shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

砂に消えた涙 / ミーナ

2009-03-25 | European Pops
 60年代のミュージック・シーンをリアルタイムで体験できなかった私のような者がオールディーズの音源を手に入れようとすれば、どうしてもオムニバスCDに頼らざるを得ない。当時はシングル盤中心にシーンが動いていたし、アルバムを作る前に消えてしまった一発屋も多いからだ。しかしどれもこれもアメリカン・ポップス中心の似たような選曲で、当時日本独自にヒットしたフランス、イタリアを中心とするヨーロピアン・ポップスがモノの見事に欠落している。オールディーズ・ポップス・ファンとしてはこの不条理を見過ごすわけにはいかない。
 60年代前半、フランスでは過去のシャンソンとは全く違う、アメリカのロックンロールの洗礼を受けた明るくて楽しいダンス音楽、すなわち“イエ・イエ”が大流行し、シルヴィ・バルタン、フランス・ギャル、シェイラ、ダニエル・ビダル、シャンタル・ゴヤといった可愛コチャン・タイプのアイドル系ポップスの波が日本にも押し寄せた。彼女らの愛くるしい歌声は、フランス語ということもあって歌詞の意味はサッパリ分からないが、アメリカン・ポップスにはない何かがあって胸キュン・ポップスの白眉といえた。一方イタリアからもサンレモ音楽祭の話題と共にカンツォーネのヒット曲が日本に紹介され、フレンチ・ポップスとは一味も二味も違うジリオラ・チンクエッティ、ウィルマ・ゴイク、リタ・パヴォーネらのエモーショナルな歌声が人気を博した。これらのヨーロピアン・ポップスは弘田三枝子やザ・ピーナッツらが日本語でカヴァーしたり、あるいは当の本人がつたない日本語で吹き込んだいわゆる「日本語盤」を出したりで、日本人にとってはより身近なヒット曲になったのだが、そういった「日本語盤」の中で圧倒的に強烈なインパクトを放ったのがイタリアの№1人気歌手ミーナの④「砂に消えた涙」である。桑田佳祐師匠が「世界で一番好きな曲!」と断言し、竹内まりや姉さんも名盤「ロングタイム・フェイヴァリッツ」で嬉々としてカヴァーしていたオールディーズ・ポップス屈指の名曲だ。漣健児氏による“青い月の光を浴びながら~♪”という歌詞が甘酸っぱさを醸し出すメロディーと見事に結びついて心の琴線を震わせまくる。このベスト盤に入っているのはイタリア語のオリジナル・ヴァージョンだが、ボーナス・トラックとして日本語ヴァージョンを入れるぐらいのことはしてほしかった。ホンマに日本のレコード会社はファンのニーズが分かっていない(>_<) 「砂消え」以外ではやはり日本語でスタンダード化した⑧「別離」が素晴らしい。哀愁漂う演奏をバックに切々と歌うミーナのヴォーカルは説得力抜群で、単なるポップスというよりも大人の歌という雰囲気の名唱だ。日本ではこれらのスローな④⑧が有名だが、彼女の本質は①「太陽はひとりぼっち」、⑤「月影のナポリ」、⑪「月影のレナート」(←何なんこのワンパターンな邦題...笑)といったアップテンポでパワフルな歌唱にあり、高音部で叫びを交えるなどしながら彼女お得意の煌びやかなヴォーカルが炸裂する。私が一番好きのは西田佐知子がカヴァーした⑨「コーヒー・ルンバ」やザ・ピーナッツの代名詞となった⑩「情熱の花」で聴ける“メロディアスなラテン路線”の彼女で、ハチャメチャ一歩手前で踏みとどまって聴かせるエキゾチックなヴォーカルがたまらない。
 このように日本のオールディーズ史に深く名を刻んだミーナだが、今現在入手可能な日本盤CDはコレ1枚きり(しかも解説等一切なし!)という情けなさ... チンクエッティの時にも書いたがベスト物1枚でお茶を濁さずに、せめて60年代のものだけでもいいからオリジナル盤をCD化してもらいたいものだ。つまらないJ-Popsを出す暇があったら是非この辺のものを出すべきだと勝手にポップス・ファンを代表させてもらってここに提言したい。

ミーナ 砂に消えた涙 Un buco nella sabbia Mina 日本語版