shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Anita Sings The Most / Anita O'Day

2009-03-11 | Jazz Vocal
 「真夏の夜のジャズ」という映画がある。58年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの模様を記録したコンサート・ドキュメンタリー・フィルムで、様々なミュージシャンの貴重な映像が満載なのだが、中でも私が一番好きなのはアニタ・オデイが登場するシーンである。黒のノースリーブにつばの広い黒い帽子という全身黒ずくめのスタイルで、いかにも女ざかりという風情のアニタ姐御がクールにスイングする「スウィート・ジョージア・ブラウン」と「二人でお茶を」のカッコ良さ(≧▽≦) その声、その仕草、そのムード... そのすべてが粋なアニタのパフォーマンスは私に強烈なインパクトを残した。今でも街でつばの広い帽子をかぶったエレガントな女性(滅多にいないが...笑)を見かけると思わずハッとしてしまう。
 アニタ・オデイのキャリアは古く、40年代にはジーン・クルーパ楽団やスタン・ケントン楽団のバンド・シンガーとして脚光を浴び、50年代にはソロとしてヴァーヴ・レーベルに多数の傑作アルバムを吹き込んでいる。そんな彼女のレコードの中でもとりわけ私が好きなのがこの「アニタ・シングズ・ザ・モスト」なのだ。アニタのレコード数あれど、これほど歌心溢れる盤が他にあるだろうか?彼女をいつも以上にのせているのはジャズ・ピアノの巨匠、オスカー・ピーターソンその人である。縦横無尽にアドリブをかましながらスタンダード・ソングを歌いこなすアニタをガッチリと受け止め、得意の速弾きではなく歌伴のお手本のような絶妙なオブリガートでアニタをリードしていくあたりに彼の真価を見る思いがする。①「ス・ワンダフル~誰も奪えぬこの想い」のガーシュウィン・メドレーではアップ・テンポからスローへと見事なチェンジ・オブ・ペースをみせるアニタといい、スインギーな伴奏で彼女をしっかりと支えるピーターソン・カルテットといい、まさに“ス・ワンダフル”だ。③「オールド・デヴィル・ムーン」では一見投げやりに聞こえる彼女の歌い方が、逆にジャジーな雰囲気を醸し出しているのが凄い。ハーブ・エリスの軽快なギター・ソロも文句なし。“喉に快適ハーブ・エキス、耳に快適ハーブ・エリス”のキャッチ・コピー(?)はダテじゃない。前半のハイライトといえる④「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」ではアニタの専売特許といえる変幻自在のフェイク唱法が炸裂し、全員が一体となって駆け抜けるスピード感がたまらない。
 ミディアムでスイングする⑤「また会う日まで」に続く⑥「ステラ・バイ・スターライト」ではスローな歌い出しからミディアムへとテンポ・アップし再びスローでシメるという①とは逆パターンの構成で、アニタの堂々たる歌いっぷりにはトップ・ジャズ・ヴォーカリストとしての風格が漂う。私がこのアルバムの中で一番好きなのが⑦「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」で、ピーターソンの絶妙なバッキングに乗って軽やかにスイングするアニタの何と粋なことよ(^o^)丿 この粋がわからなければジャズ・ヴォーカルは愉しめない。素晴らしいリズム・セクションを得て自由自在に歌いまくるアニタの悦びがダイレクトに伝わってくるキラー・チューンだ。⑧「ゼム・ゼア・アイズ」でのスキャットを多用しながら疾走するアニタとスリリングなブラッシュのソロ・チェンジ、あまりにカッコ良くて息を呑む素晴らしさだ。⑩「ユー・ターンド・ザ・テーブルズ・オン・ミー」ではレイ・ブラウンの重量級ウォーキング・ベースがアニタにピッタリ寄り添い、うねるようなグルーヴを生み出している。
 このアルバムはアニタにピーターソン・カルテットという、スイングすることにかけては右に出るものがいない最強コンビが作り上げたジャズ・ヴォーカルの金字塔なのだ。

アニタ・オデイ - 二人でお茶を