shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Celebration / Alma Cogan

2009-03-30 | Oldies (50's & 60's)
 60年代のオールディーズ・ポップスの世界においてイギリス、つまりビートルズ登場以前のブリティッシュ・ミュージック・シーンというのは脆弱で、アメリカ勢にまったく太刀打ちできなかった。そんな中、孤軍奮闘していたのが“大英帝国の誇り”クリフ・リチャードであり、このアルマ・コーガンだった。
 アルマ・コーガンといえば何と言っても61年の「ポケット・トランジスター」である。“3分間ポップスの極み”と言ってもいいくらい小粋でポップなナンバーで、“わたしの持ってるちっちゃなポケット・トランジスタ、毎晩ヒッパレー聞くの~♪”という森山加代子のカヴァーでも有名だ。その前年にヒットした「恋の汽車ポッポ」(アネットとの競作で、これも加代ちゃんがカヴァー)と共に日本ではこの2曲の知名度が際立っているため “オールディーズの一発屋”的なイメージがあるかもしれないが、本国イギリスでは52年にEMI傘下のHMVレーベル(あのCDショップとは無関係)からデビューし、幾多のヒット曲を出している人気シンガーなのだ。私はオールディーズのオムニバスCDで「ポケット・トランジスター」を聴いていっぺんにその愛嬌のあるハスキー・ヴォイスのファンになり、それ以外の曲も聴きたくて彼女のLPやCDを買い漁った。それで分かったのは、ガーシュウィン、コール・ポーター、アーヴィング・バーリンらのアメリカン・スタンダード・ナンバーをジャジーに歌ったアルバム「アイ・ラヴ・トゥ・シング」を出したり、同じEMI傘下のコロムビア・レーベルに移籍してからも同趣向のアルバム「ウィズ・ユー・イン・マインド」を出したりと、初期の音源が結構ジャズジャズしていたことだ。これには正直驚いた。つまり彼女はジャズもポップスも両方こなせる“ホンモノ”のガール・シンガーだったのだ。あのジョン・レノンも彼女に夢中だったというからその実力は折り紙つきだ。やがて60年代に入ると上記のような明るく楽しいポップス路線にシフトしていくのだが、そういった流れといい、“the girl with the laughter in her voice” と言われるほどユニークで元気な歌声といい、まさに“イギリス版江利チエミ”といえるかもしれない。そんなアルマ・コーガンの3枚組ベストCDがこの「セレブレーション:ジ・アルティメット・コレクション」であり、それぞれ“50年代”“60年代”“スタンダード”とテーマ分けされていて非常にわかりやすい構成になっている。
 “50年代”編は江利チエミのカヴァーで有名な「裏町のおてんば娘」やフランキー・ライモンの「恋は曲者」、スインギーな「ブルー・スカイズ」etc実に楽しい曲が目白押しだ。
 “60年代”編ではエキサイターズのカヴァー「テル・ヒム」の日本語ヴァージョン「イッテ・クデス(?)」が必聴。斬新なアレンジの「テネシー・ワルツ」も楽しいし、軽快にスイングする「ジョリー・グッド・カンパニー」は絶対的オススメの隠れ名曲だ。
 “スタンダード”編は大半がジャズのスタンダード・ソングなのだが、大注目は冒頭の「ヘルプ!」「アイ・フィール・ファイン」「エイト・デイズ・ア・ウイーク」「涙の乗車券」というビートルズ・ナンバー4連発だ。そのどれもが実にユニークなアレンジを施されていてめちゃくちゃ面白い。例えば「エイト・デイズ・ア・ウイーク」なんか、意表を突いてスロー・バラッド風で始まり、後半に入ると一転テンポ・アップ、エンディングまで一気に駆け抜けるカッコ良さ(≧▽≦) この4曲は入手困難な音源なので、それだけでもこのCDを買った価値があるというものだ。
 まるで石膏像のような目鼻立ちの整った容姿で人気があったチャーミングな女性シンガー、アルマ・コーガン、彼女は美人薄命の言葉通り66年に癌のため34才の若さで急逝してしまったが、その魅力的な歌声は40年以上たった今でも世界中で愛されているのである。

POCKET TRANSISTOR / ALMA COGAN