shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Acoustic Live / Joscho Stephan

2009-03-13 | Gypsy Swing
 マヌーシュ・ギタリストというのは物心ついた時からギターを手にして毎日のように一族郎党が集まって音楽を演奏していた、というケースが少なくない。そんな中から“神童”と呼ばれる子供たち、すなわち小さい頃からバカテクぶりを発揮して各地のギター・コンテスト荒らし(笑)をするジプシー・キッズが現れる。ビレリ・ラグレーン、ストーケロ・ローゼンバーグ、ジミー・ローゼンバーグらがそうである。この3人のうちビレリとストーケロはデビューしてジプシー・スイングもののCDを数枚出した後、あえて他ジャンルに挑戦し、様々なミュージシャン達との交流を通して幅広い音楽性を身につけ、再びジプシー・コミュニティーに戻ってきた。最近の彼らのアルバムを聴くと速弾き一辺倒だった若い頃に比べ、微妙なニュアンスまでしっかりと聴き手に伝える実に味わい深いプレイをしていることに気付く。一皮向けて“真に偉大なギタリスト”の仲間入りを果たしたと言えるだろう。それに引き換えジミーの方は壁にぶち当たり伸び悩んでいる。彼のCDは何枚も持っているし確かに速弾きテクニックは凄いが、どれを聴いてもみな同じでそのプレイからはハートが伝わってこない。例えるなら、ヘビメタの速弾きギタリスト達とクラプトン、ベック、ペイジといった3大ギタリストとの違いである。ただ速いだけのプレイでは感心はしても感動はしない。
 ここにヨショ・ステファンというドイツ出身の若手マヌーシュ・ギタリストがいる。デビュー当初から超絶テクで一部のマニアの間で話題になっていた人である。その演奏スタイルはデビュー作でほぼ完成されており、とにかくスムーズでスピーディー、しかも速いだけでなくすべての音を正確にクリーンに弾きこなしている。しかしデビュー以降の3作はどれも“めちゃくちゃ上手いのは分かるけど何かが足りない”内容で、上記の“ジミー症候群”を心配していたのだが、4枚目にあたるこの「アコースティック・ライブ」ではそれまでとは一味も二味も違い、テクニックを聴かせるギタリストからテクニックで音楽を聴かせるギタリストへと見事な変貌を遂げている。
 聞くところによると彼はジプシー音楽以外にもチェット・アトキンス、カルロス・サンタナ、ジョージ・ベンソン、ウエス・モンゴメリーといったギタリストが好きで、毎年ナッシュヴィルで開催される「チェット・アトキンス・コンヴェンション」にも参加して様々なジャンルの音楽のエッセンスを吸収してきたという。その成果か、ここでは速弾き一辺倒の演奏スタイルを脱し、ギターを通して音楽する喜びが伝わってくるような血の通った演奏を存分に聴かせてくれる。
 例えばジャンゴの⑦「ヘヴィ・アーティラリー」では「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のリフをアドリブで挿入するなど遊び心溢れるプレイが楽しいし、⑭「世界は日の出を待っている」でのジェットコースターのような上昇下降を繰り返すソロなんかもう見事という他ない。ヱビス・ビールのCMでおなじみの⑰「ハリー・ライムのテーマ(第三の男)」では新境地といえる余裕溢れるプレイが聴けるし、私の大好きな⑬「ボッサ・ドラド」でもそれまでの屈託の無い陽性一筋なプレイは影を潜め、この曲の持つ哀愁をバッチリ表現している。
 下にアップしたYouTubeの超絶テクを見れば、マヌーシュ・スウィングを知らない人でも驚倒するだろう。ホンマに涼しい顔をして凄いことをやっている。そして一番の聴き所は⑯「黒い瞳」の指板上を縦横無尽に駆け巡るフィンガリングが目に見えるような壮絶なプレイだろう。ありとあらゆるテクニックを駆使し、なおかつギターで歌いまくるという至芸が圧巻だ。壁を突き破ったヨショ・ステファン... これからの成長が楽しみな逸材である。

Joscho Stephan - Bossa Dorado
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