なぜ僕に聞かれるのか分からないが、世の中信じられない犯罪が増えて、これから先どうなると思うか? と言われることがある。それも結構な頻度で。何か一部の関係で、そういう言動が流行っているのだろうか。
なぜそんな風に犯罪を捉え、将来の不安を感じているのだろうか。もちろんバラ色の未来が待っているとは簡単には言えないかもしれないが、そのような犯罪が増えていって、社会がどうにかなるような印象があるのだろうか。どんどん人が信用できなくなり、不安定な社会がさらに混迷を深めようとしているのだろうか。そもそもそんなことを、誰かが言っているのだろうか。僕には分かりようが無いが、ある程度頻繁にそういう問いを投げかけられるということは、それなりに一般性のある言動なのかもしれない。
考えられることは、やはりニュースは珍しい事や、ショッキングな内容を先んじて報じる、という性質があることだ。日本においてもそうだし、おそらく世界共通だろう。米国ではいまだに銃の乱射事件などが定期的に発生するが、そのたびにかえって銃の購入が増えるのだという。そういうのは確かに問題が多いように感じるけれど、既に銃を持っている人がいる以上、防衛するには自分も銃を、ということなのだろう。
日本は一般的には銃を持っている社会では無いが、猟銃などの事件が無かったわけではないし、ボウガンのような武器を使用する場合なんかもあったかもしれない。サバイバル・ナイフも買えないわけではないし、包丁の種類も豊富だ。そういえば、最近も切りつけ事件も起こったような記憶がある。殺人事件は年間1000件弱は起こっているというから、ほとんど毎日、なんらかの事件があるのかもしれない。まあ実際にはそれくらいあっても、あんがい報道されてさえいないようだけど。
実のところ凶悪な犯罪事件は減り続けていて、今ほど安全な社会はこれまでなかったわけだが、そのような状況を正確に伝えるような、報道の在り方はむつかしいものだろう。日本のように人口が多く国土が広い国であれば、どこかで何かは起こっているわけだし、犯罪のニュースには事欠かないことだろう。実際には増えていないと知っているとしても、でもやっぱり変な人は多いかもな、くらいの印象はぬぐえないものかもしれない。それにひょっとすると、こういう傾向が変化して、将来は犯罪が増加する可能性がゼロなわけでもない。ちょっと考えにくいだけのことだけど……。
社会的な貧困や、個人の孤立状態が、社会不安を招いているともいわれる。日本はもっとも豊かな貧困をかかえている国だともいわれていて、相対的な貧困と言われるものが、無い訳でもない。そういう負の連鎖から抜けられない貧困世帯があるともいわれ、そうした不幸な環境というものから、犯罪に手を染めるような人が出ないともいえない。もちろんそういう環境下だけから犯罪が生まれている訳では無いが、一つの要因として問題化できるものであるかもしれない。そういう事とどう向き合うか、ということは、考えるべき問題提起であるかもしれない。
さてそうではあるのだが、やっぱりなあ、というのが正直な印象だ。僕一人の努力では簡単に変えられないし、そういう質問を投げかける人を説得する役割が僕にあるとも思えない。誤解したままでいいとも思えないが、人というのはそういう性質を持つ生き物なのかもしれない。そういう人ばかりではないのも確かそうだから、分かっている人でなんとかするよりないのだろうか。