、歌の中に魂を封じ込めていくのもまた凄い事だということが分かったのは2001年に出た「UNTED COVER」を聴いた時だった。
 全曲が昭和歌謡のカヴァーという異色のアルバムだが、秀逸なアレンジと何よりも陽水の変幻自在のヴォーカルが耳タコのはずの楽曲に新たな生命を吹き込み、実にクオリティーの高いカヴァー集になっていた。特に「花の首飾り」「旅人よ」なんかは鳥肌モノで、彼の声の存在感に圧倒されたものだし、「ウナ・セラ・ディ東京」では絶妙なヴォーカルで原曲の持つ切なさを見事に表現しており、知り合いの音楽の先生が「日本の歌手で一番歌が上手いのは井上陽水だ!」と言っていた理由が何となく分かった気がした。
 すっかり陽水に対する誤解、先入観のなくなった私の気持ちを見透かしたかのように翌2002年にリリースされたのがこの「Blue Selection」である。これは全曲ジャズ・アレンジのセルフ・カヴァーで、発売前からその筋では結構話題になっていたらしい。竹内まりやの「リクエスト」といい、中島みゆきの「おかえりなさい」といい、ただでさえセルフ・カヴァー・アルバムというのは作者自ら楽曲の髄を引き出してリスナーを目からウロコ状態にさせるような名盤が多いのに、そこへもってきてジャズ・アレンジとくれば期待しない方がおかしい。
 アルバムの印象というのはだいたい1曲目で決まることが多いが、いきなり冒頭の①「飾りじゃないのよ涙は」で私は完全KOされてしまった(≧▽≦) スルスルと滑っていくようなギターやヒラヒラと乱舞するエレピを従え、瀟洒なブラッシュが支配するジャジーなサウンドをバックに陽水が疾走する。実は私はエレピの軽薄な音が大嫌いなのだが、この曲に関して言えば軽やかに駆け抜けていくような感じを出せるエレピしかなかった、いわば必然的な選択だ。そこには中森明菜が歌ったあの昭和歌謡の名曲の姿はなく、見事に換骨堕胎されて洗練されたジャズへと生まれ変わった“陽水スタンダード”が屹立していたのだ。もう参りましたというほかない。
 そういう意味では彼が高樹澪に提供した③「ダンスはうまく踊れない」も①と甲乙付けがたい素晴らしい出来映えだ。ミディアム・スローでスイングする陽水の何とカッコイイことよ!この曲の持つ儚さを見事に表現したヴォーカルが絶品だ。⑧「ワカンナイ」もカッコ良いジャズ・アレンジを得て20年前の作品とは思えないくらい瑞々しいヴァージョンに仕上がっている。この曲に限らず、陽水の声とジャズの出会いが生み出す相乗効果は私の予想を遥かに超えて魅力的だった。これは私の知る限りJ-Popsアーティストによるジャズ・アレンジ作品の最高傑作だと思う。

飾りじゃないのよ涙は

Sultans Of Swing / Dire Straits

2009-03-06 | Rock & Pops (80's)
 ダイアー・ストレイツは流行に関係なくそのオリジナリティー溢れる音楽のクオリティーだけで勝負できる数少ないグループだった。彼らがデビューした70年代末期というのはイギリスでニュー・ウェイヴ、つまりパンク・ロックが台頭する一方で、アメリカでは相も変わらずビッグ・ネームが幅を利かせており、パンクはヘタでウルサイだけやしアメリカで流行ってる曲はどれも似たり寄ったりでそろそろ飽きてきたなぁ...と思っていた私のような人間にとって彼らの登場はまさにドンピシャのタイミングだった。
 確か79年の春頃だったと思うが、ラジオで初めて①「悲しきサルタン」を聴いた時の衝撃は凄まじく、指で弾くストラトキャスターの独特の音色とボブ・ディランをクールにしたようなマーク・ノップラーのヴォーカル(友人のplicnoさんは「酔っ払いのボヤキみたいな歌い方」と仰ってた...ウマイこと言いますね!)の存在感はまさにワン・アンド・オンリーで、1度聴いたら忘れられない強烈なインパクトがあった。そのどこかルーツ・ロック的な音作りはアメリカで主流だったAOR とは激しく一線を画し、あらゆる点で新鮮な響きを持って迫ってきた。右手の親指、人差し指、中指の3本の指を駆使する彼独自のフィンガー・ピッキング・スタイルから生み出されるギターの乾いた音が耳に心地良く、私はすっかりそのサウンドに夢中になった。
 ②「レィディ・ライター」は①の三軒隣に住んでいるようなノリノリの曲だが、この威勢良く駆け抜けていくような必殺のテンポ設定こそダイアー・ストレイツの専売特許、疾走せずして何のダイアー・ストレイツか、と言いたい。こんな曲をあと10曲でも20曲でも作ってくれい!④「トンネル・オブ・ラヴ」はマークのギターが冴え渡る8分を超えるドラマティックな大作で、初期のスプリングスティーン的な薫りも湛えつつ、渋~いロックを聴かせてくれる。シングル発売のみでオリジナル・アルバム未収録の⑥「トゥイスティング・バイ・ザ・プール」はそれまでの彼らからは想像できないような軽快なロカビリーで、こういうシンプルなロックンロールがバンドの本質とはかけ離れていることは百も承知だが私は大好きだ。この手の3コード・ロックンロールとしては他に「オン・エヴリィ・ストリート」収録の「ザ・バグ」があり、そっちも超オススメだ。
 全世界で2,000万枚以上を売り上げたというモンスター・アルバム「ブラザーズ・イン・アームズ」からのファースト・シングル⑨「マネー・フォー・ナッシング」はCGを駆使したビデオ・クリップが折りからのMTVブームに乗って大ヒットしたが、MTVを辛らつに皮肉った歌がMTVでヘビロテになってヒットするというのも考えてみれば面白い。コーラス参加のスティングの歌声や曲間のユーモラスなマークの合いの手「ウァ ウァ♪」もこの曲にぴったりハマッているし、ギター・リフが生み出すうねるようなグルーヴも絶品だ。
 シンプルなブルース・ロック⑩「ブラザーズ・イン・アームズ」、軽快で楽しさ溢れる⑪「ウォーク・オブ・ライフ」、淡々とつぶやく様なヴォーカルがクセになる⑫「コーリング・エルヴィス」、⑨の流れを汲む曲想で更に贅肉を削ぎ落としたような⑬「ヘヴィー・フュエル」、後半の盛り上がりが快感を呼ぶ⑭「オン・エヴリィ・ストリート」と、もう名曲名演のアメアラレである。ライブ音源の⑮「ユア・レイテスト・トリック」は哀愁のギター・メロディーが心に突き刺さる名演で、マイケル・ブレッカーのテナーもめっちゃ渋い!ノリが良くて渋くてカッコ良いダイアー・ストレイツ... これこそまさに“大人のロック”の最高峰だと思う。

Dire Straits - Sultans of swing [Live Aid -85 Full version HQ!]

Helen Merrill

2009-03-05 | Jazz Vocal
 これは“ニューヨークのため息”と呼ばれたヘレン・メリルのデビュー・アルバムであり、私が初めて買ったジャズ・ヴォーカル盤でもある。それからもう15年以上が経ち、何百回と聴いているはずなのにまったく飽きない。いや、飽きるどころか聴くたびに魅了されてしまう。原題はシンプルに「Helen Merrill」、邦題はもちろん「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」... 泣く子も黙るジャズ・ヴォーカル・アルバムの金字塔である。
 世間ではこのアルバムは「クリフォード・ブラウンのトランペットを聴くべき1枚」ということになっており、右を見ても左を見てもブラウニー絶賛の嵐で、ヘレン・メリルのヴォーカルに関してはアホの一つ覚えみたいに「ハスキー」の一点張りである。挙句の果てには“ブラウニーさえいればヴォーカルは別に彼女でなくてもいい”などという極論まで出てくる始末(>_<) 確かに私だってブラウニーのトランペットが聴きたくてこの盤をターンテーブルに乗せることが多いが、だからといってもしヴォーカルが他のシンガーだったとしたらこのアルバムがこれほどまでに人々の心を捉えることはなかっただろう。ヘレンの大人の色香を発散するくすみ色したハスキー・ヴォイスがブラウニーの煌びやかなトランペットの音色と絶妙なコントラストを生み出し、眩いばかりの艶々したサウンドを引き立てている点を過小評価してはいけない。
 それと忘れてならないのがオシー・ジョンソンの見事なブラッシュ・ワークである。フェザー・タッチで巧みにメリハリをつけながら音楽をスイングさせていく匠の技とでもいおうか、そのツボを心得た至高の名人芸といえる鉄壁のリズムがあったからこそ、ブラウニーはあれほどまでに気持ちよく吹けたのではないだろうか?リズム・セクションが良ければ名演が生まれるという最高の一例だ。
 このアルバムのハイライトは何といってもコール・ポーターの名曲②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」である。オシー・ジョンソンの瀟洒なブラッシュ、ジミー・ジョーンズの歌心溢れるピアノ、ミルト・ヒントンの律儀なベース、ヘレンのこれ以上ないと思えるくらい曲想にピッタリ合った粋な歌い方、そしてそれらが渾然一体となってスイングしているところへ勢い良く切れ込んでくるブラウニーのトランペットという按配で、「ジャズ・ヴォーカルとは何ぞや?」と問われれば黙ってこの曲を差し出したいくらい素晴らしい、まさに絵に描いたような名曲名演だ。クインシー・ジョーンズの絶妙な器楽アレンジの貢献度も大と見た。以前アップした青江三奈のヴァージョンと聴き比べるのも一興だろう。
 ヘレンがミディアムでスイングする④「フォーリング・イン・ラヴ・ウィズ・ラヴ」では、1分12秒からの“オスカー・ペティフォードの弾むようなセロ → キラキラと輝く流麗なピアノ → 変幻自在のトランペット”と絶品のソロが続くあたりが一番の聴き所。特によく唄うペティフォードのプレイにはセロという楽器に対する見方を瞠目させる深い味わいがある。アップテンポで軽快にスイングする⑦「ス・ワンダフル」では又々ブラッシュが大活躍、タル・ファーロウを思わせるバリー・ガルブレイスのギター・ソロも悪くはないが、ここでもやはりブラウニーが美味しい所を持っていく... 1分49秒からの息もつかせぬ展開が圧巻だ。
 とにかくこの奇跡のようなアルバムは“歌良し、演奏良し、ジャケット良し!”とすべての点において最高位にランクされる、ジャズ・ヴォーカルの入門盤であり、永久盤だと思う。

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ASIA

2009-03-04 | Rock & Pops (80's)
 エイジアは 70年代に活躍したブリティッシュ・プログレ・バンドのメンバーたちが80年代に入って結成したスーパーグループである。ただ、一口にプログレといってもバンドによってコンセプトや方向性はそれぞれ異なっていたので、元キング・クリムゾンのジョン・ウェットン、元EL&Pのカール・パーマー、元イエスのスティーヴ・ハウの3人に元バグルズのジェフリー・ダウンズが加わって一体どんなサウンドが生まれるのか、期待半分不安半分で新曲が聴ける日を今か今かと待っていた。
 そして82年の春のある日、それは突然やってきた。デビュー・アルバム「エイジア 詠時感 ~時へのロマン~」からのファースト・シングル①「ヒート・オブ・ザ・モーメント」である。血湧き肉躍るようなギターのイントロはまるで混沌とした70年代の終焉とキャッチーなメロディーの復権を掲げた80年代の始まりを高らかに宣言しているかのようだった。カール・パーマーの刻むエネルギッシュかつ正確無比なビートは前途洋々たる未来へとつながる開放感を醸し出し、ジョン・ウェットンの爽やかで説得力溢れるヴォーカルが胸に突き刺さった。ダウンズ=ウェットンの作品ということで、バグルズの「ラジオスターの悲劇」っぽいメロディー・ラインが現れるのはご愛嬌、とにかくこれぞ80'sロック!という感じがたまらない名曲だ。
 この曲は大反響を呼び全米チャートの4位にまで昇りつめるのだが、日本では賛否両論が渦巻いた。私のようなポップス・ファンはその新しいサウンドを諸手を揚げて歓迎したが、一方で頭の堅いうるさ型のプログレ・ファンはやれ堕落しただのコマーシャリズムに魂を売っただのと言いたい放題(>_<) ほんなら聞くけど、変拍子がそんなにエライんか?曲が長けりゃそれでエエんか?ポップで悪いか!ジョン・ウェットンは「70年代にやっていたような長い曲を今もやっていたら僕らはオールド・ファッションというレッテルを貼られてしまう。今やっている方法なら80年代の波に入るチャンスがあると思った。」と言っている。波に “入る” どころか波を “作って” しまったエイジアだが、要するにそういうことである。
 アルバム全体を聴いて感じたのは音楽的なイニシアチブを握っているのは意外にもジェフリー・ダウンズではないかということ。メイン・コンポーザーである彼が音楽監督のような立場にいて、高度なテクニックを誇るウェットン、パーマー、ハウという3人のプログレ職人のエゴを巧く交通整理しながら陰のまとめ役に徹しているように思えるのだ。セカンド・シングル②「オンリー・タイム・ウィル・テル」はイントロの荘厳なキーボードの音色だけでゾクゾクさせられるプログレ・ポップ。③「ソウル・サヴァイヴァー」は変拍子を用いるなどしてプログレの残り香がそこはかとなく漂うが、高度なテクニックを駆使して実に聴きやすく仕上げている。これこそエイジアの真骨頂!といえる名演だ。北斗琉拳のカイオウが出てきそうなイントロから一気に駆け抜ける⑤「タイム・アゲイン」はアルバム中最もスリリングな展開を見せる曲で、緊張感溢れるコーラス・ハーモニーもハウのドラマティックなギター・ソロもめちゃくちゃカッコイイ!同じく全員がハイ・テンションで突っ走る⑥「ワイルデスト・ドリームズ」は何といっても熱気溢れるドラム・ソロとアグレッシヴなキーボードに圧倒される。
 キャッチーなサビのメロディーが耳について離れない⑧「カッティング・イット・ファイン」は3分20秒以降のスローな後半部はイマイチ好きになれないが、アップ・テンポで緊張感溢れる前半部の展開は⑤と並ぶこのアルバムのハイライト(≧▽≦) これこそロックだ!と思わず叫びたくなるような疾風怒濤の展開がたまらない。
 難しいことを誰にでも分かるように易しく表現することこそ至難の業なのだ。私は1枚丸ごと超高品質ポップ・ロックといえるこのアルバムが大好きだ。もう一度言おう... ポップで悪いか!

Asia- Heat Of The Moment

Connie Francis Greatest Hits

2009-03-03 | Oldies (50's & 60's)
 コニー・フランシス... 誰が何と言おうと彼女こそがアメリカン・オールディーズ・ポップスの象徴である。歌は上手いし、作品にも恵まれ、おまけにキュートでチャーミングとくればヒットしない方がおかしい。58年から62年までの5年間で3曲の全米№1を含む20曲ものトップ20ヒットを放ったのだから、プレスリーが兵役に就いてからビートルズ出現までのアメリカン・ミュージック・シーンを支配していたといっても過言ではないだろう。
 しかし彼女はヒット・チャート成績とか売り上げとかで云々すべき歌手ではない。そういった次元を遥かに超越した存在として、記録よりも記憶に残る偉大なシンガーなのだ。大方の日本人が「オールディーズ」という言葉で頭に浮かべる歌手はコニー・フランシスではないだろうか?もちろん弘田三枝子や森山加代子、中尾ミエらのカヴァー・ポップスの大流行も大きな一因だろうが、オールディーズ・ポップスの持つ明るく健康的でどこか甘酸っぱいイメージと彼女の艶やかな歌声とがオーバーラップするのだろう。因みに3曲の全米№1というのは「エヴリバディーズ・サムバディーズ・フール」「マイ・ハピネス」「泣かせないでね」だが、こんなん誰も知らんやろ(>_<) この辺にも日米の嗜好の違いが浮き彫りになってて面白い。
 彼女のレパートリーは伸びのある高音域を活かして切々と歌い上げるロッカ・バラッド・タイプの曲と、ウキウキした気分にさせてくれるミディアム~アップ・テンポの曲に大別されるが、私は断然後者のコニーが好きなんである。このベスト盤のA①「カラーに口紅」なんかまさにその典型で、軽快なリズムに乗ってコニーは鼻歌で口ずさめそうなシンプルなメロディーをやや抑え気味に歌い切る。決してシャウトしないその抑え方のサジ加減が絶妙なのだ。シャツのカラーについた口紅でウソがばれるという分かりやすい内容の歌詞も面白い。
 そういう意味ではB①「想い出の冬休み」も似通った曲想だが、こちらの方がよりメロディーの起伏に富み、「ウォウ、ウォウ、ウォウ♪」のパートやハンド・クラッピングの挿入、間奏のひしゃげたサックスなど、サウンド・プロダクションにも随所に工夫が見られる。ハンド・クラッピングといえば、ニール・セダカ作のA③「ステューピッド・キューピッド」も忘れられない。思わず踊りだしたくなるような歌と演奏はまさにこれぞオールディーズ!といいたくなるようなポップな衝動に満ち、彼女は低音から高音まで抜群の歌唱力を駆使して変幻自在のヴォーカルを聴かせてくれる。特に「キューピッ♪」と語尾を上げるコミカルな歌い方がたまらない。
 伊東ゆかりのカヴァーで有名なA⑭「大人になりたい」や中尾ミエのカヴァーでおなじみのA⑰「可愛いベイビー」でもA①同様やや抑え気味ながら伸びやかで表情豊かなヴォーカルが堪能できる。ディオンやジョニー・ティロットソンあたりが歌いそうなA⑯「夢のデイト」はイキそうでイカない単調な曲だが、彼女は惜しげもなく「ウォウ、ウォウ、ウォウ♪」を連続投下、甘酸っぱいレトロ感覚に満ちた佳作に仕上げている。B⑬「24,000回のキス」ではイタリア系の血が騒ぐのか、他では聞けないような情熱的なヴォーカルでカンツォーネの名曲を見事に歌いこなしており、このあたりにも彼女のシンガーとしての能力の高さが見て取れる。オールディーズ・ポップスの代名詞と言っていいA⑳「ヴァケイション」では彼女のパンチの効いた歌声がリズミカルな曲調とベスト・マッチで言うことナシだ。
 あの時代、アメリカにはコニーが、そして日本にはミコがいた。同じ時代に太平洋を挟んで二人の天才少女を世に送り出した天に感謝したい。コニー・フランシス... まさにザ・ワン・アンド・オンリーのポップス・クイーンだ。

想い出の冬休み I'm Gonna Be Warm This Winter (Japanese)
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HEART

2009-03-02 | Rock & Pops (80's)
 漆黒の髪に抜群の歌唱力を持つシンガー、アン・ウィルソンと、ブロンドで絵に描いたような美貌を誇るギタリスト、ナンシー・ウィルソン。この才能豊かなウィルソン姉妹を核にしたカナダ出身の5人組ロック・バンド、ハートのデビューは75年、緊張感溢れるハードロックをベースにしながらも時折アコースティックでメロウな一面ものぞかせるそのアンビバレントな個性は唯一無比で、「クレイジー・オン・ユー」「バラクーダ」「ハートレス」といったヒット曲やライブ音源のゼッペリン・カヴァー「ロックンロール」「ユー・シュック・ミー」、ポール・マッカートニーの喉が張り裂けんばかりの極めつけのシャウト・ナンバーをメドレーにした「アイム・ダウン~ロング・トール・サリー」etcが大好きでよく聴いたものだった。
 その後、人間関係のもつれによるメンバーの脱退などでグループはガタガタになってしまったが彼女らは諦めず、崖っぷち状態から心機一転新メンバーを迎えてレコード会社を移籍し、再びトップに返り咲くためにゼッペリンやザ・フー、サバイバーなどを手掛けてきた辣腕プロデューサーのロン・ネヴィソンを起用して85年にリリースしたのがこのセルフ・タイトル・アルバム「ハート」なのだ。
 このアルバムの特筆すべき点は、オリジナルに拘らずに外部のソングライターを積極的に導入したことだろう。このあたりの展開はほぼ同時期に天国と地獄を経験し、80年代半ばに華麗な復活を遂げたエアロスミスに近いものがある。選りすぐりの10曲はキャッチーで多様性に満ち、どれを取ってもヒット性を秘めたものばかりで、ハートは全曲をライブと同じぐらいのノリと勢いでプレイし、その熱いロック・スピリットを銀盤に封じ込めた。そうとも知らずに軽~い気持ちで聴き始めた私は、ハート復活を高らかに宣言する冒頭の①「イフ・ルックス・クッド・キル」でいきなりガツン!とやられた。それは一切の無駄なゼイ肉を削ぎ落としハードでタイトな面を強調した鋭敏な仕上がりで、“女ロバート・プラント”の異名を取ったアンのヴォーカルが凄まじい。ハードでありながらメロディアスにロックするという離れ業に脱帽だ。
 ファースト・シングル②「ホワット・アバウト・ラヴ」は大仰な作風のパワー・バラッドで、力を持て余しているかのようなアンの爆裂シャウトが凄まじい。全米チャート10位まで上がってハート復活のきっかけとなった記念すべきシングルだが、やや作りすぎの感も否めない。セカンド・シングル③「ネヴァー」は「ネ~ェヴァ~、ネ~ェヴァ~、ネ~ェヴァ~♪」のサビのフレーズが耳に残るポップな曲だが、ドラムが叩きだすヘヴィーなリズムがサウンドをピリリと引き締めている。彼女らにとって初の全米№1に輝いたサード・シングル④「ジーズ・ドリームズ」は珍しくナンシーがリード・ヴォーカルをとった叙情的なバラッドで、アンとは又違ったハスキーな声(レコーディングの時に風邪をひいてたらしい...)が曲想とピッタリ合っていて、特にサビの部分のかすれる所なんかもうたまりません(≧▽≦)
 エッジの効いたハードなギターのリフがめっちゃカッコイイ⑤「ザ・ウルフ」、ドライヴ感抜群のロックンロールで①と並ぶお気に入りの⑥「オール・アイズ」、ヒューマンで温かみのあるバラッド⑦「ノーバディ・ホーム」、フォリナーのミック・ジョーンズみたいなギターのサウンドが印象的な⑩「シェル・ショック」と、さすがは「売れるアルバムを作るのが僕の使命」と豪語するロン・ネヴィソンだけのことはある。ハードなロックこそ実は曲が大切なんだということを世間に知らしめた傑作アルバムだ。

Heart- If Looks Could Kill

Heart - These Dreams