別れる決心/パク・チャヌク監督
なんだこれは? という作品ではある。崖から転落した男の妻は中国人で、韓国語が多少不自由なところがあるのだが、言葉の使い方が、何か不自然に引っかかるものがある。そうして夫の死に対しても、小さな笑いが見られ、奇妙である。張り込みを始め容疑者として調査するが、アリバイもしっかりしており、一時は立証を断念するのだったが……。
カメラアングルが意外なところから意外な方向に錯綜して、混乱させられる。いや、それはそれで説明的なのだが、死者の眼球の中から外を見るなど、ありえないものが見られるのである。気持ち悪さで、何かとても動揺させられるのだが、これが観進めていくうちに、なんとなく快感のようなものへ変わっていく。まさにパク・チャヌク監督作品へ、傾倒していく自分がいる。何か凄いものを観ている。そういうわくわくする思いと、やはりよく分からなくて混乱してしまう自分自身の洞察力の無さに、困惑しながら観続けている。これは観ている通りに、話が進んでいないかもしれない。何か隠されていて、そうして暗示もあり、それが狙いでもあるのだろう。
物語は、もう一つの殺人へと進んでいく。またしても夫が死んだ中国人のあの女なのである。そうしてこの夫を殺した犯人が捕まる。きわめて疑わしい妻は、またしても容疑者では無かったのだろうか……。
正直に言って、僕自身はよく分からないことだらけだったのだが、それも含めて、やはり面白さに引き込まれてしまった。何か変でありながら、それがどうしてなのか、わかる気もする。それは禁断の愛の所為であって、それにまつわる殺人の所為である。一定の謎解きの内容は明かされる。しかしこれは、本当に誰かが罰せられることなのだろうか。踏み外しているはずなのに、その外れた軌道が異常すぎて、もう元には戻ることができない。それは分かっているが、その先にはいったい何が待っているというのだろうか。
もちろんこれは、映画自体が仕掛けている罠のようなものである。主人公も観客も、同じような罠にはめられてしまう。こういう終わり方でいいはずはない。しかしもう元に戻りようが無いのである。
いやはや、これはもう妙なものを観た方が悪いのである。こういう監督さんがいる限り、僕らは映画から離れることができない。それも含めて宿命だったのだろうか。